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薬局実務に関する海外の文献
2025.01.22
新年にあたって、2024年を通じた海外の薬局実務の動向を総覧してみたい。方法としては、PubMedを利用して2024年の1月から12月までの期間で、タイトル・要約に"pharmacy"と"practice"という単語を含む英語の総説を検索してみた。
該当した文献は58本あった。内訳としては薬学教育に関する文献(20本)と薬局業務のガイドラインや評価といったテーマに関する文献(14本)と、個別の疾患・薬剤に関する薬剤師の介入に関する文献(13本)が多くを占めた。本稿では、将来の薬局実務と関係してくるかもしれない技術に関する文献を、紙幅の都合で3本だけ、かいつまんで紹介したい。
【目次】
1.ウェアラブルデバイス
著者:Iino H, Kizaki H, Imai S, Hori S.
タイトル:Medication Management Initiatives Using Wearable Devices: Scoping Review.
掲載誌:JMIR Hum Factors. 2024 Nov 27;11:e57652.
薬物治療へのアドヒアランスという点からウェアラブルデバイスを論じている。対象疾患としては今のところパーキンソン病、糖尿病、循環器疾患が想定されており、例えば、血糖値を連続的に測定することでインシュリンの量を調節するといったデバイスはすでに知られている。
このようなデバイスの技術に関する文献数が増加していることから、関心が高まっていることが窺えるという。デバイスの位置付けには3タイプある
(1) 処方薬の治療効果をデバイスからフィードバックする
(2) 患者が処方薬を服用したかどうかを検出する
(3) 処方管理機能までデバイスを統合する
当面の課題は、デバイスから得られるデータを患者個人のアウトカムの改善にどう結びつけるかという点だ。
2. 3次元印刷
著者:Cheng JTY, Tan ECK, Kang L.
タイトル:Pharmacy 3D printing.
掲載誌:Biofabrication. 2024 Oct24;17(1).
この総説では、3次元プリンターを利用して、任意の用量の(例えばワーファリン2.67mgのような)口腔崩壊錠を作る、複数の成分を1錠にまとめるなど、患者ごとにカスタマイズした製剤を作る技術についてまとめている。
このプリンタの設置場所については2つのケースが考えられ、薬局のコミットの仕方も変わってくる。
(1) 各薬局が現在の分包機と同じようにプリンタを設置し、患者のために「一錠化」する
(2) 各家庭にプリンタが存在し、自分用の1回分の錠剤を毎回打ち出す
(1)の場合、現在大阪で始まっている一包化の外部委託が将来的には「一錠化の外部委託」に進化するかもしれない。
(2)の場合、先述のウェアラブルデバイスと組み合わせることにより、患者が身につけているデバイスから得られるデータに合わせて毎朝処方量をカスタマイズした錠剤を1錠だけ服用する、薬剤師の仕事は医薬品の原料を患者宅に配送すること、といったライフスタイルが出現するかもしれない。
懸念される課題としては、今のところ3次元プリンタはGMPの基準を満たしていないことや、コンタミネーションや微生物汚染といった点を考慮したメンテナンスの負担などを指摘している。
3.ナノ医薬品
著者:Petrovic S, Bita B, Barbinta-Patrascu ME.
タイトル:Nanoformulations in Pharmaceutical and Biomedical Applications: Green Perspectives.
掲載誌:Int J Mol Sci. 2024 May 27;25(11):5842.
ナノテクノロジーの製薬分野への応用を幅広く紹介している。大まかには、医薬品のファーマコキネティクス的な性質を劇的に改善する可能性がある一方で、投与量を必要最低限に抑えることにより毒性を軽減できるかもしれない。3Dプリンタ技術と組み合わせることでナノ粒子化した薬剤を患者ごとにカスタマイズして経皮吸収させる技術など、いくつかの事例が紹介されている。
ナノ粒子の開発は金属イオンを使用することで進歩してきたのだが、物理学的な技術ではコストがかさみ、化学的な技術では有害な不純物が問題となるなど、新規開発のハードルが高くなってきており、生物学的("Green")なナノ技術が模索されている。
逆にナノ製薬の課題として挙げられているのは、「生体への適合性」「毒性」「免疫系との相互作用」「体内分布と蓄積」「法規制」「環境への影響」「倫理的・社会的な懸念」「長期的な効果や慢性毒性」といった点だ。
最後に、今回の検索でAIに関する総説も見つかるかもしれないと予想していたのだが58本の中には含まれていなかった。ChatGPTなどの技術的な基盤となる大規模言語モデルに関する総説で薬局実務というキーワードを含むものを改めて探すと、1本だけ医療倫理・規制に関するものが見つかった。国内ではAIによって薬歴の書き方が変わるとかDXといった技術が注目されがちだが、これらは薬物治療の本流から見れば枝葉であり、薬局のあり方を根本的に変えていくのは製剤技術そのものの進歩だろうと筆者は考える。