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薬局の倒産

2024.09.20

 

【目次】

  1. 過去最多となった薬局の倒産
  2. 従業員数別にみた倒産件数
  3. 地区別にみた倒産件数
  4. 「変革の波」に乗るべきか

 


1.過去最多となった薬局の倒産

東京商工リサーチによると、今年1月から7月の調剤薬局の倒産数が22件と、過去最多(薬事日報821日付)だったらしい(注1)。

このレポートではコロナ禍の影響や異業種からの参入などといった業界の変化に軽く触れた後で「デジタルシフトなど、ビジネスモデルの変革の波に乗れない「調剤薬局」は、さらなる淘汰にさらされる可能性が高まる。」と締めくくっている。本稿では、この主張について吟味してみたい。

 

2.従業員数別にみた倒産件数

まず、倒産件数を従業員数別にみてみると、「10人未満:13件」、「50人以上300人未満: 1件」、「300人以上:1件」ということで10人未満の薬局が59%を占めるらしい。これだけをみると小規模な薬局の倒産が多い印象を抱くかもしれないので、分母を規模別の企業数で調整した上で確認してみよう。

厚生局が公表している医療機関一覧から、開設者ごとに常勤者数を集計してみた(開設者は法人代表であることが多いので、開設者の人数を企業数とみなす)。非常勤職員や薬局に勤務していない従業員(本社勤務など)を数えていないため、あくまでも大まかな集計ではあるのだが、これを分母として倒産件数の割合を算出してみると、10人未満の薬局での倒産はむしろ少なく、レポートでは言及されていない10人以上50人未満の薬局の方が割合は高い。

 

従業員数

開設者人数(法人含む)

倒産件数

割合

10人未満

20217人

13

0.000643

10人以上50人未満

1789人

7

0.00391

50人以上300人未満

213人

1

0.00469

300人以上

36人

1

0.0278

合計

22255人

22

0.000988

 

3.地区別にみた倒産件数

次に、地区別の倒産件数を見てみる。「半数を関東が占めた」ということなのだが、関東は薬局数がそもそも多く、「薬局の増減数」と「倒産件数」は強く相関している(相関係数=0.870)。薬局の多くが門前薬局であるため、診療所と薬局について直近の2022年度と2021年度との差を確認してみる(注2)と、さらに強く相関している(相関係数=0.97)。

 

地区

診療所増減数

薬局数増減

倒産件数

開設者人数

関東

575

278

11

20317

近畿

201

118

4

10997

九州

41

35

2

7738

四国

-13

12

0

1969

中国

-58

-19

0

3838

中部

79

106

0

10694

東北

29

40

2

4483

北海道

36

14

3

2339

総計

890

584

22

62375

 

つまり、診療所が増えているところでは薬局が増え、倒産も起きているが、診療所が増えていないところでは薬局数も安定し、倒産も起きにくい。それでは、診療所が増えているところでは「ビジネスモデルの変革の波に乗れない薬局」が多いのだろうか?筆者の感覚では、倒産件数という指標は変革の波に乗れたかどうかを示すものではなく、むしろ単純な廃業やM&Aといったソフトランディングではなく会社更生法を適用するようなハードランディングを選んだ経営判断を示すものだ。

「調剤薬局」という業態は、処方箋枚数が減った場合には事業としての見切りをつけるのが容易で、実際に筆者の地元でも診療所が廃業したり移転したりするとほぼ同時に薬局も閉店する。この見切りの判断が難しく、経営者が頑張った結果としてハードランディングに至るのはどのようなケースなのだろうか。

 

4.「変革の波」に乗るべきか

薬局が乗らなければならない「ビジネスモデルの変革の波」のようなものがもしあるとすれば、それは保険調剤だけでは経営を維持するのが難しくなってくるという変化であり、政府が旗をふる医療DXではないと筆者は考える。現在の医療DXは本質的には保険調剤制度の内部での資源配分の見直しに過ぎない以上、その成否は処方元医療機関の経営に依存せざるを得ない。仮に一生懸命に投資をしてDX対応したとして、処方箋の多くを依存する医療機関がなくなった時にその投資を活かして薬局を維持できるのかといえば疑問だ。

資本力の高いドラッグストアや大手調剤チェーンであれば、そのような投資によって市場を変えていこうとするだろう。逆に保険調剤への依存度が低く薬剤師個人のスキルで商売をしているような個店であれば、わざわざ費用対効果の見えない技術に投資する必要もない。しかしこれといった特徴もなく保険調剤だけに依存する中小薬局にとっては、特徴がないからこそ「波に乗り遅れないために」投資をせざるをえないという判断が財務に影を落とすことになる可能性がある。実際には、薬局経営者はこのようなお金の使い方には非常にシビアだが、同時に「右へならえ」というメンタリティも強いように見える。このあたりに、10人〜50人規模の薬局での倒産が比較的多いことの機微が潜んでいるような気がする。

 

注1

https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1198823_1527.html
日本産業分類上の「調剤薬局」で負債額が1000万円以上の倒産を集計・分析したとのことだ。

 

注2:

薬局数は衛生行政報告例
診療所数は医療施設調査

による。

 

 

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著者:薬事政策研究所 代表 田代健

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