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生産性向上に資するガイドラインの読み解きと現場体制の構築

2024.04.15

【目次】

  1. 利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会開催の義務化
  2. ガイドラインの実行には労力がかかることも理解する
  3. 直ぐに取り入れられることを上手く使う


1.利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会開催の義務化

 今回の介護報酬改定は、「処遇改善加算の一本化」と「訪問介護の基本報酬減算」という大きな改定があった以外は、「虐待の発生又はその再発を防止するための措置の未実施」に対する罰則の規定、「業務継続計画未策定」に対する罰則の規定、「身体的拘束等の適正化のための措置の義務化」等、体制整備の面が強かったという印象を受けました。

「利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会(以下、生産性向上委員会)開催の義務化」もその1つといえます。
今回はこの生産性向上委員会とガイドラインの活用方法について解説させていただきます。

尚、本稿と同一テーマの詳細の解説となる無料オンラインセミナー「生産性向上に資するガイドラインの読み解きと現場体制の構築2024年5月24日に開催されます。どなたでもお気軽に参加いただけますので、本稿にご興味をお持ちいただけた方は、是非、お気軽にご参加いただければと思います。

 

「生産性向上委員会開催の義務化」は、主に施設系、多機能型サービスを対象としたものになります。建屋があり、かつ24時間介護を提供するサービスが対象となっているといえます。

解釈通知では、異なるサービスの共通部分をまとめると、主に以下の様な説明がされています。[]

〇利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討する
 ための委員会の開催

 

(略)介護現場の生産性向上の取組を促進する観点から、現場における課題を抽出及び分析した上で、事業所の状況に応じた必要な対応を検討し、利用者の尊厳や安全性を確保しながら事業所全体で継続的に業務改善に取り組む環境を整備するため、利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会の設置及び開催について規定したものである。なお、本条の適用に当たっては(略)①3年間の経過措置を設けており、令和9年3月 31 日までの間は、努力義務とされている。

本委員会は、生産性向上の取組を促進する観点から、管理者やケア等を行う職種を含む幅広い職種により構成することが望ましく、各事業所の状況に応じ、必要な構成メンバーを検討すること。なお、生産性向上の取組に関する外部の専門家を活用することも差し支えないものであること。

また、本委員会は、定期的に開催することが必要であるが、②開催する頻度については、本委員会の開催が形骸化することがないよう留意した上で、各事業所の状況を踏まえ、適切な開催頻度を決めることが望ましい

あわせて、本委員会の開催に当たっては、③厚生労働省老健局高齢者支援課「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」等を参考に取組を進めることが望ましい。また、本委員会はテレビ電話装置等を活用して行うことができるものとし、この際、個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」、厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」等を遵守すること。

なお、事務負担軽減の観点等から、本委員会は、④他に事業運営に関する会議(事故発生の防止のための委員会等)を開催している場合、これと一体的に設置・運営することとして差し支えない。本委員会は事業所毎に実施が求められるものであるが、他のサービス事業者との連携等により行うことも差し支えない。委員会の名称について、法令では「利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会」と規定されたところであるが、他方、従来から生産性向上の取組を進めている事業所においては、法令とは異なる名称の生産性向上の取組を進めるための委員会を設置し、開催している場合もあるところ、利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策が適切に検討される限りにおいては、⑤法令とは異なる委員会の名称を用いても差し支えない

「基準省令に関する通知(解釈通知等)」※下線・番号はスターパートナーズ社[ⅰ]

 

①について、経過措置が3年間であることが明示されています。

②について、開催頻度には規定がないことが示されています。これは、後述する、委員会が取り扱うテーマの内容によって、時として変動することも想定されるでしょう。

③について、運用する上で「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン(以下、ガイドライン)」を活用されることが明記されています。

④について、他の委員会との一体的な開催や、他サービスと連携しての開催も認められるものとされています。

⑤について、法令と異なる名称でも構わないということなので、短く分かりやすく、生産性向上委員会と呼称する事業所が多いようです。

一般的な委員会の様に規程を策定し、それに従った運営がおこなわれることになりますので、上記条件を確認した上で、自事業所での運営について定め、委員会を設置する形となるでしょう。

 

2.ガイドラインの実行には労力がかかることも理解する

「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」をはじめとして、介護事業所における生産性の向上の取り組みについては「介護分野における生産性向上ポータルサイト」が開設され、その中で様々な資料が取り揃えられています。[ⅱ] [ⅲ]

「介護分野における生産性向上ポータルサイト」[ⅲ]

 

eラーニングや研修教材等、非常に豊富な資料が取り揃えられています。全てを網羅するには時間もかかりますので、まずはやはり、ガイドラインに沿った取り組みをおこなわれることを推奨します。

ただ、その場合は注意が必要になります。それは、ガイドラインの内容がかなり実務的に優れたものとなっている分、実行ベースでは相応の労力がかかることが想定されるという点です。

ガイドラインにおける改善活動は「①改善活動の準備をしよう」「②現場の課題を見える化しよう」「③実行計画を立てよう」「④改善活動に取り組もう」「⑤改善活動を振り返ろう」「⑥実行計画を練り直そう」の6ステップに分かれています。これを実際の実行ベースで考えると、月に1回委員会を実施したとして、1回りするのに恐らく1年近くかかってしまいます。ガイドラインに沿った取り組みをおこなうと決定した場合、この程度のコストがかかるのだということを想定した上で、開催頻度を考えることが重要でしょう。

もし、リソース的にすぐに実行に移すのが難しい場合、ガイドラインの内容をまず実行に移すのではなく、ガイドラインの読み合わせやポータルサイトの教材を活用した研修と意見交換、委員の研究報告等の内容を実施していくことが想定されます。こうすると、ある程度開催に間が空いたとしても法人内での知識は蓄積されるとともに、実行ベースのイメージを共有したり、一部可能なものだけ試験的に実行するなどの判断をすることもできます。そうして下地を作った後、プロジェクトを法人全体で推進すべきだというタイミングで、開催頻度を増やして実行ベースに乗せるということもできるでしょう。

 

3.直ぐに取り入れられることを上手く使う

ガイドライン自体の構成は大きく2つに分かれていると考えています。
1つ目は「業務改善への具体的なステップとそれに活用できるツール集」で2つ目は「事例」です。

「業務改善への具体的なステップとそれに活用できるツール集」は前項で触れた、実行ベースの具体的な手順が示されています。これが6段階のステップになっているのは先ほどお伝えした通りですが、この中でも「②現場の課題を見える化しよう」が、現場の状況を把握するために様々な取り組みが必要になります。

「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」より[ⅱ]

 

状況の把握に必要な様々なツールが示されており、実際に有効です。
ただ、調査そのものに一定の時間がかかりますし、その結果から実行計画を立てていくのも、あまり間が空いては意味がありません。
そういった意味でも、実行ベースに乗せると頻回な委員会の開催が必要となります。

一方、「事例」では「1. 職場環境の整備」「2. 業務の明確化と役割分担」「3. 手順書の作成」「4. 記録・報告様式の工夫」「5. 情報共有の工夫」「6. OJTの仕組みづくり」「7. 理念・行動指針の徹底」という7つのカテゴリーそれぞれの、実際に業務改善に成功した事例が示されています。

「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」より[ⅱ]

 

直ぐに取り入れられるものもありますので、こういった部分から確認し、良いものがあれば取り入れるということも有効でしょう。

 

生産性向上委員会とガイドラインの扱いについて簡単にご説明させていただきました。
より詳しい解説につきましては2024年5月24日に開催されます無料オンラインセミナー「生産性向上に資するガイドラインの読み解きと現場体制の構築」にてお届けできればと考えております。ご興味をお持ちの方は、是非、ご参加いただけますと幸いです。

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[ⅰ] 令和6年度介護報酬改定について
[ⅱ] 「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」
[ⅲ] 「介護分野における生産性向上ポータルサイト」



株式会社スターパートナーズ代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム代表理事
脳梗塞リハビリステーション代表
MPH(公衆衛生学修士)齋藤直路