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8兆円を超えた調剤医療費
2024.10.18
厚生労働省が9月3日に公表した「調剤医療費の動向調査」によると、調剤医療費(電算処理分、以下同様)令和5年度に初めて8兆円を超えた。(薬事日報9月6日付など)。ちなみに、10月11日に公表された国民医療費では調剤医療費を7兆9903億円としているが、令和4年度の実績を集計しており、同年の調剤医療費の動向調査も7兆8332億円とほぼ一致している。この2つの統計の違いは管轄する部署にあり、国民医療費は厚労省統計情報部が公表し、正式なデータとしてはこちらが利用されることが多い。一方、本稿で取り上げる医療費の動向調査は同省保険局が公表しており、速報性に特徴がある。
調剤医療費8兆2,678 億円のうち、技術料が 2 兆 2,474 億円、薬剤料が 6 兆 41 億円だった。前年からの増減額は、調剤医療費の増加額4346億円のうち技術料の増加額が1210億円、薬剤料の増加額が3134億円となっており、薬剤料の増加が約7割を占める。
政府は薬価の高騰やそれに伴う「薬価差益」の拡大を抑制することに腐心しているわけだが、薬局経営という観点からは「医薬品の廃棄」の高額化も重要な問題ではないだろうか?
今回、医薬品の廃棄に関する調査を探したところ、政府が後発医薬品の普及政策を評価するために行なった調査が2件見つかった(資料1,資料2)。本稿ではこの資料のデータを利用させてもらい、薬局でどの程度の廃棄が生じているのかを大まかに掴んでみたい。ここでは後発医薬品に注目しているわけではないので医薬品全体に関するデータに限り、2つの資料を比較するために対象期間を月単位にそろえてみる(表)
2016 年 |
2017年 |
2021年 |
2022年 |
||
在庫金額(円) |
平均値 |
8,311,066 |
8,427,541 |
8,456,417 |
9,272,638 |
標準偏差 |
7,991,424 |
8,036,009 |
8,823,923 |
11,535,714 |
|
中央値 |
6,075,000 |
5,984,026 |
631,6,500 |
5,861,500 |
|
変動係数★ |
0.96 |
0.95 |
1.04 |
1.24 |
|
購入金額(円) |
平均値 |
8,173,270 |
8,201,927 |
6,226,014 |
6,073,277 |
標準偏差 |
8,756,821 |
8,374,100 |
8,529,227 |
8,190,918 |
|
中央値 |
5,502,786 |
5,715,138 |
3,984,000 |
3,719,500 |
|
変動係数 |
1.07 |
1.02 |
1.37 |
1.35 |
|
廃棄額(円) |
平均値 |
28,357 |
28,639 |
38,547 |
37,692 |
標準偏差 |
76,037 |
75,184 |
160,287 |
150,764 |
|
中央値 |
10,450 |
10,941 |
10,845 |
9,333 |
|
変動係数 |
2.68 |
2.63 |
4.16 |
4.00 |
|
廃棄額(平均)/ 在庫金額(平均) |
0.341% |
0.340% |
0.456% |
0.406% |
*2016年と2017年の数値は資料1による。数値は各年の6月または直近の年度末時点のもの。2021年と2022年の数値は資料2による。こちらは各年の8-10月の3ヶ月間の合計値または各年度末の11月1日時点の値を掲載しており、資料1と比較するために合計値の項目を3で割った平均値として利用した。
★「変動係数」は標準偏差を平均値で割った値で、データのばらつきの広がりを評価するために用いる。
「薬局が在庫する医薬品の何%が廃棄されるか?」を平均値から概算すると、2016-2017年では0.34%を占めていたのが2021年で0.45%と増加している。2022年に0.40%と少し減少したが、これは分母の在庫高が増加したことによるもので、数年後にはこの年の在庫の廃棄額が遅れて上昇してくるかもしれない。
たまたま、コロナ禍を前後に挟むような期間の比較になっているが、在庫金額、購入金額の変動係数は安定しているのに対して、廃棄額の変動係数がもともと高かったのがさらに倍増している。中央値はほとんど変わっていないことから、廃棄額の分布の右側の裾野が拡大している、言い換えると1万円以上(特に4万円以上)を廃棄している薬局が増加していることがわかる。このことから、廃棄率も平均値から得られる0.4%前後という見積もり値より何倍も高い割合で廃棄している薬局があることが想像できる。
薬価差益を多く得ている薬局と廃棄額の多い薬局が一致していれば、経営的にはバランスがとれていると言ってよいだろう。しかし、高額な薬物の治療を中断した場合や処方日数が中途半端だった場合に生じる損失や、10月から始まった長期収載品の選定療養化に伴って生じる長期収載品の不動在庫といった問題は、一人の患者のためだけに在庫を用意することが多いタイプの薬局、すなわち政府が推奨しているはずの面分業の薬局で負担が大きくなるはずであり、制度設計に矛盾があるということにならないだろうか。
今回は既存の統計から大まかな見積もりを立てることしかできなかったが、これらの実際の数値がどうなっているのか、技術料で在庫の損失をどこまでカバーできているのか?といった実態について、たとえば廃棄率が1%に達する前の早い段階で業界団体は調査すべきだと筆者は考える。
(資料1)平成 28 年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査(平成 29 年度調査) 後発医薬品の使用促進策の影響及び実施状況調査 報告書