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令和6年度介護報酬改定の2大ポイント解説~生産性向上推進体制加算と処遇改善加算~

2024.07.09

 

 

【目次】

  1. 今回改定における2つの大きなポイント
  2. 生産性向上推進体制加算とは
  3. 上位区分を算定するには
  4. 処遇改善加算における生産性向上の取り組み

 


1.今回改定における2つの大きなポイント

介護報酬改定から3ヶ月が経過し、目の前の対応については落ち着いてきた事業所も多いかと思います。この先は、各種経過措置への対応や、新しい取り組みの推進等が重点テーマになってきます。

今後対応を検討するべき事項として、今回の改定では、2つの大きなポイントがあるといえます。生産性向上に関する取組と、新処遇改善加算への対応です。

短期入所系サービス、居住系サービス、多機能系サービス、施設系サービスには「利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会(以下、委員会)開催」が義務化されました。これは3年間の経過措置が設けられているものの、早期に対応し安定した運営体制を確立したいところです。そして、その先の「生産性向上推進体制加算」の算定へとつなげることが次期改定への備えとなるのではないかと考えています。

また、新処遇改善加算においては、職場環境等要件において各区分1つ以上の取り組みが必要となり、「生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組」においては下位区分で2以上、上位区分で3以上の取組の実施が必要となりました。処遇改善の分野においても密接に関係してきたことを考えると、生産性向上の取り組みは今後も介護保険サービスにおける大きなテーマであり続けると考えて良いでしょう。

本稿では、生産性向上の取り組みを中心に据えながら「生産性向上推進体制加算」と「処遇改善加算」について解説していきます。本稿と同一テーマを動画での詳細の解説となる無料オンラインセミナー「【令和6年度介護報酬改定の2大ポイント徹底解説】生産性向上推進体制加算と処遇改善加算で、あなたの施設はどう変わる?」が2024年7月30日に開催されます。どなたでもお気軽に参加いただけますので、是非、お気軽にご参加いただければと思います。

 

2.生産性向上推進体制加算とは

「生産性向上推進体制加算」は下位区分の(Ⅱ)と上位区分の(Ⅰ)の2種に分かれています。下位区分の(Ⅱ)の算定要件は、「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」において以下の3点が示されています。[] 

○ 利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会の開催や必要な安全対策を講じた上で、生産性向上ガイドラインに基づいた改善活動を継続的に行っていること。
○ 見守り機器等のテクノロジーを1つ以上導入していること。
○ 1年以内ごとに1回、業務改善の取組による効果を示すデータの提供(オンラインによる提出)を行うこと。

 また、その詳細な考え方については「生産性向上推進体制加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例等の提示について」で示されています。[]

明確に示されている分かりやすい箇所で言うと、

 

・委員会は三月に一回以上開催

・「見守り機器等のテクノロジー」の対象になるのは、
 ① 見守り機器

 ② インカム(マイクロホンが取り付けられたイヤホンをいう。)等の職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器(ビジネス用のチャットツールの活用による職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器も含む。)
 ③ 介護記録ソフトウェアやスマートフォン等の介護記録の作成の効率化に資するICT機器

・効果を示すデータとして提出するのは、
 (1) 利用者の満足度等の評価
 (2) 総業務時間及び当該時間に含まれる超過勤務時間の調査
 (3) 年次有給休暇の取得状況の調査

 

と、なります。さらなる詳細や帳票は、引用元からご参照いただければと思います。

これらの要件をクリアした場合、「生産性向上推進体制加算(Ⅱ)」が算定可能となります。短期入所系サービス、居住系サービス、多機能系サービス、施設系サービスが対象の加算で、単位は月10単位と少額ではあります。しかし、生産性向上の取り組みが直近の介護保険制度において重要な位置を占めている点を考慮すると、少額だからと算定しない判断は良くないように思います。上位区分の「生産性向上推進体制加算(Ⅰ)」は月100単位に増額となりますし、後述する処遇改善加算のように、生産性向上の取り組みが他加算で要件となる事態も考えられるためです。

「ガイドライン」に基づいた継続的な改善活動については具体的な定め等はなく、「ガイドライン」に示された活動全てをおこなうというよりは「ガイドライン」を参考にした委員会活動をおこなえば構わないという印象を受けます。まずは可能な範囲で進めながら、要件だけ見れば、下位区分である「生産性向上推進体制加算(Ⅱ)」の算定そのものは決して難しくないかと思われます。まずは可能な範囲からはじめるのが良いのではないかと思われます。

 

3.上位区分を算定するには

「生産性向上推進体制加算(Ⅰ)」の算定要件は、「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」において以下の3点が示されています。

○ ()の要件を満たし、()のデータにより業務改善の取組による成果が確認されていること。
○ 見守り機器等のテクノロジーを複数導入していること。
○ 職員間の適切な役割分担(いわゆる介護助手の活用等)の取組等を行っていること。
○ 1年以内ごとに1回、業務改善の取組による効果を示すデータの提供(オンラインによる提出)を行うこと。

 基本的には下位区分の(Ⅱ)をベースに、以下の要素が付加されています。

 ・生産性向上の取組を三月以上継続した上で、
 (1) 利用者の満足度等の評価、
 (2) 総業務時間及び当該時間に含まれる超過勤務時間の調査、
 (3) 年次有給休暇の取得状況の調査で成果が確認できている

・1つで良かった機器の全てを導入しなければいけない。導入した機器は対象全てに付与する必要がある(居室、職員)
・委員会において、現場の状況に応じた必要な対応を検討し、業務内容の明確化や見直しを行う。またそのためには、現状分析等「ガイドライン」に示される高度な調査をおこなう必要がある
・効果を示すデータとして、更に追加で下記を提出する
 (4) 介護職員の心理的負担等の評価
 (5) 機器の導入等による業務時間(直接介護、間接業務、休憩等)の調査

 

成果(アウトカム)が求められるのが大きなポイントです。また、機器の導入や職員間の適切な役割分担の実施も大がかりなものとなります。こちらは、本格的な改善活動をおこない、現場での生産性向上の推進を積極的におこなえる状態にある状態になったときに、算定を目指すべき加算といえるでしょう。

 

4.処遇改善加算における生産性向上の取り組み

もう1つの大きなポイント「処遇改善加算」の一本化と生産性向上の取り組みの関係についても少し解説させていただきます。

今回の改定で「処遇改善加算」の職場環境等要件が厳格化され「新加算Ⅰ又はⅡを算定する場合は(中略)『生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組』のうち3以上の取組(中略)を実施し、新加算Ⅲ又はⅣを算定する場合は『生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組』のうち2つ以上の取組を実施すること。」とされました。従来の「特定処遇改善加算」を算定していなければ、区分に関係なく1つ実施していれば良かった職場環境等要件が、厳格化した形となります。更にその中でも「生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組」は下位区分で2つ以上、上位区分で3つ以上の取り組みが必要と、重点化されていることがわかります。

ただし、「生産性向上推進体制加算を算定している場合には、『生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組』の要件を満たす」とされていることから、もっとも手っ取り早いのは「生産性向上推進体制加算」を算定することだといえるでしょう。この観点からも「生産性向上推進体制加算」の算定はお勧めしたいと考えています。

算定しない場合には、8種ある要件のうち、2~3つの要件を満たす必要があります。これらについては、単純に機器が導入できていれば良いものから、体力の必要な取り組みまでその難易度も異なります。以下の要件の内容を精査しながら、実施可能なものを検討していく必要があるでしょう。

 

⑰厚生労働省が示している「生産性向上ガイドライン」に基づき、業務改善活動の体制構築(委員会やプロジェクトチームの立ち上げ又は外部の研修会の活用等)を行っている
⑱現場の課題の見える化(課題の抽出、課題の構造化、業務時間調査の実施等)を実施している
⑲5S活動(業務管理の手法の1つ。整理・整頓・清掃・清潔・躾の頭文字をとったもの)等の実践による職場環境の整備を行っている
⑳業務手順書の作成や、記録・報告様式の工夫等による情報共有や作業負担の軽減を行っている
㉑介護ソフト(記録、情報共有、請求業務転記が不要なもの。)、情報端末(タブレット端末、スマートフォン端末等)の導入
㉒介護ロボット(見守り支援、移乗支援、移動支援、排泄支援、入浴支援、介護業務支援等)又はインカム等の職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器(ビジネスチャットツール含む)の導入
㉓業務内容の明確化と役割分担を行い、介護職員がケアに集中できる環境を整備。特に、間接業務(食事等の準備や片付け、清掃、ベッドメイク、ゴミ捨て等)がある場合は、いわゆる介護助手等の活用や外注等で担うなど、役割の見直しやシフトの組み換え等を行う。
㉔各種委員会の共同設置、各種指針・計画の共同策定、物品の共同購入等の事務処理部門の集約、共同で行うICTインフラの整備、人事管理システムや福利厚生システム等の共通化等、協働化を通じた職場環境の改善に向けた取組の実施

 

今回は紙面の関係もあり、概要の解説にとどまりました。より詳細な要件の確認や、具体的な対策等につきましては、2024年7月30日に開催されます無料オンラインセミナー「【令和6年度介護報酬改定の2大ポイント徹底解説】生産性向上推進体制加算と処遇改善加算で、あなたの施設はどう変わる?」にてお届けできればと考えております。ご興味をお持ちの方は、是非、ご参加いただけますと幸いです。

 

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[ⅰ] 令和6年度介護報酬改定における改定事項について | 厚生労働省
[ⅱ] 生産性向上推進体制加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例等の提示について | 厚生労働省
[ⅲ] 介護職員の処遇改善 | 厚生労働省

 

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筆者:株式会社スターパートナーズ代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム代表理事
脳梗塞リハビリステーション代表
MPH(公衆衛生学修士)齋藤直路

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