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令和6年度介護報酬改定における主要サービスの改定率と訪問介護・訪問入浴介護の見直しポイント
2024.02.20
令和6年1月22日に開催された第239回社会保障審議会介護給付費分科会において「令和6年度介護報酬改定における改定事項」が示され、全サービス・加算の単位数、および見直し項目が了承されました。全体改定率+1.59%(処遇改善+0.98%、その他+0.61%)を、かなり濃淡をつけた改定となりました。
多くのサービス種別の基本報酬はプラスとなっており、新たな加算創設や、既存加算の拡充など、介護事業者にとっては、総じて歓迎できる改定であると思います。しかしながら、最新の介護事業経営実態調査での収支差率が著しく高かった「訪問介護」「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」「夜間対応型訪問介護」「訪問リハビリテーション」の4サービスは、基本報酬がマイナスとなりました。
主要なサービス種別の基本報酬を確認していくと、大幅なプラスとなったのは、介護老人福祉施設+2.79%、介護老人保健施設+2.54%。また一定のプラスは、居宅介護支援+0.92%、特定施設入居者生活介護+0.75%。微増となったのは、通所介護+0.48%、地域密着型通所介護および小規模多機能型居宅介護+0.34%、訪問入浴介護+0.47%、認知症対応型共同生活介護+0.11%となりました。マイナスとなった4サービスは、訪問介護-2.0%、定期巡回・随時対応型訪問介護看護-4.4%、夜間対応型訪問介護-3.5%、訪問リハビリテーションは介護報酬が1単位プラス、介護予防のみ-2.9%となりました。
せっかくの大きなプラス改定の中で、4サービスの基本報酬がマイナスとなったことは大変残念であります。特に、一番懸念されるのは、全国36,000を超える事業所数である訪問介護です。介護事業経営実態調査の収支差率は確かに7.8%(前年対比+2.0%)と平均を大きく上回る数字ですが、個別分析では、前年対比で収入(売上)は大きく変わらず、訪問介護員不足による人件費が減少したため、利益が押し上げられたことが主たる要因であり、必ずしも経営が安定しているわけではありません。サービス付き高齢者向け住宅などの集合住宅併設の訪問介護が、数字を押し上げていることも予測されます。集合住宅併設の訪問介護は、更なる減算が今回示されましたので、該当する事業所では、基本報酬のマイナスと合わせて、ダブルの影響を受けることとなります。
また、訪問介護員の有効求人倍率は15.53倍(令和4年度)と突出しており、人材確保が困難であり、経営環境も厳しいことから、地方を中心に多くの事業所が閉鎖しているとの報告を受けています。訪問介護の事業所数は、集合住宅併設の事業所と、都心部で効率よく経営できる事業所は大きく増加している一方で、地方における在宅向けの訪問介護事業所は減少している状況にあります。
こうした中での基本報酬のマイナスは、『政府•厚生労働省は地方の訪問介護事業所が、閉鎖していくことを歓迎している」といった、誤ったメッセージになりかねません。多くの訪問介護事業者は、未来を見据えることが難しいのではないでしょうか?
ただ、数単位のマイナスですから、加算算定などの対策を取れば、事業継続が危ぶまれるわけではないと理解してもらいたいと思います。それでも、訪問介護事業者の多くは、暗澹たる思いであることは間違いありません。都心部での効率的な経営をしている事業者は、まだ事業拡大も可能ですが、地方は難しいのではないでしょうか?地方の在宅介護を支える訪問介護事業者の多くが、この決定により、張りつめてきた糸が切れてしまわないかと強く危惧しております。
続いて、訪問介護・訪問入浴介護の具体的な見直し項目について確認していきます。訪問介護の見直しは11項目、訪問入浴介護は9項目となり、他サービスと共通する見直し項目は、「処遇改善加算の一本化」「BCP未作成に対する減算の導入」「高齢者虐待防止の推進」「身体拘束等の適正化の推進」「テレワークの取扱いの明確化」「特別地域加算の見直し」等となります。
訪問系サービス、および訪問介護に限定した見直し項目は4つです。
1.特定事業所加算の見直し
2.訪問系サービスにおける認知症専門ケア加算の見直し
3.訪問系サービスにおける口腔管理に係る連携の強化
4.同一等建物居住者にサービス提供する場合の報酬の見直し
「特定事業所加算の見直し」は、単位数はほとんど変化なく、看取りや重度者対応を重視する要件の追加や、中山間地域への評価が行われます。「認知症専門ケア加算の見直し」は、単位数は変わらず、算定要件が緩和されています。「口腔連携強化加算の創設」は、今回最も影響の大きい見直しであり、歯科医療機関・介護支援専門員との連携や、情報提供による口腔管理を行うことで算定できる新たな加算の創設です。1回50単位で1月に1回限りの算定となりますが、基本報酬のマイナスを取り戻すには、是非とも算定するべきであると思います。「同一建物等減算の見直し」は、サービス付き高齢者向け住宅や、住宅型有料老人ホームなどの集合住宅における減算を更に拡大する措置であり、従来の10%減算と15%の他に、12%減算のルールが追加されることになりました。
訪問系サービス、および訪問入浴介護に限定した見直し項目は2つです。
1.看取り対応体制の評価
2.訪問系サービスにおける認知症専門ケア加算の見直し
「認知症専門ケア加算」は訪問介護と同様の対応となります。訪問入浴介護に限定した見直しは、「看取り連携体制加算」の創設となります。看取り期の利用者に対して、医師・訪問看護師など多職種との連携体制構築による1回64単位の加算が創設されます。
今回の令和6年度介護報酬改定の見直し項目は、訪問介護にとっては厳しい改定であることは否めません。しかしながら、一本化された処遇改善加算においては、全サービスで最大の加算率24.5%の算定が可能となります。訪問介護員の確保に向けて、着実に処遇改善加算の上位区分を算定することが重要な対策の1つとなります。さらに、新設加算の算定や、既存加算の算定を今一度検討することが必要となります。訪問入浴介護は、看取りや重度者への適切な対応について、これまで以上に心がけていくことが大切となります。
全国介護事業者連盟
理事長 斉藤正行