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なぜ、あの薬局には人が集まるのか?大手チェーンに負けない中小薬局の採用・定着戦略NEW

2025.07.18

 

「募集をかけても、応募が来ない」 「やっと採用できたと思ったら、すぐに辞めてしまった」 「大手ドラッグストアに、うちより高い給料で引き抜かれた」

これは、多くの中小薬局経営者が抱える、痛切な悩みではないでしょうか。薬剤師の有効求人倍率は依然として高く、採用市場は完全に売り手市場。大手チェーンやドラッグストアが好条件を提示して採用競争を仕掛ける中、体力に劣る中小薬局は苦戦を強いられています。

しかし、こんな時代でも、地域でキラリと光る魅力を放ち、薬剤師が「ここで働きたい」と集まってくる中小薬局は確かに存在します。彼女ら、彼らは、一体何が違うのでしょうか。

このコラム内容について

給与や休日といった単純な条件競争から脱却し、「働きがい」と「共感」を軸に人材を集め、定着させるための具体的な採用・定着戦略を、徹底解説します。

 

 

【目次】

  1. (1)「選ばれる薬局」になるための情報発信戦略
  2. (2)最強の採用手法「社員紹介(リファラル)採用」を仕組み化する

 


(1)「選ばれる薬局」になるための情報発信戦略

まず、大前提として「良い人材がいたら採用したい」という待ちの姿勢では、もはや誰も来てくれません。自局の魅力を能動的に発信し、未来の仲間に見つけてもらう「攻め」の採用広報が不可欠です。ですから、中の人の顔が見える「採用サイト・SNS」を作ることが重要です。多くの求職者が、応募前に必ず企業のホームページをチェックします。そのとき、どこにでもあるような綺麗な写真と当たり障りのない文章が並んでいるだけでは、その他大勢に埋もれてしまいます。

ポイント:中小薬局の武器は「個性」と「人間味」

具体案①

経営者の「想い」を自分の言葉で語る: なぜこの場所で薬局を開いたのか。地域に対してどんな貢献をしたいのか。どんな仲間と一緒に働きたいのか。経営者自身の言葉で、情熱を込めて語る動画や文章は、求職者の心を動かします。綺麗にまとまっていなくても構いません。その熱量こそが、共感の源泉となります。

ホームページの専門家から習ったのですが、会社概要と代表挨拶が一番見られるようです。ですから、代表挨拶は「個性」と「人間味」を盛り込みましょう。ちなみに、弊社の代表挨拶では、良い事ばかり書かずに失敗談など等身大で書いています。結構受けが良いです。良ければ見に来てください。

https://kuraya-s.jp/about/(弊社のホームページ、代表挨拶)

 

具体案②

「スター薬剤師」ではなく「等身大の先輩」を紹介する: 「入社3年目、Aさんの1日」「子育てと両立しながら働くBさんのタイムスケジュール」といった、リアルな先輩の姿を紹介しましょう。仕事のやりがいだけでなく、「入社当初、こんなことで悩んだけれど、こうやって乗り越えた」「休日はこんな風にリフレッシュしている」といった人間味あふれるエピソードは、求職者が自分自身の働く姿をイメージする助けとなります。

重要なのは、良いことばかりを並べ立てないことです。「在宅医療は24時間対応で正直大変な時もある。でも、患者さんからの『ありがとう』がすべてを忘れさせてくれる」といったように、仕事の厳しさと、それを上回るやりがいをセットで語ることで、情報の信頼性は格段に高まります。

 

 

(2)最強の採用手法「社員紹介(リファラル)採用」を仕組み化する

リファラル(紹介)採用は、自社のことをよく知る社員が、その友人や知人に「うちに来ない?」と声をかける採用手法です。これは、中小薬局にとってまさに最強の武器と言えます。

理由は3つあります。

①  ミスマッチが圧倒的に少ない: 社員は、自社の文化や仕事内容を理解した上で、「この人なら合いそうだ」という人物を紹介します。そのため、入社後の「こんなはずじゃなかった」というギャップが起こりにくいのです。

②  採用コストを大幅に削減できる: 人材紹介会社に支払う高額な手数料は不要です。

③  社員のエンゲージメントが向上する: 「友人に自信をもって勧められる会社」で働いているという誇りは、社員の定着率をも高める効果があります。

 

取り入れない理由はないですよね。

ただ、実際はリファラル採用が進まない場合も多くあります。それは、「リファラル採用への具体的な仕組みができていない」場合と「社員に会社を誇りに思われていない」場合があります。

 

ポイント:具体的な仕組み

ある程度を仕組み化することで、具体的な行動が伴ってきます

①  インセンティブ制度の導入: 紹介した社員と、紹介で入社した新人の両方に、報奨金(例:各10万円~30万円)を支給する制度を明確に定めます。これは「会社も本気でリファラル採用に取り組んでいる」というメッセージになります。

②  「紹介ツール」を用意する: 社員が友人に自局を説明しやすいように、薬局の魅力や働き方をまとめたコンパクトなパンフレットを用意します。「これ、よかったら見てみて」と手渡せるツールがあるだけで、紹介のハードルはぐっと下がります。

 

ポイント:社員に会社を誇りに思っていただくために。

①    納得感を醸成する「評価制度」と「キャリアパス」

人は「正しく評価されていない」と感じたときに、モチベーションを失います。特に中小薬局では、社長のどんぶり勘定で評価が決まっていると思われたら、社員の心は離れていきます。

ガラス張りの評価制度「処方箋枚数や売上といった数字」「新人教育に熱心に取り組んだ」「地域の多職種連携に貢献した」「患者さんから名指しで感謝の手紙などのように理念に基づいた行動評価なども入れ、運用しましょう。

 

②    多様なキャリアパスを用意する

すべての薬剤師が管理薬剤師や店長を目指したいわけではありません。中小薬局だからこそできる、柔軟なキャリアパスを提示しましょう。

(1)スペシャリスト: 在宅医療、漢方、緩和ケアなど、特定の分野を極めたい人のためのコース。認定資格の取得支援や、学会参加の推奨など、その道を究めるための投資を惜しまない姿勢が重要です。

(2)ワークライフバランス重視: 子育てや介護など、ライフステージに合わせて勤務時間や業務内容を柔軟に調整できるコース。これにより、優秀な人材の離職を防ぐことができます。

 

③    成長を実感できる「学びの機会」を提供する

成長意欲の高い薬剤師ほど、「このままこの薬局にいても、スキルアップできないのではないか」という不安を抱きがちです。会社として、学びの機会を積極的に提供することが、優秀な人材を惹きつける磁石となります。

(1)「全員参加型」の勉強会: 外部講師を招くだけでなく、スタッフが持ち回りで講師役を務める症例検討会などを定期的に開催しましょう。人に教えることは、最も効果的な学習方法です。若手にとってはプレゼンテーション能力を磨く場となり、ベテランにとっては知識を再整理する機会となります。

(2)「越境学習」の推奨: 地域の病院や連携しているクリニック、介護施設などでの研修に参加させてもらう機会を設けましょう。他の職種の視点や専門性を肌で感じる経験は、薬剤師としての視野を大きく広げ、チーム医療への貢献意欲を高めます。

 

④「心理的安全性」という最高のインフラを整備する

心理的安全性とは、「この組織の中では、自分の意見を言ったり、ミスを報告したりしても、罰せられたり人間関係が悪化したりしない」と信じられる状態のことです。これが担保されていなければ、どんなに素晴らしい制度も絵に描いた餅に終わります。

(1)1on1ミーティングの定期開催: 経営者や管理薬剤師が、スタッフ一人ひとりと月に一度、15分でも良いので面談の時間を設けます。業務の進捗確認だけでなく、「最近、困っていることはないか」「挑戦してみたいことはあるか」といった対話を通じて、個人の状況を理解し、信頼関係を築きます。

(2)失敗を許容し、次に活かす文化: 調剤過誤などのミスが起こった際、個人を責めるのではなく、「なぜそのミスが起こったのか」「再発を防ぐために、仕組みをどう変えるべきか」をチーム全員で考える文化を醸成します。ミスをオープンに報告できる環境こそが、医療安全の質を最も高めるのです。

(3)「ありがとう」が飛び交う職場: 経営者や管理者が、スタッフの日々の小さな頑張りを見つけ、「〇〇さん、ありがとう。助かったよ」と具体的に声をかける。感謝の言葉は、お金をかけずにモチベーションを高める、最高の魔法です。

 

 

採用競争が激化する今、中小薬局が大手と同じ土俵で戦う必要はありません。給与や休日といった「条件」で惹きつけるのではなく、「この経営者の下で働きたい」「この仲間たちと共に成長したい」「この薬局で、地域に貢献したい」という「共感」と「働きがい」で選ばれる存在になること。これこそが、私たちが目指すべき道です。

突き詰めれば、採用・定着戦略とは、小手先のテクニックではなく、「社員を大切にする、良い薬局を作る」という日々の実践そのものです。経営者が本気で社員と向き合い、働きやすい環境と成長できる機会を提供し続けること。その真摯な姿勢こそが、最高の求人広告となり、かけがえのない人材という財産を薬局にもたらしてくれるはずです。

最初はハードルが高いこともあるかと思いますが、使えそうな切り口になれば幸いです。

 

 

 EM  

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筆者:

鈴木 素邦 有限会社クラヤ代表取締役 城西大学薬学部非常勤講師

1980年生まれ、千葉県出身。城西大学薬学部卒業と同時に薬剤師免許取得。

薬局薬剤師の経験を経て、専門部署を持てない中小薬局向けのコンサルティング会社を立ち上げ、「お客様の思いをカタチに」をモットーに中小薬局経営者の右腕になれる存在を目指している。特に、1店舗からでも喜ばれるサービスはゼロからの地域支援体制加算の算定、数店舗経営会社からは人材マネジメント、大手企業からは、マネジメント研修が好評。

書籍:その1錠が寿命を縮める薬の裏側

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