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物流2024年問題と薬局

2024.04.22

 薬局業界ではあまり話題になっていないようなのだが、我が国では働き方改革関連法案と総称される一連の法案が2019年4月から順次施行され、今年の4月からトラック運転手の1ヶ月間の残業時間の上限が19時間減ることが「2024年問題」として注目されている。これによってさまざまな変化が生じると言われており、たとえば4月8日に、コンビニ業界2位のファミリーマートと3位のローソンが東北地方で冷凍食品について共同配送を始めると発表した。

 

 このような動きから類推すると、現在卸各社がそれぞれ平日に1日1回ないし2回配送しているサービスも将来的に共同配送に集約されるかもしれない。さらには、コンビニの配送網を卸が利用する可能性もある(過去には大手宅配事業者が医薬品の卸事業に参入しようとしたこともあり、物流における業種間の壁は意外に低いと思われる)。

 

 医薬品の流通における2024年問題については、厚生労働省の「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」の第35回会合(2023年9月28日)で取り上げられた(*1)。議事録を見ると、構成委員の立場のせいか流通問題の中でも価格交渉と安定供給(つまり買う側の都合)に議論が集中し、物流そのものに対する関心は低そうな印象をうける。議事録の上では、2024年問題については卸の代表委員が最後に一言触れただけなのだが、その一言で指摘しているのは、「流通問題が卸社員の離職の増加や新卒社員の採用の滞りといった影響をもたらしている」という点だ。これについて薬局は当事者であるという意識を持てているのだろうか。

 

その次の第36回会合(2023年12月21日)の議事録はまだ公開されていないが、配布資料をみると医療用機器の先行事例をそのまま踏襲している。この懇談会を踏まえて厚生労働省が3月13日付で発出したと思われる通知(*2)では薬局・医療機関で可能なこととして

 ・  早めに発注する
 ・  納品について時間指定しない
 ・  箱の汚れなどによる返品をしない

といった対応を求めるにとどまっている。医薬品流通は数年前から出荷調整・安定供給の問題に直面しており、2024年問題とも合わせて医薬品のサプライチェーンを根本的に見直さなければならない状況にあるにもかかわらず、この通知で何か事態が変わるようには見えないし、変える意思があるとも思えない。

 

薬局の発注・納品の仕方については、地域差や薬局の規模といった要因を無視して安易に一般化することは慎むべきだろう。しかし管見の限りでは、納品の回数や時間は卸の都合にまかせている薬局が大半のようだ。また、薬局が発注してから納品されるまでのリードタイムを正確に予測できるご時世ではもはやなくなっており、多くの薬局で平時の在庫管理は破綻してしまっている。その一方で薬価の切り下げや切り上げといった政策も同時に実施され、薬局に経済的な負担と混乱を招いている。そして今まで薬局と卸で個別に構築してきた信頼関係の間に公式な通知が介入することによって、逆に感情的な摩擦が生じる可能性すらある。

 

2024年問題や金融政策などの複合的な要因より、日本の国民皆保険制度は薬価差益がない状態で初めての物価上昇局面を体験することになるわけで、先述の懇談会でも話題にのぼった「マクロ経済スライド(薬価を物価上昇率と連動させる仕組み)」を検討することも必要だろう。薬局の立場からこれらの議論に補足するなら、薬そのものの価値としての「薬価」と、その薬を調剤するまでの物流コストとは制度的に切り離すべきではないか?という論点を挙げておきたい。調剤報酬の中の調剤料部分は調剤日数と調剤の手間が相関しないという理由で批判されたが、10日分の在庫の準備と90日分の在庫の準備とでは物流コストが違うという観点から見直してもよいのではないだろうか。

 

*1  医療用医薬品の流通改善に関する懇談会

*2  医政産情企発 0313 第5号 令和6年3月13日|医薬品に係る物流 2024 年問題等により生じうる課題と対応策について
  (宛先別にいろいろなリンクがあるが、一例として)  

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著者:薬事政策研究所 代表 田代健