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保険外サービスを巡る最新状況

2024.07.23

 

【目次】

  1. 保険外サービスの種別
  2. 現在拡大している保険外サービスの類型
  3. 保険外サービス運営のポイント

 


1.保険外サービスの種別

介護サービス事業は、介護保険制度のもとでおこなわれる制度ビジネスです。売値も公定価格となり、安定した収入が見込める半面、様々な制約があります。

近年、介護報酬の大きな改定等の影響を受けて、介護サービス単一での事業展開ではなく、複数の異なる事業を展開し、収益の柱を増やしていこうという介護事業者も増えてきています。今回はその選択肢の1つとして挙げられる、保険外サービスについて解説していきます。

まず、介護事業者にとっての保険外サービスとは何かを説明すると「A介護保険の上限を超えた追加サービス」「B介護保険でカバーしていないサービス」「C余暇・趣味等の自費サービス」「D法人のリソースを活用できるサービス」4つに分けられるのではないかと思います。

スターパートナーズ社作成

 

A介護保険の上限を超えた追加サービス」「B介護保険でカバーしていないサービス」については記載の通り、介護保険の利用上限を超えた分を自費サービスとして提供する、あるいは訪問介護における家族のための家事、草むしり、ペットの世話等の一部家事の様に介護保険の適用が認められないサービスを自費サービスとして提供するといったものになります。これらは介護保険サービスの付加的な意味合いを持つ場合も多いですが、後述する自費の訪問介護・看護の様に、高度に専門性が求められたり、保険内では対応しきれないより重厚なサービスとなる場合もあります。

C余暇・趣味等の自費サービス」については、そもそも保険の対象とならないジャンルのサービスを別途利用者に対して提供するというものになります。定期的な講座、教室や、外出・旅行イベント等を想像していただけるとわかりやすいかと思います。

D法人のリソースを活用できるサービス」については、特に人的リソースやスペースを転用したり、既存利用者を対象とするなどした新しい事業を創出ということになります。いま注目されているのは、特にこのジャンルになるのではないかと思います。

次に保険外サービスの開発の視点です。新しい収益の柱を作るという観点からは、「視点①:この既存顧客を対象にしたサービスを作る」、「視点②:現在のメンバーで提供可能な新しいサービスを作る」、あるいはその両方という考え方になるでしょう。

スターパートナーズ社作成

 

2.現在拡大している保険外サービスの類型

保険外サービス自体は以前より、注目を集めていた分野ではありました。地域包括ケアシステムの実現のためには、保険制度だけの対応では限界があるということは行政も重々承知しており、平成28年には経済産業省、農林水産省、厚生労働省の連名で「保険外サービス活用ガイドブック」が公表されたり、平成30年から令和3年にかけて東京都豊島区で混合介護の提供をモデル化するための「選択的介護モデル事業」がおこなわれるなどしていました。[] [ⅱ]

こういった背景もあり、保険外サービス自体の認知は広がりつつあるとともに、主要な類型も固まってきたという状況にあります。その類型のいくつかについて簡単に紹介します。

 

①脳梗塞リハビリテーション

 近年、注目度の高い保険外サービスというと、脳梗塞リハビリテーションではないでしょうか。これは理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの専門職が、運動機能や日常生活動作(ADL)の改善、維持、向上を目的に保険外のリハビリを提供するサービスです。発症後に経過した期間の関係でリハビリを受けるために保険が適用できない、または保険内で受けられるリハビリに満足できない方がターゲットとなっています。

保険で受けられるリハビリテーションに比べ利用頻度や時間を自由に設定でき、介護保険のリハビリと比較して個別具体的な対応が可能であることから、改善意欲の高い方や家族のニーズを満たすサービスとなっています。

介護事業者としての観点からも、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの専門職を雇用している場合、兼務や新規事業としての立ち上げを任すことも可能であり、またリハビリを必要とする方がターゲットとなることから、利用者像の親和性も高いといえるでしょう。

全国的にも数が増えており、現在注目の保険外サービスです。筆者も現在、日本国内外に10拠点を展開している「脳梗塞リハビリステーション・グループ」を運営しています。ご興味のある方は、ご参照ください。

脳梗塞リハビリステーション・グループホームページ[ⅲ]

 

②自費の訪問介護・看護サービス

 ヘルパーや看護師を派遣し保険外の介護や看護サービスを提供するというサービスです。用途としては、介護・介助手伝い、通院付添・院内介助、外出・余暇付き添い、買い物代行、公共交通機関・自家用車などでの移動、お盆、お正月、ご家族の集まりなどのイベント時の一時帰宅、国内外の家族旅行、親戚、友人宅訪問、自宅での24時間サービス等多岐に渡ります。

介護保険の対象とならない業務や、介護保険では適用が難しい超長時間の利用を希望する方向けのサービスとなります。保険外の訪問サービスというと、どちらかというと保険の適用外となる家族等への家事援助サービスが想像されがちですが、長時間の介護・看護等、専門性も求められることでより価値を創出してきたという点が特長といえるでしょう。定期利用・長時間利用等による割引制度を適用する企業も登場する等、サービスのブラッシュアップもおこなわれています。

ヘルパーや看護師は兼務も可能ですので、介護保険事業所とのハイブリッドの運営も可能となり、もちろんターゲットもかなり近しいものとなります。こちらも保険外サービスの選択肢の1つとして非常に有用なジャンルといえるでしょう。

3.保険外サービス運営のポイント

介護事業者にとって、ターゲットが重複し人的リソースも活用しやすい保険外サービスは、新規事業として非常に魅力的であるといえます。また、従来の介護保険事業とは異なり、自由な値付けが可能というメリットもあります。指定基準等の定めもないため、単価が決められている介護保険サービスに比べても、拡大するマーケットの恵みを享受しやすいといえるでしょう。

一方で、社会資源的な側面を持つ介護保険サービスに比べて、完全なサービス業となる保険外サービスそのものの認知度は、現在も決して高いとはいえません。ケアマネジャー等からの紹介も、想定しているより難しいものとなります。

利用者の継続的な獲得のためには、一般的な認知度の向上が必須となります。そのため、宣伝広告費等、介護事業ではあまり想定していなかったマーケティングコストがかかることになります。この点を留意しておかなければ、想定よりも苦戦するという事態に瀕することとなるため注意が必要でしょう。

また、自由度が高いサービスであることから、顧客の具体的なニーズに応えることで顧客満足度の向上とリピート利用を促進するような施策が大切となります。例えば、複数回プランや定期プランの購入による割引、契約継続への特典等の工夫が、既存の保険外サービスではおこなわれています。従来の介護保険事業では考慮する必要のなかった、こういったサービス業としての観点も重要になる点は抑えておくべきでしょう。

 

介護保険事業とは様々な違いがある保険外サービスではありますが、介護保険サービスとハイブリッドで運営することで、顧客・職員両面で高いシナジーが期待できる保険外サービスは、これからの時代の介護事業経営で非常に有効な選択肢となることは間違いありません。特に売上に限界が来ている事業所は、多店舗展開に加えて、保険外サービスの新規開発も事業拡大の選択肢となるのではないでしょうか。

全国的に成功している事例も増えてきていますので、ご興味をお持ちいただいた方は、これをきっかけに是非、ご自身の手でもいろいろと調べていただければと思います。

 

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[ⅰ] 地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集

[ⅱ] 選択的介護モデル事業

[ⅲ] 脳梗塞リハビリステーション・グループについて

 

 

  EM  

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著者
株式会社スターパートナーズ代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム代表理事
脳梗塞リハビリステーション代表
MPH(公衆衛生学修士)齋藤直路