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フォローアップの実施状況

2024.05.21

 

東京理科大学薬学部の鹿村研究室の調査によると、薬局薬剤師によるフォローアップは院外処方箋の0.84%で実施されているとのことらしい(薬事日報4月12日付)。

 

調査方法の概略は

  1. 全薬局の10%に調査依頼状を送付
  2. 561軒の薬局が事前にエントリー
  3. 110軒の薬局が実際に参加
  4. 調査期間は2023年6月12日から18日までの7日間

とあり、結果は

  1. 調査対象となった処方箋は38,696枚で、その中から326回フォローアップを実施
  2. 326回のうち、医師への情報提供を行ったのは129回
  3. 129回のうち、処方提案を行ったのは10回

となったらしい。したがって、院外処方のうち326/386969=0.84%でフォローアップが実施されているという評価になった。

 

 統計学的には、「1回につき確率θで発生するまれな出来事が、実際に何回発生するか?」という問題はポアソン分布というモデルで考える。交通事故や保険会社のクレームといった出来事の解析が典型的な例だ。

 

 フォローアップという出来事についても、0.84%という数字からポアソン分布を考えることができる。これは「処方箋10000枚当たり84回のフォローアップが発生する」ということで、「処方箋350枚当たり2.94回のフォローアップが発生する」と言いかえることもできる。参加した薬局の期間中の平均処方箋枚数は352枚なので、薬局ごとの応需処方箋枚数の違いをとりあえず無視することにより、1回もフォローアップを行わなかった薬局が6軒、最大で8回フォローアップを行った薬局が1軒、といった相場観をイメージすることができる。とはいえ実際にはすべての処方箋についてフォローアップがランダムに発生するわけではないため、このようにきれいなポアソン分布に従うことはないだろう。

 この予測値と実測値との乖離から、いろいろなことが議論できるかもしれない。
また、薬局側にとって、「調査にエントリーすること」と「フォローアップを行うこと」とは独立なのか?という点も気になる。筆者は正の相関関係があるような気がする。

 

 ところで、フォローアップは薬物治療の一環の中のひとつの手段であって、目的ではないということは言うまでもないだろう。重要なのは、フォローアップを行った326件の処方の患者の経過だ。たとえば、処方された薬剤について筆者がとりわけ重要だと考える情報は、「その薬剤が中止になった時の理由」だ(注)。ここでフォローアップした処方箋の薬剤について、将来処方が中止になったときにそれがどのような理由によるものなのかを比較することができれば、薬学的な観点から貴重なデータになるのではないだろうか。

 

 また、機械学習の分野では「反実仮想機械学習」という分野の研究が進んでいるようだ。筆者自身まだ勉強しはじめなのでいい加減なことは言えないが、「もしフォローアップしていなかったらどうなっていたか」という「実際に起こらなかったこと」についてデータのモデルを構築することができれば、フォローアップによる介入効果をより鮮明に評価できるようになるかもしれない。

 

注:
ある患者の処方箋を応需した時に、薬剤ごとに

phase I:今回新規に処方された
phase II:前回も処方されていた
phase III:前回処方され、今回処方されなかった

の3つのフェーズを割り振ることができる。
レセコン上で今回phase IIIとなった薬剤について、その理由が「治療が終了したから」なのか「効果が不十分だったから」なのか、あるいは「有害事象が発生したから」や「残薬調整したから」なのか、といった情報を収集することによって、その薬剤の治療上のパフォーマンスを評価することができ、患者の性別や年齢といった情報と組み合わせることで患者ごとに有効性やリスクをきめ細かく評価できる可能性がある

 筆者自身、レセコンと連動してこのデータを収集するミニプログラムを何軒かの薬局に配布したことがあるのだが、「理由の入力の煩雑さ」が理由で挫折したことがある。この経験を踏まえて保険薬局経営者連合会では電子薬歴のデータを集計する試みに挑んでいる。

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著者:薬事政策研究所 代表 田代健