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介護事業と事業所内保育①

2022.01.10

介護事業と事業所内保育①

株式会社スターパートナーズ代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム代表理事
脳梗塞リハビリステーション代表
MPH(公衆衛生学修士)
齋藤直路

            • 何故、いま、介護と保育か?

            これから、介護業界における事業所内保育への取り組みについて解説をしていきます。まずは何故、いま介護業界で「事業所内保育」が注目されているのかを解説します。

            そもそも「事業所内保育」という取り組み自体は、決して歴史の長いものではありません。恐らく、1990年代にはまだほとんど聞かれることもなかった名称ではなかったかと思います。

            それが、待機児童の問題や、病院での看護師不足などの問題が注目されはじめた2000年代頃、院内保育という名称で、医療機関などに併設されるケースが出てきました。その後は、特に女性が多く働く職場で、福利厚生として取り組まれることが増加していきました。求人応募獲得にも有利に働くという一面もあります。介護業界でも女性が多く働く業界で、早い段階から注目している企業も多かったかと思います。

            しかし、介護業界では収益構造の関係からか、なかなか広まることはありませんでした。その状況が劇的に変わったのが、内閣府が2016年より開始した「企業主導型保育事業」です。これは、事業所内保育所の設置および運営に対し助成金を支給する事業で、画期的だったのは、これまでは行政の計画の中にある保育事業にしか支給されなかった助成金が、企業単独の計画でも(条件をクリアすれば)受給できるようになったことでした。

            もともと女性の就労割合が多く、求人も困難な介護業界では、この事業への取り組みが一気に広がっていきました。そもそも、待機児童問題は大都市圏だけのものと捉えられがちですが、実は地方部でも保育園に入れない子どもは数多くいます。主に0~1歳の子どもで、人員配置基準上、どの保育園もこのあたりの低年齢の子どもには多くの定員を割くことができません。「自分の住んでいるところでは、待機児童がいるとは聞いたことが無い」と思われるかも知れませんが、いわゆる待機児童として報じられるのは新年度の開始する4月時点で入園できなかった方々を指します。そのため、待機児童がいないとされている地域でも、年度の途中から徐々に定員が埋まっていき、秋口以降は入園を希望しても入れないという状況が生まれてくるのです。そういった年齢層の子どものいる母親は、年度途中から子どもを預けて働こうと思っても(大都市圏なら年度初めからさえ)働くことができないという状況が発生します。

            そんな方々の働きたいという要望を即座に汲み上げることができるのが、事業所内保育所を持つ法人の強みとなります。

            また、単純に働いている事業所の近くにあるということも大きな魅力になります。バス送迎のある園は決して多くなく、あったとしても、基本的に3歳以上にならないとバス登園はできないという園がほとんどだからです。もちろん、何かあってもすぐに駆けつけられるという安心感も、働く母親にとって喜ばれる点です。

            以上の様に、介護事業所で事業所内保育を実施することで、採用活動で優位に立つことができると言えます。

            • 介護施設に保育園を併設することのメリット

            事業所内保育所を設置する場合、そのほとんどは介護施設に併設する形で設置されるので、自然と高齢者と園児を交流させようという取り組みが行われることがでてきます。これらは幼老複合型(または一体型)施設と呼ばれ、全国的にも数が増加傾向にあります。そういった幼老複合型施設で実施される利用者と子どもとの交流は、利用者の方に非常に喜ばれることは皆様もご存知のことと思います。

            実際に保育施設と併設して頻繁に交流を行っているとある施設で実施されたアンケートによりますと、交流頻度の現状維持もしくは更なる向上を希望する高齢者は100%という結果になりました [ⅰ]。高齢者の方は、やはり子どもが大好きなようです。

            また、幼児の面倒を見ることが役割の創出につながるとの意見もあり、子どもとの頻繁な交流は、利用者のQOL向上や意欲増進にもつながるという、大きなメリットを生むようです。利用者だけでなく園児にとっても、様々なメリットが生じるとの研究結果が有ります。

            「高齢者との交流が子どもに及ぼす影響」に関する研究によると、子供の共感性の発達が促進されると結論づけています[ⅱ]。コミュニケーションスキルの向上につながるとの研究結果もあります[ⅲ]。他にも、こういった高齢者と子どもとの交流が頻繁におこなわれる施設は、文化や社会生活を身近に体験できる場として貢献しているとの意見もあります。

            事業所内保育所の設置は、利用者・園児(つまりはそこで働くスタッフの方にも)両方にメリットがあることをご説明しました。実はこれ以外にも、事業面でのメリットも存在しています。

            現在、介護・医療業界は人材不足の状況にあり、様々な事業所が福利厚生を充実させ、求人活動をより効果的に進めたいと考えています。今後連携を密にしていく介護事業所や医療機関などに対し、もし単独で保育園を運営できない事業所であるならば、提携事業所内保育所として保育枠を貸し出すことで、より強い関係性を築いていくことができるようになります。

            地域包括ケアシステムの構築が更に進んでいく中で、異業種・異事業所間の連携は必ず必要になってきます。それを見越して、こういった布石を打つことにも活用できるのです。

            • 「事業所内保育所」の実情と課題

            そもそも、「事業所内保育所」を作るとして需要はあるのかという疑問があると思います。これについては、実際に働かれているスタッフは育休を取られているスタッフに聞くのが最も正確ですが、いままで見聞きしてきた感覚からするとスタッフ数の10%前後が開設直後から利用する傾向にあるように思います。つまり、スタッフ数が30名であれば、立ち上げ当初の利用はおそらく3名程度からになると思われます。

            これに加えて、それまでは働いていなかったが、事業所内保育所があるという条件を見て求人に応募してくる方もいらっしゃいます。これは、開設直後ではなく徐々に増えてくることになります。反響は地域性によって全く変わってくるので一概には言えないですが、全く反響がないということは経験がありません。ある程度の求人応募、および園の利用は見込めると考えて良いでしょう。

            また、一方で課題もあります。地方部でも保育園の0~2歳児の枠は取りづらく、そういった特にその年齢のいる方には事業所内保育所の設置は喜ばれるというお話しを第1回でしました。その反面、3歳以上になると地域の保育園へ入ることは容易になります。

            上記の通り、「事業所内保育所」の利用者数はものすごく多いというわけではありません。定員は10名から、多くても20名程度の規模になることが多いでしょう。そして3歳を超える頃になると、幼稚園が始まるように、保護者は小学校入学に向けた集団生活の訓練を考えるようになります。

            そうすると、3歳になるのを機に事業所内保育を辞め、地域の大規模な保育園に転園してしまうということが発生してくるのです。これに対しては、2つの対策が考えられます。

            1つは、2歳での卒園を前提にして、定員枠を0~2歳児のみに設定すること。こうすることで、定員枠のロスを無くすことができます。

            もう1つは、ずっと利用したい、魅力的な保育カリキュラムやサービスの作り込みを実施するということです。

            その為には、どの様なカリキュラムやサービスが保護者から求められているのかを知り、そして構築していかなければなりません。

            • 保育コンテンツと地域性

            では、3歳を超えた園児の転園を防ぐために、保護者に求められる保育カリキュラムやサービスを開発していくにはどうすれば良いのでしょうか。具体例も含めて解説します。

            そもそも保育園の保育方針については、監督官庁である厚労省より発表されている「保育所保育指針」にてその大まかな方向性はまとめられています[ⅳ]。その中で、どんな理念を掲げるのか、どんな保育を実施するのかについては各事業者にゆだねられています。これらを決める上で重要なのは、運営者の「これをやりたい!」という前向きな気持ちと、もうひとつ忘れてはいけないのが「地域性」です。

             

            例えば、東京でも23区内、特に世田谷区や杉並区といった地域では、小学校、中学校で私学を受験する割合が非常に高くなっています。こういった、教育的思考の強い地域で求められるのは、学習機会をカリキュラムに組み込む事や、幼児教育を導入している保育園が好まれます。幼児教育では、モンテッソーリ教育などが有名で、導入している園も数多くあります。

            地方部では別の傾向が見られます。開設をお手伝いした就学前児人口がかなり少ない高齢化の進んだ地域では、認可保育園が2~3か所あるだけの地域で、実施している内容も特色は薄い地域でした。こういった場所では先進的な取り組みはかえって好まれない傾向があるので、既存の保育園でも人気のある「外出と地域交流」に着目し、大規模園では難しい高頻度の「外出と地域交流」を実施することで差別化を図りました。

            また、保育プログラム以外でも差別化が可能な点はあります。事業所に併設していれば送迎の手間もかからないですし、また同法人なので時間にも多少の融通を効かせることができます(数分遅れただけで保護者が保育士に嫌味を聞かされるという話は日本全国で聞きます)。

            早番遅番の為に営業時間を地域で一番長く取ったり、通常は持ち帰りでおこなう洋服や布団の洗濯を園でおこなうということも有効です。事業所内保育所ではないですが、買い物代行をおこなう保育園なども登場しています。但し、これは数年前に東京で開始されたサービスなので、地域によっては保育士の理解を得られにくい可能性もあるでしょう。以上の様に、様々な方向性での差別化が考えられますが、重要なのは「地域性」に配慮したサービスを考えることだと言えます。

            その為には、地域にある他の保育園ではどんなカリキュラム、サービスを提供しているかの調査をおこなったり、実際に子どもを預けているスタッフに聞き取りをするなどして根拠を持つことが重要です。



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            [ⅰ] https://t-bunkyo.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=18&item_no=1&attribute_id=17&file_no=1

            [ⅱ] https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssp/25/1/25_KJ00005698862/_pdf

            [ⅲ] https://www3.sonoda-u.ac.jp/tosyo/ronbunsyu/%E5%9C%92%E7%94%B0%E5%AD%A6%E5%9C%92%E5%A5%B3%E5%AD%90%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E8%AB%96%E6%96%87%E9%9B%8646/069-087.PDF

            [ⅳ]https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000202211.pdf