• 調剤
  • #薬局経営

【シリーズ】2025年を見据えた薬局・薬剤師像を探る 2「マニフェストによる信頼性向上のススメ」

2022.01.10

■調剤以外の経営基盤を構築する

多くの薬局が門前型で外来調剤に特化したスタイルで運営していることに対して、費用対効果や患者メリットの観点から懐疑的な見方が広がっていることから、薬局調剤や医薬分業が批判を受ける場面があります。

こうした状況を是正するために厚労省は「患者のための薬局ビジョン」や「健康サポート薬局」を提示し、あるべき薬局像への転換を促しているのはご案内の通りです。調剤業務に関しても、近年の調剤報酬改定の傾向に見られるように、「対物業務」から「対人業務」へのシフトが鮮明になっています。一方で保険財政のひっ迫を背景に、調剤報酬の伸びは期待できず、従来型の経営スタイルはいずれ行き詰ることが想定されます。

薬局の本来機能を発揮し、同時に経営面でも安定的な基盤を構築することが喫緊の課題となっています。すなわち、対人業務を主体とする調剤業務を進化させつつ、もう一方の経営の柱をどう構築するかです。

今回提唱する「マニフェストによる信頼性向上」は、薬局と地域生活者の距離感をより身近なものとして認識してもらい、健康問題のファーストアクセスの場として薬局を利用して頂くための一種のツールと考えていただければと思います。

一般にマニフェストとは、選挙の際に、政党や立候補者が発表する公約と理解されています。具体性を欠く選挙スローガンや美辞麗句で飾った公約と異なり、政策の数値目標、実施期限、財源などを明示するものです。この考え方を取り入れ、薬局が地域生活者にお約束する具体的な項目と行動が本稿で提唱するマニフェストです。

■薬局の基本方針の延長線上で考える

マニフェストは、ただ単に思い付きで提示するのではなく、薬局の目指す方向、すなわち経営理念、ビジョン、行動計画に沿ったものでなければなりません。これらを具体的に現場レベルまで落とし込み、実行する内容がマニフェストというわけです。マニフェストは地域生活者に対する“公約”ですから、単なるスローガンではなく、具体的に行動で示し、それを継続することが重要です。

従って経営者だけで一方的に決めるのではなく、全スタッフが意義や目的、具体的な行動計画を共有しておく必要があります。マニフェストは薬局の基本方針の延長線上にあり、そのためにはトップから末端まで、全スタッフが企業(薬局)理念、ビジョンを共有し、それを行動計画に落とし込み、具体的な行動に着手するプロセスが重要です。つまり、マニフェストは薬局の理念、ビジョンを実現するための手段の一つとして位置付けられます。

進め方としては、薬局内に「マニフェスト委員会」のような組織を作り、委員会が原案をまとめ、それを全スタッフで再度練り上げ、具体的な取り組み事例としてまとめることになります。重要なことはトップから事務スタッフに至るまで何らかの形で係わり、その内容を共有化することです。

また実践に向けては、各人がバラバラの対応をするのではなく、標準化するための手順書を作成しておくことが必要になります。そのうえで店内の掲示やパンフなどで地域の方々に周知することになります。

マニフェストの効用は、第一に顧客(地域生活者)のロイヤリティが高まることです。すなわち「魅力ある薬局」として存在価値を高めることにつながります。魅力とは「人の心を引きつける力」ですが、「薬局へ行くなら〇〇薬局に行きたい」と思っていただけるような薬局、すなわち、かかりつけ化を進めるうえで有効です。

また重要なことはスタッフのモチベーション向上につながることです。業務に対する遣り甲斐、生き甲斐が醸成され、それが結果として業績向上をもたらします。

一般に「顧客満足度」と言われますが、顧客満足度を高めるためには「従業員満足度」向上を抜きにしては考えられません。もちろん従業員満足度を高めるためには、人事評価制度やスタッフの成長を促す仕組みづくりによって、働きやすい環境を整備することが前提となります。それにより、当該薬局で働く意義やプライドが生まれ、地域貢献のエネルギーとなります。

■最初は無理なく実行できる項目から

何をマニフェストに掲げるかは薬局ごとに違って当然です。また、最初から多くのマニフェストを掲げたり、目標が高すぎたりすれば実現性が乏しくなり、単なるスローガンに陥り、逆効果となりかねません。従ってスタート時は確実に実現できる項目を掲げ、それを達成し、継続的な取り組みが可能になった段階でマニフェストを増やしたり、内容の質的向上を目指すなど、段階的に進化させることが重要です。

マニフェストの例としては、「高齢者自立支援・各種相談のお手伝いをいたします」「服用薬と市販薬・サプリメントとの併用の相談に応じます」「24時間相談に応じます(携帯等による輪番相談体制)」「在宅訪問をいたします」「各種相談会を実施しています(健康、クスリ、栄養、子育て・・・)」「服薬期間中、電話などで服薬状況や困りごと等をお尋ねします」「体験学習を開催しています(こども薬剤師体験、食育教室)」等々、様々な項目が考えられます。

薬局内の勉強会を通じて得られた知識、例えばスキンケアであれば、にきびや肌荒れの相談、肌にやさしい化粧法、アトピー性皮膚炎の相談、ステロイドの正しい使用法等への応用が可能です。すでに実施している事柄であっても改めて店内掲示やパンフ等でお知らせすることで新たなファンが生まれる可能性があります。

多くの地域生活者は、薬局に対して「処方箋がないとは入れない店舗」として認識しています。そうしたイメージを払しょくし、健康問題のファーストアクセスの場として利用して頂けるよう、まずはマニフェスト運動からはじめてはいかがでしょうか。

(筆者)

藤田道男

一般社団法人 次世代薬局研究会2025代表

※2020年7月発行発行の記事を再編集しました(MIL編集部)