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新制度における加算算定のポイント~特別養護老人ホーム編~

2024.08.30

 

【目次】

  1. 介護報酬改定への本質的な対応が求められている
  2. 処遇改善加算の完全一本化に備える
  3. 医療連携の更なる強化
  4. 科学的介護に関する各種加算について

 


1.介護報酬改定への本質的な対応が求められている

令和6年度の介護報酬改定施行からもうすぐ半年が経過しようとしています。今回の改定においては即時の対応が必要な大きなものといえば処遇改善加算に関するところであり、報酬改定対応について最近は落ち着いてきたという印象です。

一方で、改定内容を吟味し、中長期の戦略について検討をしようという事業者様からは、どの様に実践すれば良いかというご質問もいただくことが増えてきました。それは新加算の算定であったり、経過措置期間は設けられているものの義務化され、将来的には必ず体制を組まなければいけなくなった事項に対するものです。これらを検討し、中長期的な戦略を見直すことが、本質的な意味での報酬改定対策であるといえるでしょう。

今回は、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)について、加算の見直し等を中心に、報酬改定への対応を解説していきたいと思います。

 

2.処遇改善加算の完全一本化に備える

特別養護老人ホームに限らずほぼすべての介護サービスに共通するものとして、処遇改善加算の一本化がありました。これは先述の通り、今年度の加算については6月迄には届け出を完了させる必要があることもあり、新加算への以降をおこなうための段階的な加算である処遇改善加算Ⅴを算定することで、いったんは対応を済ませたという事業所も多いのではないでしょうか。

しかしご存じの通り、従来の処遇改善加算は年度内に廃止され、来年の4月以降には完全に新しい処遇改善加算への移行を完了しておく必要があります。

「一本化概要・全体説明資料」より [ⅰ]

 

移行について、これを機会に給与制度全体を見直そうという動きもあり、そういった事業所においては専門家を交えながら制度の改革をおこなっているようです。私達コンサルタントへの依頼も多く複数お手伝いしています。

一方で、新制度の移行について懸念が聞かれるのは以下の様な点が多く感じます。

 

①職場環境等要件について

職場環境等要件の取り組みについて区分ごとに1つ以上(上位区分の場合2つ以上)取り組まなければならなくなった事業所においては、対応に苦慮しているところも多いようです。ただ、いずれの区分でも2つ以上の区分は実現可能な範囲となっていると思います。まずはどれをおこなうか決め、年度内での制度整備を目指していきたいところです。この際、給与規定等の書類に明示されている、全職員向けに掲示・公開されている、実施した記録がある等、客観的に取り組みを証明できる体制になることが重要です。

 

②キャリアパス要件Ⅳ(改善後の賃金額)について

相談が多いのは「経験・技能のある介護職員のうち1人以上は、賃金改善後の賃金額が年額440万円以上であること。」を求められるキャリアパス要件Ⅳについてでした。事業所の規模によって、実現が難しいと考えることも多いようです。これについては「介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」において下記のように示されています。[]

 

(略)ただし、以下の場合など、例外的に当該賃金改善が困難な場合であって、合理的な説明がある場合はこの限りではない。

 小規模事業所等で加算額全体が少額である場合

・ 職員全体の賃金水準が低い事業所などで、直ちに一人の賃金を引き上げることが困難な場合

 

これらに該当する場合、「合理的な説明」として「合理的な理由を説明する申立書」を計画書及び実績報告書に添付すれば良いということになります。「合理的な説明」としては近年の収益や稼働率の推移、収支差率の実績、人件費率等を示すなどすると尚良いでしょう。

 

 3.医療連携の更なる強化

特別養護老人ホームにおける今回の改定の大きなポイントとしては、医療連携の強化が挙げられるでしょう。まずは「協力医療機関との連携体制の構築」において相談対応、診察、入院に関する協力体制を取ることのできる医療機関を確保し、1年に1回以上入所者の急変への対応について協議できる体制を構築し当該医療機関について保険者に届け出ることが義務化され、病院からの退院後の受け入れも積極的におこなうことが推奨されるようになりました。3年間の経過措置期間は設けられていますが、大きな変更点になるといえるでしょう。

また、この体制構築に加え「協力医療機関との間で、入所者等の同意を得て、当該入所者等の病歴等の情報を共有する会議を定期的に開催していること」を評価する「協力医療機関連携加算」が創設されました。概ね月に1回以上の会議の開催(入所者の情報を随時確認できる体制がシステムなどで確保されている場合は、定期的に年3回以上)で加算が算定できることとなります。

その他、日中であっても配置医師が通常の勤務時間外に駆け付け対応をおこなった場合を評価するため「配置医師緊急時対応加算」の見直しがおこなわれたり、「退所時情報提供加算」については入院時の医療機関に対する情報提供を評価する新区分が創設されたりするなどしました。

実際にこういった体制を実現するために、例えば定期的な会議の開催等、どの様におこなえば良いかというご質問をいただくこともあります。

これらについては、協力医療機関と配置医師の同一化というのが、最終的に目指すべき医療連携の体制になるのかと考えております。特に「診察」については「配置医師緊急時対応加算」の見直しが、「入院」については「退所時情報提供加算」の新区分創設が連動する形となっています。体制を構築しつつ、綿密な連携体制が取れるように加算を整備したということになるのでしょう。

理想としては、配置医師を協力医療機関から派遣されているという体制を組み、基本的には配置医師の稼働に応じて従来通りの単価で謝礼を支払うという方法を取ることです。こうすれば、従来のドクターにかかる人件費をそのままに、「協力医療機関連携加算」等の各種加算を算定することにもつながります(緊急の診察があった場合は「配置医師緊急時対応加算」で対応するという形になります)。

定期的な打ち合わせについては、定期往診の際に確認が必要な入所者の情報を随時整理しておき、その相談を以て実施という形を取ることができます。もちろん、実施記録を残しておくことは重要です。

連携体制の見直しという、大きな変更になるので、なかなか早期の実現は難しい部分もあるかと思います。方向性として示されたものではあるので、中長期的な体制の見直しは、視野に入れて良いかも知れません。

 

4.科学的介護に関する各種加算について

LIFEの稼働が開始ししばらく経ち、フィードバックの形も変化してきているなど、科学的介護に関する取り組みについては注目が高いようです。

その中でも良く聞かれるのが「フィードバックされたデータの活用方法がわからない」といったものがあります。これは「科学的介護推進体制加算」や「個別機能訓練加算(Ⅲ)」等、フィードバックの活用を求められる加算において、きちんと求められることができているかという不安から聞かれることが多いようです。

原則的にフィードバックの内容は「時系列での変化」と「全国平均との比較」の2つの軸でおこなうことになります。

「LIFEのフィードバック見直しイメージ」[ⅰ]

 

「時系列での変化」については、自事業所で何らかの取り組みを継続しておこなった結果、時間を追うことで良いアウトカムまたは悪いアウトカムを見つけることができます。良いアウトカムについては更なる改善をおこなうための次の策、悪いアウトカムについて介入内容の見直しをおこなうきっかけとするものになります。

「全国平均との比較」については、全国の類似した利用者との比較をおこなうことで、利用者個人の全国平均より優れている点、不足している点が可視化され、特に不足している点についてどのような介入ができるかの検討のきっかけとなります。

重要なのは、いずれも議論のきっかけに過ぎないという点です。このフィードバックは各種計画やケアプラン等への反映を目指すものですが、つまりは計画やケアプランを実施した後、それを見直す際の参考資料という位置づけになることになります。例えば「個別機能訓練計画」の場合、「個別機能訓練実施後の対応」についてフィードバックの分析を記し、それを受けて次期の計画を立案するという流れになります。

こうすることで、フィードバックの活用をおこなうとともに、その実施記録が残るということになります。また、その分析をおこなうにあたっては、多様な視点から検討するという観点からも、以前より推奨されている多職種で連携したチームで実施することが望ましいといえるでしょう。

 

特別養護老人ホームにとって今回の改定は経過措置が設けられたものも多く、ある程度は既存の体制を継続していくことができるようにも見えているかも知れません。ただ、報酬改定自体は、中長期的に国が目指す方向を示すものであり、永続的な経営を目指すのではれば必ず本質的な対応が必要となります。

本稿をきっかけに、なかなか次に進まなかった対策が一歩進むきっかけになることができましたら幸いです。

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[ⅰ] 一本化概要・全体説明資料

[ⅱ] 介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について

 

 

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著者
株式会社スターパートナーズ代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム代表理事
脳梗塞リハビリステーション代表
MPH(公衆衛生学修士)齋藤直路