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参照価格制度の導入について
2024.01.22
社会保障審議会医療保険部会は12月15日の総会で、長期収載品と後発品との薬価差の一部を患者に負担させる仕組みについて議論した。
具体的な適用条件などの詳細は確定していないようだが、配布資料6「長期収載品(その3)について」のp.10の計算方法を紹介すると、
・長期収載品の薬価をV0
・後発品の薬価をV1
・患者の医療保険の自己負担率をα
・消費税率をμ
・薬価の差額に対して選定療養を適用する割合をθ
とおくと、
長期収載品と後発品との薬価差額(V0-V1)をベースとして、
・保険給付がなくなったことによって生じる追加負担=(V0-V1)×(1—α)
・選定療養となったことによって課税される消費税負担=(V0-V1)×μ
の合計=(V0-V1)×(1-α+μ)を求め、そのうちのθだけ患者負担を引き上げる。
したがって、患者の負担額は現場のV0×αと合計して「V0×α+(V0-V1)×(1—α+μ)×θ」となる。
このθについて、医療側は1/4という値を主張し、支払い側は1/2という値を主張していたのだが、12月20日に1/4ということで決着した。
このように、保険給付する金額を薬剤ごとに決定し、それを超える薬代については患者が負担するという仕組みを「参照価格制度」といい、海外での先行事例もあることから、過去にも議論されたことがある。
(1) 1997年、橋本政権の与党医療保険制度改革協議会では「日本型参照価格制度」の導入が議論された。薬価基準制度を廃止し、医薬品のグループごとに、保険給付する薬剤費を決定するというものだったが、後発品や院外処方がまだ本格的に普及する前のことでもあり、日本医師会の反対を受けた自民党は白紙撤回した。
(2) 2012年、民主党の野田政権は提言型政策仕分けというものを行い、厚生労働省ではフランスなどの先行事例に基づいた参照価格制度の導入を大臣側から強く求めていた。
いずれの場合も、「患者負担が増える」ことへの医療側の反発と、後発品の安定供給や品質への懸念が問題となった。この点は、後発品の供給をめぐる状況や制度の具体的な方法は変化したにも関わらず、同じ議論が繰り返されている。
今回の議論でも論点は同じだ。ただ、後発品の供給不安は、過去の議論では「懸念」だったが、今では薬局の業務を圧迫する現実の問題となっている。その上で、θについて支払い側は「後発品の供給不安解消に向け、関連制度を大胆に見直すことを前提に、できる限り1/2 とする方向で進めていただきたい」と求めたようだ(12月18日付薬事日報)。
正式な出所を知らないのだが、科学者ジョークにこんなものがある;「ある船が遭難し、物理学者、化学者、経済学者の3人を乗せた救命ボートが漂流していた。そのボートには缶詰が積まれているのだが、あいにく缶切りがない。物理学者はテコの原理を利用して缶詰を開けようとしたが、できなかった。化学者は太陽光と海水を使ってなんとか開けようと試みたが失敗した。それを見ていた経済学者は言った、「まあ落ち着こう。まず、ここに缶切りがあると仮定しようじゃないか」。
これは偏見かもしれないが、政府がある政策について「これこれの問題が解決されることを前提に実施する」というレトリックを使う時には注意が必要だ。論理的には「問題が解決されるまでは実施しない」ということと同じ内容のはずなのだが、政治的には両者は真逆の意味を持ち、前者は「缶切りがそこにあるという前提で話を先に進めること」を意味する。その結果、しわ寄せを受けるのは現場であり、今回の場合、「現場」とは薬局のことだ。薬局業界は、「供給不安が解決されること」という防衛戦をしっかり守らなければならないのではないだろうか。
おそらく、長期収載品や供給不安といった課題にアプローチするために共通する「缶切り」のひとつは、医薬品の選択において処方医や患者の自由裁量権は何を根拠に、どの程度まで認められるべきなのか?という問題であり、この議論を避けて場当たり的なインセンティブ付けを続けていても医療業界全体が疲弊するだけなのではないかと筆者は考える。
「薬業時事ニュース解説」
薬事政策研究所 代表 田代健