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介護事業所における人事制度構築のポイント③

2021.11.29

介護事業所における人事制度構築のポイント③

株式会社スターパートナーズ 代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム 代表理事
脳梗塞リハビリステーション 代表
MPH(公衆衛生学修士)
齋藤 直路

 

        • キャリアパス制度の構築のポイントと流れ

        最終回の今回はキャリアパス制度についてご説明します。

        前回、解説させていただいた通り、人事評価制度は「実績・姿勢」を評価する制度であるのに対し、キャリアパス制度はその性質上、「能力・技術」を評価します。

        「法人内資格制度」と呼ばれることもあり、その名の通り試験などを実施し、一定の基準を満たすことで次のクラスに上がり、場合によっては給与などの待遇とも連動します。一定の基準に達したら管理者になれる、などの基準と連動するケースもあります。

        構築については、人事評価制度と同様ワーキンググループを組織し、現場に即した設計をするとともに法人の方針との調整を図っていきます。

        段階はおおむね4~6段階に分かれ、最も初歩的な段階は入職後3カ月程度、入所施設であれば順調にいけば一人夜勤を実行できる程度のスキルを目安に設定するケースが多いです。そこから、最上位を管理者・施設長クラスに設定し、職員様の人数や現場の状況に応じて、階層をどの様に分けるかを検討していきます。

        人事評価制度は、各階層ごとに評価項目が設定されていたのに対し、キャリアパス制度は技術の発展という観点から、大まかな評価項目は全階層統一、その中の細かな項目は階層ごとに設定されるという形になります。

        「キャリアパス制度のイメージ」(スターパートナーズ社制作)

        例えば「介護技術」というカテゴリーがあったとき、初期の階層は基本的技術の取得が項目となりますが、それが発展していくと、個別対応や状況判断のスキル、さらにはそれを指導するというスキルに発展していきます。

        また「理念」という項目があったとき、それは初期段階ではまずは「理念」を覚えることから始まりますが、それが発展していけば「理念」と実践の関係性の理解や、自ら理念を実現するために何をすべきかを考える力が試されることになります。

        この様に、段階を経ながら、最終的には指導者としての成長を見える化していくのがキャリアパス制度の目的となります。そして、何を基準の項目とするかについても、法人ごとに特色が出てくるのは人事評価制度と同様です。

        • キャリアパス制度の構築と運用

        階層が上がるごとに各カテゴリーで求められる評価項目のレベルをアップしていくこと(特定のスキルがレベルアップしていくこと)で、自然なキャリアアップを明確な形で示すことができるようになります。各階層でどんなスキルが求められるかについて構築した後は、それぞれの細かい定義をおこなっていく必要があります。

        例えば「新人教育」という項目があったとしても、

        ・新人教育ができる

        ・新人に対して基本的な介助動作を指導できる

        ・新人に対して基本的な介助動作を、その意図も含めて適切に指導できる

        では、その中身の意味するところは全く異なりことなります。どのレベルまで求められるかを、具体的に示さなければなりません。また、それを定義する上では法人として明確な基準を持つことも必要です。キャリアパスを構築する際のワーキンググループで、しっかりと議論を固めておきましょう。

        そして、それらの基準をクリアしているか否かを判断する方法として「能力評価」と「試験」の2つが挙げられます。

        「能力評価」は「人事考課制度」と同様、定義に基づいて自己評価、他者評価をおこない、現状についての認識を定めます。これをもとにして現段階の能力診断とフォローを同時におこない、次のキャリアアップのために必要な取り組みをチームで確認し合います。また、普段の活動のみでは確認しづらい分野、知識や各場所でおこなわれている介護のスキルについては、試験を作成し一定基準をクリアすることで現段階のキャリアをパスしたものとみなす場合もあります。

        いずれか、または両方の手法を通じて、定期的に能力評価を実施することで、その時々の能力に応じたキャリアアップや、次へ進むための指導が行えるというのがこの制度の特長になります。

        • 人事制度構築に関する総括

        これまで3回に渡りまして、人事制度構築に関する考え方や注意点、その具体的な内容についてお伝えしてきました。

        今回が最終回となりますので、お伝えしてきた内容について改めて総括させていただければと思います。

        コラムの一番初めで、人事制度について「教育と人材定着を支える制度」と定義しました。

        その上で必要なのは、まず入り口の段階で採用時のミスマッチを無くすこと、そして、人間関係を調整する優秀なミドルマネジメント層を教育するということだとご説明しました。

        ミスマッチの防止には、採用活動の段階で、法人の考え方をしっかり伝えるマインドセットをおこなうこと、それを行うための仕組みとして「採用面接時に使用する説明資料」を整備する重要性についてお伝えしました。

        そして、入職後に改めてそれを教えこむための「研修テキスト」を整備し、座学での研修をおこなうとともに、それをOJTで実践・指導するために効果的な「チェックリスト」についてご紹介しました。特に「チェックリスト」の整備は教え漏れを無くせる事、モチベーションアップにつながること、複数人での指導に適していることから強くお勧めさせていただきました。

        そして、是非これも実施していただきたいこととして「定期定なフォローアップ面談」をご提案しました。面談者が変わっても安定した面談をおこなえるよう「面談シート」の書式を整える手法についてご紹介しました。

        前回からは、入職後の職員様を中堅、リーダーへと成長を促していくための「人事考課制度」「キャリアパス制度」の内容についてご紹介しました。

        姿勢や行動、実績を評価する「人事考課制度」に対して、「キャリアパス制度」はその方のスキルを評価する点で異なり、いずれも人に値段をつけるためではなく成長を見える化するための制度であることを、しっかり職員様に伝えていただくことが必要であることをお伝えしました。

        そして、これらの制度を構築する際は、現場になじんで、実際の運用に耐えうるものとするため、そして職員様の意識を統一するため、ワーキンググループを組織して法人独自の制度を構築することをお勧めさせていただいて参りました。

        やはり「法人の考え方を伝える・身に着けさせる仕組み」をいかにつくるかが、定着・教育の両面でとても重要であるということになるかと思います。

        考え方も、成長する速さや方向性も人それぞれです。人材不足と言われるこの業界の中、一定の水準を保ちながら、同じ方向を向く仲間を募りそして導いていくためには、こういった仕組みづくりが必ず必要となりますので、是非、このコラムをきっかけに新たな取り組みに挑戦していただけましたら幸いです。