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新しい情報に意識が向く時期こそ見直したい 虐待防止措置未実施減算NEW
2026.05.15
【目次】
- 改定時期にこそ注意したい「義務化項目」の盲点
- 曖昧な理解が招く「減算要件」の勘違い
- 実務の壁:「知っている」と「できている」の差
- 運営指導対策:実施記録の不備は全件減算の対象に
- 「平時」だからこそ必要な体制点検のタイミング
- 形式的な開催から、意味のある体制整備へ
1. 改定時期にこそ注意したい「義務化項目」の盲点
■新しい情報に目が向く時期ほど、既に義務化されていることが後回しになりやすい
加算申請や報酬改定の情報が前に出る時期は、どうしてもそちらに意識が向きます。
新しい制度への対応はもちろん大切ですが、その一方で、既に義務化されている項目が「できている前提」で流れてしまうことがあります。
虐待防止措置未実施減算も、その一つです。
この減算は、虐待防止委員会の定期開催と従業者への周知徹底、虐待防止研修の定期実施、担当者の配置といった体制が整っていない場合に、全サービスを対象として所定単位数の1%を減算する仕組みです。制度の骨格だけを見ると、極端に複雑な話ではありません。
それでも、実際の現場では「対応しているつもりだったのに不安が残る」ということが少なくありません。
ここに、この減算の実務上の難しさがあります。

2. 曖昧な理解が招く「減算要件」の勘違い
■そもそも、何が減算要件なのかが十分に整理されていないことがある
まず多いのは、減算要件そのものが十分に整理されていないケースです。
虐待が起きたときにだけ問題になる制度だと受け止められていたり、委員会や研修は「できればやるもの」という感覚で止まっていたりすることがあります。
しかし、この減算で直接見られているのは、虐待事案の有無そのものより、事業所として必要な体制を整えているかどうかです。
ここが曖昧なままだと、「とりあえず委員会を開けばよい」「研修を一回すれば足りるのだろう」といった理解になりやすくなります。
何を整えればよいのかが見えないまま進むため、その先の実施も記録も曖昧になりやすいのだと思います。
3. 実務の壁:「知っている」と「できている」の差
■要件を知っていても、「何をすればよいか」で止まりやすい
次に多いのは、要件の存在は知っていても、実際に何をすればよいのかがつかめずに止まるケースです。
特に小規模事業所や小規模法人では、「委員会」と聞いただけで、自分たちには大がかりすぎて難しいものだと感じてしまうことがあります。
また、研修についても、外部講師を呼ばなければならないと思い込んでしまい、そこで手が止まることがあります。
けれども、制度上は、虐待防止委員会を法人単位で開催することも認められており、身体拘束適正化検討委員会と一体的に設置・運営することもできます。外部の第三者や専門家の活用は「努める」扱いで、必須とはされていません。
大切なのは、要件を満たすことだけではなく、自分たちの規模や体制の中で無理なく継続できる形を持てているかどうかです。減算を意識するあまり、現場の負担が過度に大きくなり、日々の支援にしわ寄せが出るようであれば、本来の趣旨から離れてしまいます。

4.運営指導対策:実施記録の不備は全件減算の対象に
■実際に多いのは、「やっているが残っていない」という状態
実務上、特に注意したいのは、委員会や研修自体は実施しているものの、記録がない、または記録が弱いという状態です。
ここで難しいのは、「やったこと」と「後から確認できること」が別だという点です。
委員会を開いていても、いつ、誰が参加し、何を確認し、どう共有したのかが残っていなければ、行政の担当者が確認したときに、実施内容を明確に把握することが難しくなります。
研修も同じで、開催日、参加者、資料、欠席者への対応などが曖昧なままだと、「実施した」とは言えても、「どのように実施したか」までは示しにくくなります。
この減算は、運営基準を満たしていない状況が確認された場合に適用される仕組みです。
また、個別の利用者への支援内容ではなく、事業所の体制整備に関する減算であるため、適用された場合には対象期間中の利用者全体に影響します。
実務上は、「実施したか」だけでなく、行政の担当者が見ても、実施内容を明確に確認できる形で残っているかが、ほぼ欠かせない視点になります。
不足が明確であれば、まだ見直しの必要性には気づきやすいかもしれません。
一方で、一応は動いていると、現場の中では「できている」と感じやすくなります。
その結果、記録や保存の弱さが後回しになり、いざ確認が必要になったときに不安が表面化します。
5.「平時」だからこそ必要な体制点検のタイミング
■「今は困っていない」が、見直しを遅らせることもある
この論点が厄介なのは、未整備のままでも日常運営がそのまま進んでしまうことです。
委員会記録が弱くても、その日すぐに支援が止まるわけではありません。
研修記録の残し方が曖昧でも、翌日の業務は通常どおり進みます。
だからこそ、対応の優先順位が下がりやすいのだと思います。
虐待防止措置未実施減算は、運営基準を満たしていない状況が確認された場合に、その翌月から改善が認められた月まで減算される整理です。
つまり、日常では表面化していなくても、確認された時点で初めて問題として立ち上がる構造を持っています。
このため、実務では次のような状態が並行して存在しやすいように思われます。
・そもそも減算要件を十分に把握できていない
・要件は知っているが、何をすればよいかがつかめていない
・実施しているが、記録や保存が弱く説明しづらい
・面倒ではあるが、今は特に困っていないため後回しにしている
要件が複雑だから止まるというより、こうしたつまずきが重なって、結果として未整備の状態が残りやすいのではないでしょうか。

6. 形式的な開催から、意味のある体制整備へ
■見直したいのは、開催実績だけではありません
今回見直したいのは、委員会を開いたか、研修をしたか、担当者を置いたかという表面的な実績だけではありません。
要件を把握しているか。
自分たちの規模で無理なく実施できる形を持てているか。
そして、実施した内容が後から確認できる形で残っているか。
虐待防止措置未実施減算は、制度の説明だけを読んでも、現場ではなかなか動きにつながりません。
だからこそ必要なのは、「何が要件か」を知ることだけでなく、「どう実施し、どう残し、どう説明できる状態にするか」まで含めて整えておくことではないかと思います。
虐待防止体制は、特別な時だけ確認するものではなく、日常運営の中で少しずつ整えていくものです。
新しい制度や改定の情報が前に出る時期だからこそ、既に義務化されている内容が「できているつもり」で止まっていないか、あらためて確認しておきたいところです。
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筆者:巽 良太 (行政書士巽良太事務所 代表)
障害福祉分野を専門とし、15年以上の支援現場での経験を踏まえ、事業所運営に関わる制度整理や運営体制づくりの支援を行っている。
ホームページ:https://www.gs-tatsumi.com/


