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医療DX加算算定に向けて、いまさら聞けない電子処方箋
2024.06.26
2023年1月からスタートしている「電子処方箋」。
令和6年度診療報酬改定で新設された医療DX推進体制整備加算にも施設基準に盛り込まれており、これから導入を進めようと考えているクリニックも多いことでしょう。そこで、今回は電子処方箋の仕組みやメリット、導入手順、補助金などについて解説します。
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【目次】
1.電子処方箋とは
2023年1月から始まった「電子処方箋」は、政府が進める医療DX政策のひとつ。これまで紙で発行していた処方箋を電子化することで、処方データがデジタル化され、医師、薬剤師、患者間で薬の情報をリアルタイムに共有し、医療の質向上につなげようとする試みです。複数の医療機関・薬局をまたいだ処方薬の一元管理が可能となり、さらには重複投与や相互禁忌などが行われるようになります。
2.令和6年度診療報酬改定における医療DXの評価
令和6年度の診療報酬改定において、医療DXの評価が行われています。まず、オンライン資格確認の体制を評価した従来の医療情報・システム基盤整備体制充実加算は、2023年4月にオンライン資格確認システムの導入が原則義務化されたことを受けて、これまでの体制整備に係る評価から、診療情報・薬剤情報の取得・活用に係る評価に見直され、「医療情報取得加算」に名称変更並びに点数の変更が行われています。
また、診療情報・薬剤情報を実際に診療に活用可能な体制の整備、電子処方箋および電子カルテ情報共有サービスの導入に対する評価として「医療DX 推進体制整備加算」が新設されています。
施設基準としては、
を求めています。
3.医療DX推進の現状
政府は今後の医療DXのスケジュールをまとめた「医療DXの推進に関する工程表」を6月2日に公表しています。その中で、保険証の廃止期限は2024年12月、電子処方箋については2025年度には概ね普及すること予定しています。
医療DXの推進に関する工程表
出典:厚労省「医療DXの推進に関する工程表(全体版)」より抜粋して作成
厚労省が公表した2024年6月2日時点の「医療機関・薬局における電子処方箋システムの導入状況」では、運用開始施設が全体で23,666施設、そのうち病院が128施設、医科診療所が2,418施設、薬局が21,032施設となっています。普及率は、医療機関・薬局全体で約10%、医科診療所で約2.7%、最も進んでいる薬局でも約34%にとどまっています。ちなみに、利用申請済み施設は、全体で76,637施設、そのうち病院が1,585施設、医科診療所が25,613施設、薬局が36,303施設となっています。
現時点で、利用申請を行った数と、実際に運用を開始した数に大きな開きがあり、将来の義務化を予想して、ぎりぎりまで様子見をしている医療機関・薬局が多いのではないかと推測します。
4.電子処方箋と電子処方箋管理サービス
「電子処方箋」は、オンライン資格確認の仕組みを利用して、処方箋の医薬品データを医療機関・薬局・患者間で連携できるようにする仕組みです。リアルタイムに医薬品情報が共有できるため、医療の質向上および医薬品の効率的使用につながることが期待されています。
具体的な流れとしては、①医療機関の医師・歯科医師が電子処方箋を「電子処方箋管理サービス(以下、管理サービス)」にアップロードし、薬剤師がその電子処方箋を薬局のシステムに取り込み、薬を調剤します。②薬局の薬剤師は薬を調剤した後、調剤結果を「管理サービス」にアップロードします。③薬剤情報は「管理サービス」から、患者のマイナポータルや電子お薬手帳に蓄積され、閲覧することが可能となります。
著者作図
5.利用者を証明する仕組み
これらの仕組みを安全に運用するためには、なりすましなどが起きないように、システム利用者の証明(エビデンス)が必要となります。患者は「オンライン資格確認」において、マイナンバーカードや健康保険証で証明が可能ですが、医師・歯科医師・薬剤師においても「HPKI」という仕組みを用いて証明する仕組みが想定されています。
HPKIとは、Healthcare Public Key Infrastructureの略で、医療現場において公的資格の確認機能を有する電子署名や電子認証を行う基盤のことです。現在は、日本医師会、日本薬剤師会、医療情報システム開発センターにおいて、医師・歯科医師・薬剤師の資格確認を行うためのHPKIカードを発行しています。医療機関・薬局では、電子処方箋の開始に当たり、HPKIカードの申請も必要となります。
日本医師会電子認証センター https://www.jmaca.med.or.jp/application/
日本薬剤師会認証局 https://www.nichiyaku.or.jp/hpki/index.html
医療情報システム開発センター(MEDIS)https://www.medis.or.jp/8_hpki/index.html
6.電子処方箋のメリット
医療機関にとっては、「電子処方箋」が普及することで、複数の医療機関・薬局をまたいで、直近のデータを含む過去3年分の処方データが参照できるようになり、正確な処方情報を基に診察・処方が可能になるとしています。ちなみに、現在進めている「オンライン資格確認」による薬剤情報はレセプトデータに基づいており、1か月前の情報となるため、直近の処方データを確認することはできませんでした。しかしながら、電子処方箋が普及することで、リアルタイムに処方データが確認できるようになるのです。
また、処方について「重複投薬」がないか、「併用禁忌」にあたらないかを、「電子処方箋管理サービス」でチェックし、その結果を参照できるようになります。複数の医療機関・薬局をまたいだ患者の処方データを対象とした同チェックは、処方箋発行に係る現行の業務フローの中に組み込むことができ、医師の診察・処方をサポートするとしています。
医薬分業が進む現在、医療機関と薬局の間で、処方に不備がないかを確認し、不備があった場合は「疑義照会」として薬局から医療機関に問題処方についてフィードバックをしています。この仕組みは、電話であったり、FAXであったりと、いまだアナログな部分も多く、医療機関と薬局の情報連携の際に大きな手間となっていました。
「電子処方箋」が普及することで、医師が処方箋を発行する際に「電子処方箋管理サービス」側で項目に不備がないかチェックするため、形式的な不備による問合せ件数の削減が期待でき、医師側、薬局側で重複投薬や併用禁忌のチェックを利用することで、疑義照会自体の件数が減少することが期待されています。
7.導入の進め方
電子処方箋を開始するには、電子署名を行うための準備(HPKIカードの発行申請等)とシステム事業者(電子カルテシステム等の事業者)への発注が必要となります。医師であることを電子的に証明するHPKIカードの申請については、日本医師会か一般財団法人医療情報システム開発センター(MEDIS)に発行申請を行います。
また、システムに関する準備としては、HPKIカードのICチップを読み取るためのカードリーダを用意し、電子カルテ等に「電子処方箋対応ソフト」のアップデートを行う必要があります。これは原則システム事業者から提供されることとなります。
なお、このソフトウェアのアップデート作業は、システム事業者によって対応が異なりますので、現在利用している電子カルテメーカー等に確認して準備を進めることとなります。
8.補助金情報
医療機関・薬局が「電子処方箋」を開始するには、①オンライン資格確認の導入②電子署名等(HPKI)の取得③現在のシステムの改修、などが必要になります。電子処方箋の導入費用については、政府より補助金が用意されています。
電子処方箋管理サービスの導入にかかる費用について、例えば診療所であれば、2025年3月31日までにシステムを導入した場合、「19.4万円を上限に補助(事業額の38.7万円を上限にその1/2を補助)」とされています。
また、電子処方箋と新機能を導入する場合、診療所であれば「27.1万円を上限に補助(事業額の54.2万円を上限にその1/2を補助)」とされています。なお、新機能とは、リフィル処方箋および、口頭同意による重複投薬等チェック結果の閲覧、マイナンバーカード署名、処方箋ID検索などです。
電子処方箋の補助金
9.まとめ
電子処方箋は2023年1月スタートしました。オンライン資格確認に続く、政府の医療DX政策の第2弾です。開始から1年半が経過した2024年6月現在、運用開始施設はわずか10%に過ぎません。一方で、電子処方箋の対応が、診療所に比べ薬局の方がメリットが大きいことから、34%と先行して普及が進んでいます。
また、令和6年度診療報酬改定で新設された「医療DX推進整備体制加算(8点)」を算定するためには、電子処方箋の導入準備が必要で、期限は2025年3月末となります。同点数の評価が後押しとなって、今後は普及が進むのではないかと考えます。
電子処方箋の導入準備には、①HPKIカード②電子処方箋対応版ソフト③レセコン ・電子カルテの改修が必要となります。医療機関自体で作業ができないことになっているため、電子カルテ・レセコンメーカーに作業を依頼しなければなりません。
また、電子処方箋の整備には補助金が用意されており、導入にかかった費用の上限38.7万円の1/2の19.4万円が出されることになります。補助金の〆切は2025年3月末で、同年9月末までに申請が必要となります。
オンライン資格確認システムと同様の流れで電子処方箋も進んでおり、補助金、診療報酬での評価がすでに行われており、次は義務化という流れになるのではないかと考えます。義務化になると、申込みが殺到することが予想されるため、混乱を避けるために、早めの準備をお勧めします。