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介護事業所におけるBCP策定方法の再確認

2024.02.27

【目次】

  1. 業務継続計画未実施減算が令和6年度より創設
  2. 何をして何をしないかを決めるのがBCP策定のポイント
  3. 考慮しなければいけない事項
  4. 職員との合意形成も重要


1.業務継続計画未実施減算が令和6年度より創設

令和6年度介護報酬改定についての詳細も公表され、改正時期である4月も近づいてきました。

今回の改定で全てのサービスに共通する大きなテーマは「業務継続計画未策定事業所に対する減算の導入」ではないでしょうか。

令和6年度介護報酬改定における改定事項について[]

 

業務継続計画の策定そのものは、前回改定で運営基準上に義務付けられ、3年間の経過措置期間が設けられたところでした。今回の改定のタイミングで経過措置期間が終了となるわけですが、それと同じタイミングで未実施減算が創設されるのは(1年間の経過措置期間があるとはいえ)大きな衝撃だったのではないでしょうか。筆者の元にも、駆け込みで「BCP策定を手伝って欲しい」というご相談を多くいただいております。

今回のコラムでは「まだBCPを策定できていない」という事業者様向けに、作成方法の再確認と迷いがちなポイントの考え方についてお伝えしていきます。

2.何をして何をしないかを決めるのがBCP策定のポイント

介護事業所におけるBCPの策定の最も基本的な事項として挙げられるのは、ガイドラインとひな型が既に公表されており、基本的にはそれに沿う形で策定を進めていくことになります。厚生労働省の「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」から確認することが可能です。[]

「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」[]

 

研修の動画も見ることができるので、併せて参考にすると良いでしょう。基本的にはこれらに従って策定を進めていくことになります。

策定を進める中で「これはやらなければいけないのですか?」と聞かれるケースが多い事項がいくつかあります。例えば自然災害編の中では「優先する業務」のひな型に掲載されている事項や飲料水の確保、「他施設との連携」「地域との連携」等です。

そう聞かれた際、よくお伝えさせていただくのは“しなければいけない事やできる事、できない事を見極めた上で、何をして何をしないかを決めましょう”ということです。

例えば特別養護老人ホームの様な施設であれば、24時間365日入居者の生活と生命を支えなければいけないので“しなければいけない事”の量は他サービスに比べて格段に増えるでしょう。また、地域福祉の拠点としての側面も大きいことから、事前の協力関係の協議等についても大切にすべきです。

反対に、単独の在宅サービスであれば、そこまでの機能を求められないケースも多いでしょう。通所介護等でしたら、緊急時に一時休業するといった選択肢も出てきます。自事業所のリソースを考慮した上で、適切な方針を定めることになります。

3.考慮しなければいけない事項

では、やらないと決めたからそれで終わりかというと、そういうわけにはいきません。実際にそういった方針を取るか検討する場合に考慮すべきことは何点かあります。

 

①利用者の生活をどう担保するか

介護サービスを利用している方は当然ですが皆要介護認定者となります。もしサービスの提供を停止もしくは縮小するとした場合、適切な支援が受けられるかどうかを設計することが平時からサービス提供をおこなっている側として求められます。

安否確認をどうするか、避難等が必要になった時の支援が必要か、避難できる福祉施設はあるか等、事前にサービスを提供している事業者間で協議して、お一人おひとりの方向性について定めることが重要です。その際に、もしかしたら自事業所で直接支援をおこなわなければいけない利用者が判明するかもしれません。その時は、介護サービスを提供する事業者の責務として、業務を継続することが求められます。

 

②サービスを提供しない(縮小)する期間の減収をどう賄うか

利用者へのサービスを停止もしくは縮小した場合、当然のことながら介護報酬は減収となります。どの程度の期間それをおこなうのか、またそれに耐えられるのかについて、事前に考慮しておくことが重要です。

 

事前にこれらを総合的にシミュレーション、検討した上で、自事業所の方針を定めることが重要です。

また、その上で地域における自社の役割も再確認が必要です。例えば、一時的にサービスを停止する場合、地域における介護の担い手のリソースが浮くことになります。複数事業所を展開している事業所の場合、デイサービスを休止して一時的に特別養護老人ホームの人員に充てるといったことも例として挙げられていますが、単独事業所でも地域単位でこの考えを持つことが重要です。

例えば、利用者が一時的に避難する場所として利用させてもらうことを事前に確認した上で、人的リソースを提供するといった連携の方法もあります。そういった選択肢もあるということを考慮した上で“しなければいけない事やできる事、できない事“を見極めた上で、”何をして何をしないか“を決めていただければと思います。

4.職員との合意形成も重要

また、BCP策定においては職員との合意を築くことも重要です。自然災害、感染症のいずれにしても、非常時に稼働することになる職員の協力無くして成り立ちません。事前に協議した上でしっかり合意を取っておくことが大切となります。

事務局や管理者がまずは書類をまとめてしまおうと現場抜きで進めるケースが多くあります。もちろん、大きな方向性等については幹部クラスの中で検討を進めることになりますが、優先業務の選択や備蓄品等の状況確認等、現場の協力は不可欠となっています。その際に協力を仰ぐこととなりますので、方向性や職員に求めること、その合意については、説明の上、得ておきたいところです。

実際の非常時の介護現場では、職員が責任感から自主的に参集し、利用者の支援をおこなうというケースは非常に多いです。それでも大きな負荷となることは間違いありません。BCP策定の目的の1つとして「職員の安全確保」が挙げられています。「過重労働やメンタルヘルス対応への適切な措置」が求められていますので、事前にその運営の方向性については検討しておくことが大切でしょう。

 

以上、簡単にではございますが介護事業所における業務継続計画の策定について解説いたしました。書類の整備だけではなく、非常時における実際の運用に耐えうるような、実践的なBCPを策定していただけましたら幸いです。

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[ⅰ] https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_37407.html

[ⅱ] https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/douga_00002.html

株式会社スターパートナーズ代表取締役

一般社団法人介護経営フォーラム代表理事

脳梗塞リハビリステーション代表

MPH(公衆衛生学修士)齋藤直路