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新「LIFE(科学的介護情報システム)」を活用したケアの質の向上
2024.10.29
【目次】
1.科学的介護の推進が加速している
介護報酬改定に合わせて新しい「LIFE(科学的介護情報システム)」が7月末より稼働されました。そして直近では、10月3日に新LIFEのマニュアルや解説動画等が厚生労働省より公表されました。[ⅰ]
従来より示されていた科学的介護推進の流れは、いよいよこれから本格的なものになることが予想されます。本稿では、その意義や考え方について確認をしていければと思います。
そもそも科学的介護とは何でしょうか。「科学的介護情報システム(LIFE) 第1回説明会」においては「データを活用したケアの見直しを支援すること」がその目的とされています。[ⅱ]
「科学的介護情報システム(LIFE) 第1回説明会」[ⅱ]
全国の介護事業所のデータを一元的に収集し、その集積されたデータを活用し各事業所で実施しているケアの内容の見直しをおこなう上での参考となることを目指しています。また、LIFEからのフィードバックを通じて、更なるケアの質の向上につなげるという狙いもあります。医療でいうところの「EBM(Evidence-Based Medicine)」を、介護でも目指す取り組みの一歩ということができるでしょう。
その過程で、自事業所でLIFEへのデータ提出の取り組みをおこなうことにももちろん意義があります。一つは、LIFEを活用することにより事業所内外で共通の指標を通じて利用者の状態の把握をすることができるということです。客観的な指標を介することで、利用者に関わる職員が共通の目標に向かって取り組みやすくなることが期待できます。
また、データを定期的に取得することで、利用者の日々の状態やその変化が「見える化」されるようになることにも意義があります。LIFEのフィードバックでは、利用者の状態が以前とどのように変化したのか、全国の同じような利用者と比較してどのような状態であるかが「見える化」されるので、計画やケアの内容の見直しに活かすこともできます。実際に改善のフィードバックが目に見える形になれば、ケアに携わる職員のモチベーションにもつながります。
データを取得し、それを取りまとめ提出するという手間は決して少ないものではありません。しかし、こういった活動が自事業所のケアの質の向上につながることが期待できるとともに、全国の事業所がその取り組みをおこなうことで、日本全体のケアの質の向上につながる未来も期待できます。まだ始まって間もない取り組みですが、科学的介護の推進には大きな意義があるといえます。
2.データの活用方法を模索する
共通の指標を取得し事業所内で共有することは、議論を進めていく上でも有効であることに間違いはありません。しかし、コンサルティングの現場等ではたまに、LIFEへのデータ提出はおこなっているもののその活用方法がよくわからない、といった声を聞くことがあります。
たしかに、従来使っていなかった新しい評価方法を取得したとしても、なかなかそれをすぐに使いこなすことは難しいかも知れません。できることであれば、ケアの中核となるようなメンバーが、その考え方について学んでおいた方が望ましいでしょう。
これについては、令和3年度より公開されている「科学的介護に向けた質の向上支援等事業 事例集」が有用です。厚生労働省の「科学的介護情報システム(LIFE)について」より参照することができます。
↓
「科学的介護情報システム(LIFE)について」[ⅰ]
例えばその事例の中に、全国平均との比較を通じて、自事業所の認知症ケアの見直しにつながったというものが挙げられています。
「科学的介護情報システム(LIFE) 第1回説明会」[ⅱ]
全国平均と比較して、自事業所の平均の要介護度はあまり変わらない一方で、年齢分布はやや高い状況であること、認知症高齢者の日常生活自立度はやや低い状況であることに気付き、それをきっかけに職員間で認知症ケアの見直しを実施、PDCA サイクルの推進につなげたという事例になります。こういった、自事業所の全国平均とのズレ等は、現在のケアの在り方の改善点であったり、時に強みを見出す際に有用なものになります。
事例集の読み合わせ等をおこなうことで、データの中からこういった差異を見つけることの意義と、それを改善につなげるための実践が職員間に浸透すれば、よりLIFEの活用が日々のケアに生きてくることになるでしょう。
3.科学的介護の今後の展望
最後に、科学的介護の今後の展望についてお話しします。
まず第一に、LIFEという大規模なシステムを立ち上げたことや、科学的介護推進体制加算が創設されるとともに他の各種加算とLIFEが密接に関わり合っている現状を踏まえると、今後も科学的介護推進の取り組みは介護保険事業における中核的な存在となっていくことが予想されます。将来的には、取り組みを実施していないということがマイナス評価されるような仕組みが導入される可能性もゼロではありません。負荷のかかる内容ではありますが、取り組みの意義も踏まえた上で、実施を進めていきたいところです。
そして次に、これもまた介護保険事業における今後のキーとなりうるアウトカム評価とも、この科学的介護の推進は切り離せないところにあります。
主たるものとしてはADL維持等加算等があり、現在はその評価は限定的なものとはなっていますが、今後、おそらくアウトカムを高く評価する、過去に介護老人保健施設でおこなわれたようなドラスティックな報酬改定がおこなわれるのではないかと考えています。それに備えて、早い時期から事業所内に科学的介護の考え方や取り組みを浸透させる必要があるでしょう。
最後に、認知症ケアに関する取り組みです。これはLIFEとは少し離れますが、ADLや排泄等については、アウトカムについて何点か評価する加算が存在していますが、認知症ケアについてはアウトカムを評価する加算は現時点では整備されていません。
これは、今回の改定において多機能サービスにおける認知症加算の変更やグループホーム等における認知症チームケア推進加算の創設等、計画等のプロセスを評価する体制がようやくできたところであり、現時点ではアウトカムまでを評価の対象とする段階にないからではないかと考えています。
ただ、DBD13やVitality Index等、認知機能を評価する項目はもちろんLIFEの中に取り入れられており、今後、他のものと同様、アウトカムを評価する流れにはなるものと思われます。
いずれにせよ、科学的介護とアウトカム評価は、今後の介護保険事業における中核となることが予想されます。今回、大きくLIFEが変わったことをきっかけに、ワーキンググループを立ち上げる等、重点的な取り組みを開始されてはいかがでしょうか。
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[ⅰ] 科学的介護情報システム(LIFE)について
[ⅱ] 科学的介護情報システム(LIFE) 第1回説明会
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筆者:
株式会社スターパートナーズ代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム代表理事
脳梗塞リハビリステーション・グループ代表
MPH(公衆衛生学修士)齋藤直路