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第9期介護保険事業計画における施設系サービスの事業戦略

2024.05.01

【目次】

  1. 令和6年度介護報酬改定について
  2. 今回の報酬改定から見る今後のポイント(施設系を中心に)
  3. 今後の施設運営で重視すべき点と職員への対応
  4. 生産性向上や人材活用の重要性


1.令和6年度介護報酬改定について

 令和6年度介護報酬改定を境に、介護保険事業計画は第9期が始まりました。
今回改定は「処遇改善加算の一本化」「訪問介護の基本報酬減算」等、大きな出来事がありましたが、今後の改定の序章にすぎないのではないかとも感じております。

 他にも、「業務継続計画未実施減算」「高齢者虐待防止措置未実施減算」等の創設「利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会の設置」の義務付け等の運営上求められることの厳格化が進みました。また「アウトカム評価の充実」のための各種加算の微調整や「科学的介護の推進」に関する変化等もありました。

 今回のコラムでは全体的な法改正の方向性や傾向を確認しつつ、それを踏まえた施設系サービスにおける今後の事業戦略について運営・人材・事業展開の観点から解説していきます。

 

2.今回の報酬改定から見る今後のポイント(施設系を中心に)

 今後の報酬改定のポイントを施設系を中心に検討すると、以下の3点が重要になると考えます。

①科学的介護の推進およびアウトカム評価

 科学的介護推進体制加算やアウトカム評価については今回改定でも、LIFE関連加算に共通した入力項目の定義の明確化や共通項目の選択肢の統一化が図られたり、アウトカム評価の対象が変更されたり一部拡充されるなど、微調整が入りました。これは、大きな評価を下すにはまだ検証が不可欠であるが、今後も継続して評価するという意向が読み取れます。以前の介護老人保健施設のドラスティックな改定もあることから、将来的には大きな評価に引き上げられると予想しています。また、特別養護老人ホームでは個別機能訓練加算Ⅲが創設され「リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の一体的取組の推進」もおこなわれています。将来的にこれらが互いに連動しながら、最終的にアウトカムにつなげる施設が高く評価されるという形になるのではないでしょうか。

出典:「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」(厚生労働省)[ⅰ]

 

②認知症の対応力向上

 認知症チームケア推進加算が創設され、認知症の行動・心理症状(BPSD)の発現を未然に防ぐため、あるいは出現時に早期に対応するための平時からの取組を推進することが示されました。認知症対応は従来、ドナベディアン・モデルにおける「ストラクチャー(構造=研修修了者の配置等)」の評価が主だったところ「プロセス(過程)」の評価に重点が強く評価されるようになったといえます。実は、認知症分野は、ADL等に比べてLIFEにおける評価項目も検討に時間を要しています。そのため、アウトカム評価の項目も現在はありません。つまりそれは、現在評価するための素地を整えている状況ということです。今回の改定でそれが一歩進みましたが、今後更なる評価がおこなわれるのではないでしょうか。

出典:「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」(厚生労働省)[ⅰ]

 

③生産性の向上

 「利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会の設置」の義務化や生産性向上推進体制加算の創設等、従来より推進されてきた生産性向上の取り組みが、報酬上で評価されることとなりました。また、着目すべきは、生産性向上への取り組み事項が全く別の処遇改善加算の職場環境要件に重点項目として取り入れられている点です。委員会の設置が義務化された上にかなり中枢的な位置づけとなっていることから、科学的介護推進体制加算も将来的には基本報酬への内包も見えているかも知れません。その時、「見守り機器等のテクノロジーを1つ以上導入」や「職員間の適切な役割分担(いわゆる介護助手の活用等)の取組」といった加算の要件が、義務化されるという未来もあるのではないでしょうか。

出典:「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」(厚生労働省)[ⅰ]

 

3.今後の施設運営で重視すべき点と職員への対応

 以上が、今後の施設系の運営に関連する介護報酬の大きなポイントになると考えています。これらの点を中心に据えながら、基本的には報酬改定で求められている項目については出来る限り対応していくことが必要となるでしょう。

 これらを推進するために最も重要なことは職員の協力です。基本的に報酬改定を受けて従来の業務が軽くなるということはありません。評価のポイントに追いつくために新しい取り組みが増えていくという形になります。それを実践するのは現場の職員となるので、まずはその理解を得ることからはじめましょう。

 報酬改定のタイミングというのは、それをおこなう絶好の機会でもあります。「国の方針でそれをおこなうべきということが示された」ということと「実際にそれをおこなうことで利用者にメリットがある」ということを伝えれば、従来のやり方に固執する職員の考えも動きやすいです。実施することを現場に指示するだけでなく、是非一度研修の様な形で、報酬改定の概略と施設の方針を現場に示す機会を設けるのが良いでしょう。

 また、今回の改定でアウトカム評価、リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の一体的取組の推進、認知症対応力の向上等、より高度な質の介護の提供が求められることが示されています。これを実現していくためには、中長期で現場の中心となる専門人材を育成していくという観点を持ちたいところです。全職員が高いレベルの専門知識を全分野で持つことが理想です。難しい場合としても、専門対策チームを設け、チームメンバーはより高度な研修の受講や知識の研究等をおこなうなどの体制を構築し、組織全体の底上げを目指していく必要があるでしょう。チーム運営や資質の向上を計画的におこなえるよう、サポートもおこなっていきたいところです。

 

4.生産性向上や人材活用の重要性

 高度な専門性が求められるようになることで、より重要になってくるのが生産性の向上になります。今後更に高度に専門的な技術や介入が求められるようになることで、従来から人材不足が叫ばれている介護現場ではリソースの課題が必ず出てきます。生産性の向上は義務化されていくものではありますが、もとより必要なものであったと考えるべきでしょう。

 ※生産性向上の考え方については前回コラム「生産性向上に資するガイドラインの読み解きと現場体制の構築」にて触れておりますので、ご興味のある方はこちらをご参照ください。

 また、ここで注目したいのは「職員間の適切な役割分担(いわゆる介護助手の活用等)の取組」についてです。
職員間の適切な役割分担は、介護の専門性が向上する程、より顕著になることが想定されます。「直接介護でない業務」「通常の介護」「介護の専門的な計画と実行指導(認知症、アウトカム評価に対応する為の取り組み等)」と更に細分化されていくことになりますので、それぞれの業務の役割分担と担い手の確保が必要となります。

 専門分野の担当は、経験豊富で十分な学習を経た職員や専門家として雇用した外部人材が担うことになるでしょう。
この時、重要となるのはやはり「直接介護でない業務」「通常の介護」を担う人材の確保とその役割分担です。
検討には、介護補助や外国人人材の活用というのは必須になってくるのではないかと考えています。生産性向上の取り組みの中でこの「職員間の適切な役割分担」は出てくる内容になりますが、今回の改定を機会に、施設における将来的な人材構成の在り方についても、ご検討をされるのが良いのではないかと考えています。

 

 今回の改定は、次期以降の大きな改定の前ぶれであると考えています。
現在、見えている点から将来を想定し、あらかじめその準備をおこなっておくという考え方が最も重要になります。本稿が皆様の施設運営の一助になりましたら幸いです。

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[ⅰ] 第239回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料|厚生労働省



株式会社スターパートナーズ代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム代表理事
脳梗塞リハビリステーション代表
MPH(公衆衛生学修士)齋藤直路