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令和8年4月改正 就労移行支援体制加算の適正化 ― 上限設定が意味するものNEW
2026.03.19
【目次】
1.はじめに
令和8年4月より、就労移行支援体制加算の見直しが行われます。今回の改正は「適正化」と位置づけられており、制度趣旨に沿った運用をより明確にする内容となっています。
就労移行支援体制加算は、生活介護、自立訓練(機能訓練・生活訓練)、就労継続支援A型、就労継続支援B型等において、一般就労への定着に向けた継続的な支援体制を評価する加算です。前年度において一般就労へ移行し、6か月以上就労継続している利用者が1名以上いる場合、その人数に応じて翌年度に評価される仕組みとなっています。
一方で、同一利用者が就労継続支援A型等と一般企業との間で複数回離転職を繰り返し、その都度加算を取得する運用事例が報道等で取り上げられました。今回の見直しは、こうした事例を背景に、本来の制度趣旨に沿った運用を徹底する趣旨と整理できます。
2.改正内容の整理
今回明確化された主なポイントは、次の2点です。
1.年間算定人数の上限設定
一事業所で年間に算定可能な就職者数の上限を「当該事業所の定員数」とすることが示されました。これまで制度上明確な上限は設けられていませんでしたが、今後は年間実績として評価できる人数が定員数までと整理されることになります。
2.同一利用者に関する算定制限の明確化
同一利用者については、原則として過去3年間に算定実績がある場合は算定不可であることが明確化されました。これは同一事業所に限らず、他事業所での算定実績も含まれます。ただし、ハラスメント等のやむを得ない事情により退職した場合など、市町村長が適当と認める場合は例外とされています。
なお、令和9年度報酬改定に向けて、就労移行支援体制加算のあり方については改めて議論される予定とされています。

(出典:「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について」)
3.実務への影響
今回の見直しは、すべての事業所に直ちに大きな影響が生じるものとは限りません。定員規模や地域特性によっては、実務上ただちに上限に達するケースは多くないと考えられます。
もっとも、年間算定可能人数が定員数までと制度上明示されたことには意味があります。これまでも翌年度評価を前提とした年度単位での実績管理は当然に行われてきましたが、制度として年間に評価できる人数の上限が明確に示されたことで、評価の枠組みがより明確になったといえます。
実際に上限に達する事業所が多いとは限らないものの、評価できる人数に制度上の線が引かれた以上、年間の就職実績の見込みや管理の方法について、あらためて整理しておく意義は小さくありません。
さらに、今回の改正は単に算定人数を制限するものというよりも、制度の評価軸をあらためて明確にする意味合いも含んでいると考えられます。就労移行支援体制加算は、本来、一定期間の定着という成果を評価する仕組みです。評価枠が制度上整理されたことで、「どれだけ就職させたか」という数量的な側面だけでなく、その就労がどのような支援体制のもとで実現し、どのように定着支援が行われているのかという質的側面にも、より意識が向けられることになるでしょう。
また、同一利用者の過去3年間の算定実績が他事業所分も含めて影響する点は、実務上とりわけ重要です。利用開始時点での就職履歴や過去の加算算定状況の確認が不十分なまま支援を進めた場合、算定可能と想定していた利用者について加算が算定できないという事態が生じる可能性もあります。
就労移行支援体制加算は、評価区分や利用者数によっては年間収支に一定の影響を及ぼす加算です。算定可否の見込み違いは、経営計画にも影響を与えかねません。そのため、利用開始時の情報確認体制や記録管理の仕組みをあらためて整理しておくことが重要になります。
加えて、他事業所での算定実績も通算される以上、利用者本人からの聞き取りのみならず、可能な範囲での情報確認や記録保存の方法を検討しておく必要があります。過去の就労歴や退職理由の整理が不十分なまま支援を進めた場合、後年度において算定可否の判断に迷う場面が生じることも想定されます。
さらに、例外規定の取扱いについても注意が必要です。先に触れたとおり、ハラスメント等のやむを得ない事情により退職した場合などは、例外的に算定が認められる余地があります。しかし、この「やむを得ない事情」に該当するかどうかは、退職理由や支援経過などの個別事情に基づいて判断されるものであり、形式的に判断できるものではありません。
そのため、過去の就労経過や退職理由を適切に整理し、必要に応じて行政窓口へ確認しながら進めることが重要となります。算定可否の見込み違いは、場合によっては経営計画にも影響を及ぼし得るため、事前確認と記録整備の体制づくりが求められます。
加えて、就労後6か月以上の継続就労を確認・証明できる記録の整備も不可欠です。日常的な支援記録や就労状況の確認が十分でない場合、算定要件を満たしていたとしても、その適否を説明できないという事態も想定されます。
4.制度趣旨の再確認
今回の適正化は、一部の運用事例を念頭に置いた見直しといえますが、多くの事業所にとっては従来の支援体制を直ちに大きく変更するものではないとも考えられます。
しかし、制度の趣旨に沿った運用がより明確に求められることになった点は重要です。就労移行支援体制加算は、本来、一般就労への定着支援の実質を評価する仕組みです。算定できるかどうかという視点だけでなく、その支援体制や支援内容を客観的に示せるかどうかが、これまで以上に問われることになるでしょう。
令和9年度に向けて制度のあり方が再議論される予定であることも踏まえると、今回の改正を単なる制限強化と捉えるのではなく、支援体制全体を改めて整理する契機とすることが、今後の安定的な運営につながると考えられます。
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筆者:巽 良太 (行政書士巽良太事務所 代表)
障害福祉分野を専門とし、15年以上の支援現場での経験を踏まえ、
事業所運営に関わる制度整理や運営体制づくりの支援を行っている。
ホームページ:https://www.gs-tatsumi.com/


