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咳止めをどう売るか

2024.07.19

 

 

皆さんの薬局では、一般用医薬品をどのように取り扱っているだろうか?たとえばデキストロメトルファンは厚生労働省が指定した「濫用のおそれのある医薬品」には含まれないが、特に販売の規制もなく、実際に過剰服用による事故があり、SNS上でも若年者によって情報が拡散されている。この対策が、今まさに政府の検討会で議論されているのだが、「医薬品とそれを求める患者との関係に薬剤師がどう介入すべきか?」という薬剤師職能の本質に関わる問題が、「規制の仕方」の議論へと矮小化されてしまっているように思われる。

 

6月6日、厚生労働省の厚生科学審議会・医薬品医療機器制度部会において、OTCの濫用の対策が議題となった。大きなテーマの枠組みは「少子高齢化やデジタル化の進展等に対応した薬局・医薬品販売制度の見直しについて」であり、ネット通販・ドラッグストア・(いわゆる)調剤薬局という3者が三つ巴となって医薬品の区分や販売方法を見直す議論をしているという文脈の上で「青少年による一般用医薬品の濫用」の問題が取り上げられているということは、注意しておく必要があるだろう。

 

主な論点は、若年層に販売するケースを想定して

  1. 小容量を1つしか販売しない
  2. 空き箱を陳列し、在庫に鍵をかけて陳列する
  3. 購入者の販売記録をつける

などの対策をとることの是非に絞られつつある。しかしながら、会議の冒頭で進行役から「私が理解しているところでは、御意見を伺うのが目的で、本日何かを決めて、その次のステップに移るというわけではありませんので」という断りが入っているように、各委員が順番に意見を開陳するだけで異なる立場の主張をすり合わせる時間は設けられていなかった。そのため、これらの論点に対する薬剤師会の主張とドラッグストアの主張との違いが鮮明になり、二者択一のような構図にも見えてくる。

しかし、「医薬品販売の規制を緩めれば便利になる」という主張と「規制を緩めれば濫用が増える」という主張は、地方の都市に新幹線を伸ばすことの是非の議論と近いものがあるのではないだろうか。「東京からのアクセスがよくなれば来訪者が増える」という主張と「東京へのアクセスがよくなれば人口が流出する」という主張はいくら議論しても平行線をたどり、その都市の個別の産業や自治体の政策、人口構造などを考慮せずに新幹線の影響だけを議論しても意味がない。同様に、規制の仕方だけを切り取って議論しても合意にいたることはできないのではないだろうか。会議でも「そもそもなぜ若年者に薬物の濫用が起こるのか」という議論を素通りすべきではないという指摘が何度かなされており、筆者もそこに薬剤師が介入するポイントがあるのではないかと考える。

 

2023年の5月に、地元の自治体の「青少年育成市民会議」なる場所で青少年の薬物濫用について講義をしたことがあり、

・違法薬物ではなくOTCの濫用(オーバードーズ)が急増していること

・合法大麻の販売ルートが身近に存在すること

・根本的な原因を理解する手段としてのルネ・ジラールの「模倣的欲望理論」

という3点を紹介したのだが、聴き手は薬物依存を非行・犯罪と直結する枠組みに強く囚われていると筆者は感じた(「みなさんの中で、好きなお酒をやめられないのは自分が無知だからだと思っている人、アルコールの体への悪影響の知識を学べば自分はすぐに禁酒できると思っている人は手を挙げてください」と問いかけたが、自分自身にも薬物濫用と通底する習慣があるという事実は受け入れがたいようだった)。

アメリカでは以前から医療用オピオイドの濫用(「濫処方」というべきか)による依存が問題となっている。また、薬物濫用・アルコール依存・自殺が組み合わさった「絶望死」が20代中盤から中高年にかけて死亡率を上昇させる問題として注目されているが、最近の青少年の薬物の濫用は、将来の日本での絶望死への入り口に近いところにあるのではないか。

 

厚労省は、地域支援体制加算の算定要件としてOTCの「48薬効群」を一式揃えるよう求めたが、次回かその次あたりの改定では「OTCを販売した実績」が算定要件となるかもしれない。どのように販売するのか、濫用への薬剤師の介入をどのように訓練し、実績を可視化するのか、「調剤薬局」もドラッグストア任せにするのではなく積極的に体制づくりをしていくべきではないだろうか。

 

 

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著者:薬事政策研究所 代表 田代健