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うつ病と認知症 ―基礎と薬剤師のかかわり―

2024.02.20

1月29日にMeiji Seikaファルマと一般社団法人ファルマ・プラス共催のオンラインセミナー「うつ病と認知症―基礎と薬剤師のかかわり―」が開催された。服薬指導において役立つ情報を中心に、内容を紹介する。

 

【セミナー講師と演題】

演題:うつ病と認知症―基礎と薬剤師のかかわり―

講師:順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院メンタルクリニック 教授 馬場元氏

【目次】

  1. うつ病について
  2. うつ病の治療
  3. アルツハイマー型認知症の治療
  4. レビー小体型認知症の特徴
  5. その他の認知症と治療法


 1.うつ病について

うつ病や認知症を含む精神疾患の患者数は年々増加している。

うつ病の有病率は調査によってばらつきがあるが、生涯有病率(治った人も含めて、これまでに一度でもうつ病になったことがある人の割合)は6.614.0%で、715人に1人はうつ病を経験し、誰でもなり得る疾患である。男性に比べて女性が23倍多く、新型コロナウイルス流行下においては約4割の人が軽度のうつ状態、約2割の人はうつ病になっている可能性があったという報告がある。

続いて、正常な抑うつ反応とうつ病、その間の適応障害の違いについて以下のように説明した。

・正常な抑うつ反応:正常な心の反応で、好まざる出来事に対して抑うつ状態となる。社会適応は保たれており、良いことがあると少し気が晴れ、原因がなくなればすっきり良くなる。

・適応障害:心因性の疾患で、好まざる出来事に対して抑うつ状態となる。社会適応が障害される。

・うつ病:脳の機能障害で、慢性の持続的なストレスに対して過剰に適応することによって抑うつ状態となる。2週間以上続き、原因がはっきりしない場合も多く、良いことがあっても気が晴れない。

2.うつ病の治療

うつ病は発症後どんどん悪化していき、治療が奏功すると数週間かけて徐々に改善していく。症状がなくなった状態を「寛解」と呼び、その後病前同様の社会生活ができるようになった段階を「回復」と呼ぶ。薬剤師は患者に服薬の重要性を説明し、症状がなくなってからも無断で中断しないように指導することが求められる。

軽症のうつ病では、プラセボと抗うつ薬の効果に差がないためまずは心理的アプローチが推奨される。中等度以上のうつ病では抗うつ薬とプラセボに効果の差がみられるため、抗うつ薬による薬物治療が推奨されている。

また、うつ病はプラセボ効果が出やすい病気のため、服薬指導時の心理的アプローチも重要な治療になると述べた。具体的には「この薬を使って良くなった患者さんがいましたよ」のように、薬の効果に期待感を抱かせることがポイント。

一方、うつ病はノセボ効果(心理的要因によって副作用が生じる)も出やすいため、ノセボ効果を出さないような服薬指導の工夫が求められる。具体的には「〇〇のような副作用がありますが、100人いても94人は出ませんよ」のように安心してもらえる伝え方を意識する。

3.アルツハイマー型認知症の治療

認知症のうち、65%以上を占めるのがアルツハイマー型認知症で、初期症状は一言で表現すると「覚えられない病気」である。ゆっくり発症してゆっくり進行するのが特徴で、記憶のインプットできないため新しい情報は覚えられないが、過去の記憶は比較的保たれる。

アルツハイマー型認知症の新薬レカネマブが登場したが、最適使用推進ガイドラインの対象薬で処方医や施設に制限があること、2週間に11時間かけて点滴静注が必要で患者や介護者の負担となること、対象患者にも制限があること等により、どの程度使用されるかは現時点では明確ではなく、しばらくはこれまでどおりコリンエステラーゼ阻害薬、NMDA受容体遮断薬が治療の中心となることが考えられると説明した。

認知症治療における薬剤師の関わりとして、以下の6点が挙げられる。

・併用薬剤の影響の確認

・有害事象の確認

・アドヒアランスの確認(飲み忘れだけでなく、飲んだことを忘れてまた飲んでしまうことが懸念点)

・患者の好みや便宜性の観点からの剤形の提案(コリンエステラーゼ阻害薬は剤形の種類が多く、患者の好みに合わせて処方が可能)

・介護者の服薬管理の観点からの剤形の提案

・その他アドヒアランス維持のための提案など

4.レビー小体型認知症の特徴

レビー小体型認知症は、以下のように多彩な症状がみられる。

身体症状:嗅覚障害、頑固な便秘、立ち眩み、寝言が増える、動作緩慢、転びやすい

精神症状:うつ症状、幻視、妄想

認知機能障害;視覚認知障害、絵や図が下手になる、車庫入れが下手になる、道に迷う

特に、6080%に幻視の症状がみられ、典型的にはありありとした人や小動物が見られるが、初期には何かが視野の角をさっと通り過ぎる通過幻視、視野外に人の気配を感じる実体意識性、壁のシミが人の顔にみえるパレイドリアなどが認められる。

症状に合わせた治療が基本となり、ガイドラインに詳細に記載されている。

5.その他の認知症と治療法

・前頭側頭葉変性症:有効な抗認知症薬はない。コリンエステラーゼ阻害薬はBPSD増悪の危険性がある。ガイドラインでは抗うつ薬のSSRIが推奨されている。

・血管性認知症:適応になる薬はないが、ガイドラインではコリンエステラーゼ阻害薬、NMDA受容体遮断薬が推奨されている。

・軽度認知障害:正常に戻る人が年間1641%、認知症へ進行する人が515%と報告されており、正常に戻る人の方が多い。このため安易に抗認知症薬を投与すべきではなく、生活習慣病などの管理、適度な運動などが推奨される。アルツハイマー型認知症が背景にある患者は抗認知症薬で効果が得られる場合もあり、一部の人はレカネマブの対象になるため、今後軽度認知障害患者の受診が増える可能性がある。

 

セミナー主催:一般社団法人ファルマ・プラス https://pharma-plus.info/

レポート作成:株式会社エニイクリエイティブ MIL編集部


うつ病や認知症をはじめとする精神疾患の患者数は年々増加する傾向にありますが、今回のセミナーは患者さまへの服薬指導など対応方法について参考になる内容だったと思います。

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《EM-AVALON編集部より》

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