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介護事業と事業所内保育②

2022.01.11

介護事業と事業所内保育②

株式会社スターパートナーズ代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム代表理事
脳梗塞リハビリステーション代表
MPH(公衆衛生学修士)
齋藤直路

          • 事業所内保育所の運営方法

          前回までは、介護施設における事業所内保育所の実情や方向性について解説してきました。今回は、実際に事業所を運営するならばどんな方法があるかについてお話しします。

          現時点では、「事業所内保育所」の運営方法として挙げられるのは大きく3つです。

          一つ目の方法は、認可外保育施設、いわゆる無認可と呼ばれる形態です。名称からすると、全く制限なく自由に始められそうに聞こえますが、厚労省から出されている「認可外保育施設指導監督基準」に定められた基準を運営する施設になります。基準を満たしていれば設置は自由にできますが、開設後1ヶ月以内にその旨を行政(多くの場合、都道府県)に届け出て、監査を受けた上で、上記基準を満たしているという証明書を受け取ります。自由に設置できる反面、運営は全て独自で実施し、補助等もありません。人件費も考慮すると、事業所内保育所として運営することはなかなか難しいといえます。

          二つ目の方法は、事業所内保育事業と呼ばれるものです。これは平成27年より開始された「子ども・子育て支援新制度」によって新しく作れるようになった形態です。何よりも大きいのは、全て持ち出して運営しなければならなかった認可外保育施設に対し、こちらは設置や運営について行政からの補助を得ることができるということです。但し、行政による認可事業であるため自由に設置することはできません。行政が取りまとめている「子ども・子育て支援事業計画」において、保育定員の拡充が明記されていない場合、設置は難しいものと思われます。行政との折衝の結果、仮に認可を得られることになったとしても、協議や補助金の予算取りの関係等で準備に多大な時間がかかる点は留意が必要です。

          そんな中、平成28年より募集が開始された企業主導型保育事業には大きなインパクトがありました。これは、実際の区分は認可外保育施設だが、一定の基準を満たしていれば設置や運営に補助を出すという制度で、内閣府が主導で運営する政府肝いりの事業でした。つまり、認可外保育施設の自由度の高さと事業所内保育事業の手厚い補助の、その両方を同時に享受できる制度なのです。破格の条件も受け申請が殺到した結果、当初5万人だった整備予定定員が急きょ7万人に拡充されたことはニュースでご覧になった方も多いかと思います。

          現時点では、予定されていた定員の整備が完了したため新規の開設は難しいですが、地域で運営している企業主導型保育事業があれば、提携をおこなうことで優先的な利用枠を確保するなどすることも可能です。

          • 事業所内保育所の運営方法

          保育所を運営する上で抑えておかなければいけない基準について解説します。保育所も介護施設と同様、運営する上で様々な基準があります。イメージは、施設に通うサービスなので通所介護(デイサービス)に近く、人員の配置や面積、設備等について基準が設けられています。基準の詳細は、認可保育園、認可外保育施設、企業主導型保育事業等、該当する保育所の種類によって若干異なるのですが、人員基準については全て一致しています。

          最も手がかかり細心の注意を払う必要がある0歳児は、保育職員1名に対し園児3名、1~2歳児は保育職員1名に対し園児6名、3歳児は保育職員1名に対し園児20名、4歳児以上は保育職員1名に対し園児30名となっています。人員効率的には0歳児が最も悪く、年齢があがるごとに緩和されていくので、一見すると3歳児以上を対象に絞った方が運営はうまくいきそうですが、既に触れた通り、ニーズが特に高いのは0~1歳児であり、3歳児以上は競合も激しくなります。しっかりと実情を把握し、それに合った運営をおこなっていく必要があります。

          面積基準については保育所の種類によって異なりますが、これによって年齢ごとの定員が決まるので、設置の際には精査が必要です。種類としては、0歳児を保育する乳児室、1歳児を保育するほふく室、2歳児以上を保育する保育室・遊戯室の3種類を押さえておきましょう。乳児室とほふく室は一体化することも可能ですが、その場合はベビーベッドやベビーフェンスで0歳児の区画を分けるなどの配慮が必要です。

          保育所独自の設備としては、乳幼児用の小型トイレがあります。20名程度に対して1基とする基準が多いようです。2~3歳児の利用する小さいタイプと、3歳児以上が利用する通常タイプがありますが、実情としては小さいタイプはあまり使用することはないので、どちらか1つを導入するという場面では通常タイプを選択するようにしましょう。また、保育室の20%に相当する採光を確保するという基準や建築基準法上の基準などもあるので、これらは運営する種類ごとに細かく確認していく必要があります。

          その他、基準としてはありませんが、オムツを交換する為のもく浴室やシャワーパン(子供用のシャワーブース)を設置すると、衛生面でも安心でき、保護者に好まれる傾向があります。

          また、介護施設と同様、オムツ等の消耗品が多く有るので、収納も多めに作っておくことがポイントです。

          • 事業所内保育所の求人状況

          事業所内保育所の立ち上げをお手伝いしていると、必ずと言ってよいほど採用についてご心配される声をききます。事業者様は介護分野での人材不足について常に頭を悩ませている(だからこそ、福利厚生としての事業所内保育設置を検討する場合もあります)し、保育士不足という報道を耳にされる機会も多いかと思います。では、実際のところどうなのか。厚生労働省の「保育士の有効求人倍率の推移」によると、以下のようになっております。

          「保育士の油工求人倍率の推移」(厚生労働省)[ⅰ]

          有効求人倍率は全国平均で2.66倍となっています。介護分野に比べるとまだ求人はし易いという印象です。

          全国的に介護施設が増加し、今後も利用者の人口が増加していく介護分野に対し、少子化や過疎化の進む地方部においては、既に保育園の統廃合が始まるなどダウンサイジングの動きも出てきています。また、行政の運営する保育所などでは正職員の数が決まっていて、若手職員や臨時職員がなかなかキャリアアップをしていけないという実情もあり、正職員介護士の求人に対する応募は悲観するほど少なくはありません。しっかりとした採用戦略を立てていけば、介護に比べれば人も集めやすいでしょう。

          但し、都市部やいまなお人口が増えている地域においては採用が難しい場合もあります。保育所の利用率自体は女性の社会進出を促進する流れもあって年々向上しており、少子化の中でも地域によってはいまだ待機児童問題は解消されません。その中で、園の整備と人材の確保においては競争が激化しており、都内では、6名の保育士の採用には500万円ものコストがかかるという例もあります。ハローワークや無料媒体だけに頼った採用活動では採用も難しいと考えられますので、相応の予算を組んだ上で保育士確保に動くことが重要です。

          ただ、悲観することばかりではありません。保育所で働く保育士は必ず資格がなければいけないということではなく、行政の実施する「子育て支援員」を取得する為の研修を修了すれば保育職員として配置することが可能です(1/2以上は保育士を配置する必要があります)。  

          また、介護事業所では、保育資格をお持ちのスタッフも意外にいらっしゃいます。既に法人の考え方を理解しているスタッフの方に兼務や異動をお願いしたり、あるいはお知り合いを紹介していただくといった方法も取ることができます。

          早期に計画を立てた上で、可能なものから考えられる手を順次打っていき、必要を感じれば広告費等に投資をおこなっていくという、地域の実情に合わせた採用プランが最も良いかと思われます。

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          [ⅰ] https://www.mhlw.go.jp/content/R2.11..pdf