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介護事業所の収支改善施策①

2021.12.01

 

【目次】

  1. 介護事業所における収支改善のポイント
  2. 収支改善における基本の3つの視点
  3. 「①固定費を減らす視点」を考える
  4. 人件費削減の視点から考える「介護事業におけるオペレーション改善」

 


1.介護事業所における収支改善のポイント

昨今の介護報酬報酬改定の状況を鑑みると、利益(収支差額)アップの為には、収支改善が不可欠だと考えられます。一般的に、収支改善といえば、人件費を中心とした支出の見直し、売上のアップなどが考えられるでしょう。しかし、制度ビジネスである介護事業は、人員基準により人件費はそう簡単に削減することができず、そもそも現場からは「人が足らない!」と声が挙がります。それではどのように収支改善していけば良いでしょうか。本稿では、介護事業所特有の事情を加味した収支改善のポイントについてお伝えしていきたいと思います。

 

介護事業所における収支改善は、単純に利益アップを指すのではなく、その利益の源泉を分解し、それぞれの要素毎に改善していく視点が必要となります。具体的には、 

・支出:時間外労働(特に残業代削減)、物品等の削減(オムツ等)、経費の見直し、サービスの見直し(削減)、オペレーション改善・機器の導入等による業務プロセスの効率化等

・収入:加算の取得、稼働率のアップ、事業付加等 

の項目が挙げられます。

 

弊社のご支援先の事例をご紹介します。あるデイサービスでは、スタッフの休憩が取れず、残業が多く出ていました。目標を「サービスの品質を落とさずに、職員が納得した上で、残業を●●%減らす」と設定し、収支改善のプロジェクトチームを結成しました。

 

着手した結果、3ヵ月後には、全スタッフが休憩を取りながら、残業を0近くにすることができました。取り組んだ主な内容は、「全ての職員の1日の行動のすべてを記録し可視化すること」「想定していた業務・オペレーションとの乖離を確認」「提供サービス(行動)のうち非効率または不要な業務の見直し・削減」「新たなオペレーションと機器の導入(今回はインカム)」です。詳細は後述しますが、しっかりと着手することで、確実に成果がでるのが介護事業における収支改善です。

 

2.収支改善における基本の3つの視点

まずは収支改善の一般的な視点から、介護事業における収支改善について考えていきます。一般的に収支改善には「①固定費を減らす視点」「②変動費を減らす視点」「③売上を増やす視点」の3つがあります。

 

①固定費」とは、支出の中でも、売上の増減に関わらず、安定的(固定的)に出ていく支出のことです。これは、人件費、地代家賃、福利厚生費、水光熱費、などがあたります。介護事業においては、その中でも人件費が特に多くの割合を占めます。具体的には、通所介護(デイサービス)は58.566.1%、介護老人福祉施設が61.966.%となっています)。まずは自社と同規模の全国の統計値がどれだけ乖離(または同程度)であるか確認することから始めてみても良いでしょう。「介護事業経営概況調査」や「介護事業経営実態調査」等で確認することができます[ⅰ] [ⅱ]

 

②変動費」とは支出の中で、売上(客数)の増減に比例して増減する費用のことで、派遣社員や契約社員などの給与、職員の残業手当、物品などの費用等になります。介護事業で考えると、利用者の数が増えれば食費の売上が上昇しますが、それと同時に食材原価が上昇します。この場合、食材原価は変動費に該当することになります。

 

③売上」は、介護事業においては、介護保険収入が大部分を占めます。売上の構成は、様々な視点がありますが「客数×客単価」で考えることが出来ます。例えば、定員30名のデイサービスの稼働率が80%、登録人数が60人、売上が600万円だとすると、客単価は10万円になります。これは介護保険収入+自己負担+その他の売上を加算した、1人あたりの平均値になります。計算上、客数が1増えると、この分の収入が増加すると考えると、事業計画等の理論のうえでの計算がしやすくなります。

 

3.「①固定費を減らす視点」を考える

3つの視点毎に検討していきます。初めに固定費の削減についてです。固定費として考えられるのは、地代家賃です。これは事業継続の上で必ずかかる費用であり、多くの部分を占めます。昨今の環境を鑑みるに、飲食店を中心に撤退や、社員のリモートワーク化により、空きテナントが目立つようになりました。もちろん施設基準に則ったテナントでないと介護事業は難しいですが、平時では空いていない場所の優良なテナントに出会えることも珍しくありません。この機会に、一度、事業所の移転を含めた固定費削減を検討してみてはいかがでしょうか。また、移転でなくとも、周辺相場は常にウォッチし、変動があった際には、テナントオーナーへの家賃減額の交渉をすることも検討も必要です。実際、新型コロナウィルス感染症禍では、家賃の3~4割の減額に成功した例もあります。

次に、人件費です。まずは前出の統計データ等より人件費の水準と自社の水準を比較し、削減目標の目安の検討を実施することが必要です。次に、人件費の見直しは、単純な「人員削減」というわけではなく、残業代を中心とした「余分な人件費」の削減と設定すると良いでしょう。そして多くの場合、人件費増は仕事量に結びついています、つまり、介護事業における人件費の見直しとは、仕事の内容の見直しとなります。仕事の見直しにおいて気を付けるべきなのは「過剰なサービス提供」です。介護職として利用者を前にすると、「もっと支援したい事」が沢山あると思います。それ自体はとっても素晴らしいことでです。しかし、自費のサービスのように自由な価格設定ができない制度ビジネスであり、介護報酬という決まった単価の中でサービスを提供していかなければならない、介護事業ではその範囲内でどれだけのサービスを提供できるかを慎重に見定める必要があります。ある部分ではシビアに「これは提供しない」と決めることも重要になります。つまりはオペレーションの改善と一緒に考える必要があります。

 

4.人件費削減の視点から考える「介護事業におけるオペレーション改善」

介護事業におけるオペレーション改善は、「全ての職員の1日の行動のすべてを記録し可視化すること」「想定していた業務・オペレーションとの乖離を確認」「提供サービス(行動)のうち非効率または不要な業務の見直し・削減」「新たなオペレーション(サービス)と機器の導入」が基本の流れとなります。

 

全ての職員の1日の行動のすべてを記録し可視化すること」は、対象となる事業所で全員のスタッフに1日のサービスの流れを1週間記録すると良いでしょう。すると送迎の開始・完了時間のばらつきが入浴時間の開始・終了時間の遅れにつながり、1日のプログラム全体に影響を及ぼしていたり、記録のために残業が常態化している事業所で、日中の一般雑務等、必ずしも介護職がおこなう必要のない業務に過分に時間が割かれてしまっていた等の非効率な部分が分かります。また、当初想定していたオペレーションと異なる場合が散見されるでしょう。これを「想定していた業務・オペレーションとの乖離を確認」の部分で、整理します。

「オペレーションの可視化の帳票イメージ」(スターパートナーズ社作成)

そして、事業所のスタッフ全員で「提供サービス(行動)のうち非効率または不要な業務の見直し・削減」に着手します。例えば、現在実施している1日の流れが本当に今提供したいサービスなのか、当初の予定とはどの程度異なっていてその変更点を今後も継続する必要があるのかどうか等を、改めて検討することで、休憩のとり方や利用者に対するサービス提供のあり方を考える機会になります。オペレーションの見直しによりできた時間で、現在は外注している(例えば洗濯や掃除など)事業所運営に関係するものをスタッフが実施することで、コスト削減につながることもあります。

ここで、弊社のご支援先の事例を紹介します。ある特別養護老人ホームでは看護職員や夜勤明けの介護職員の残業が常態化してしまっていました。分析を進めていくと、看護職員介護職員が代替可能な業務や一部の介護業務を担っていることや、介護業務が完了した後に記録を開始するため更に退勤時間が遅くなってしまっているという状況が分かりました。これに対する対策として、介護補助確保し専門性の必要ない業務負担を介護職員の業務から分けるとともに、介護福祉士が認定特定行為業務従事者となり、看護職員の業務の一部を介護職員が代替することをおこないました。結果として、看護師や介護福祉士といった基本給の高い職種の残業を介護補助が代替するという形になり、人件費の抑制にもつながりました。

上記を経たうえで、さらに人件費が多いということは、人員数に起因する場合が多いでしょう。ここで人員削減に踏み切る前に、最後に考えて欲しいことがあります。昨今の採用環境の厳しい中で人員が豊富にいるということは大変すばらしいという一面もあります。例えば、何か、新しい事業の開始、サービスの付加をすることで、新しい売上を確保するということも考えられます。そういった新しい可能性についても、ぜひ、検討して頂ければと思います。

 

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[ⅰ] 介護事業経営実態調査
[ⅱ] 介護事業経営概況調査

 

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筆者:株式会社スターパートナーズ代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム代表理事
脳梗塞リハビリステーション代表
MPH(公衆衛生学修士)
齋藤直路

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