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【シリーズ】2025年を見据えた薬局・薬剤師像を探る 3「薬局における地域貢献事例」

2022.01.12

■地域生活者に不可欠な存在となるために

2020年の初頭にはじまった新型コロナウイルス感染拡大は、来局者の減少、収益の悪化など、薬局に様々な影響をおよぼしました。大手薬局チェーンの2020年度第1四半期決算では減収減益の傾向が顕著に現れました。半面、調剤併設のドラッグストアでは増収傾向が目立ち、明暗を分けました。調剤主体の薬局と調剤以外のニーズにも広く応えるドラッグストアの業態の差が出ているのです。

多くの識者が指摘しているように、コロナ禍のもたらした環境変化により、新たな日常生活や経済活動がニューノーマルとして定着していく兆しが見られます。薬局もこれまでの処方箋調剤を主体としたビジネススタイルから保険調剤と健康サポート(健康管理機能)を両輪とするニューノーマルへと脱皮する契機としたいものです。

健康サポートの取り組みの必要性は、2015年に公表された「患者のための薬局ビジョン」や「健康サポート薬局制度」の公表以後、様々な場面で提唱されてきましたが、なお十分とは言えません。そして2021年8月から施行された薬局の新たな機能分類として「地域連携薬局」と「専門医療機関連携薬局」が登場しました。

しかし、制度的な位置づけはともかく、実際には地域の生活者に健康管理機能として評価されているかどうか、健康問題のファーストアクセスの場として認知されているかが重要であり、薬局の分類を届け出ているかどうかは別次元の問題です。

改めて強調しておきたいことは、薬局が地域生活者にとって健康に関する不可欠な存在として認知されることが薬局の「ニューノーマル」につながるということです。

■薬局が取り組む様々な健康相談会

そのための実際の取り組み事例を考えてみましょう。地域貢献の取り組みとしてよくあげられる事例が「お薬相談会」「健康相談会」など、薬局で行う少人数の相談会です。

都内のある薬局では検体測定室を設置したことをきっかけに、検体測定の結果が出るまでの1時間程度の時間を使って「お薬相談会」などを開催しています。内容は妊婦の健康や小児への薬の飲ませ方など多様性に富んでいます。

関東のある薬局では、糖尿病を中心とした特殊栄養食品の相談・販売、介護相談、化粧品・スキンケア用品の相談、漢方相談、鍼灸治療、ダイエット相談など多様な相談会を実施しています。

薬局内ではなく、公民館や自治会会館、地域包括支援センターなどに出向いて行う出前健康教室を開いている薬局もあります。講演テーマは「高血圧」「糖尿病」「骨粗鬆症」などですが、こうした疾患関係以外にも「夏バテ予防」「アロマオイル」「離乳食」「介護保険」など、参加者のニーズに応じた講演も行っているのが特徴です。

薬剤師だけでなく管理栄養士も参加して食と健康相談会、骨や血管の健康チェックなどを行っている薬局もあります。

このような取り組みを行っている薬局は全国に数多く存在しています。これらの薬局に共通しているのは、健康相談会などの相談会だけではなく、OTC薬やサプリメント、中には漢方薬なども品揃えし、日常的に処方箋を持たない来局者も対象とした総合的な店づくりを行っていることです。当然、調剤業務にしてもかかりつけ化に努め、服用薬の一元管理や在宅医療にも取り組んでいる薬局です。健康相談会の開催などは薬局の活動の一環という考え方です。

しかも、これらの取り組みは一過性ではなく、継続的に行っている点が共通しています。店内の案内掲示、チラシ等を使って常に何らかのイベントを告知しています。

初めは参加者が少なくても次第に口コミ等で広まり、処方箋患者以外の来局が増えています。こうした積み重ねが健康問題のファーストアクセスの場として認知されていくことにつながります。

■得意な分野から始める

こうした活動から窺えるのは、「薬局とは何か」という経営理念、ビジョンが確立していて、その理念、ビジョンに基づいて具体的な行動につながっていることです。すなわち、「どのような薬局を目指しているのか」「薬局の使命は何か」を明確にし、それが経営トップから末端のスタッフにまで浸透していることが特徴です。それがスタッフのモチベーション向上につながり、内容も充実する好循環を生み出しています。

先進事例を見て、「当薬局では難しい」と考えてしまうこともあるかもしれませんが、まずはできることから一つひとつ進めていくことが肝要です。スキンケアが得意であれば、ステロイド使用、アトピー性皮膚炎、ニキビ、化粧品の使い方等々、徐々に広げていけます。つまり自局の強みと弱みをしっかり認識し、強みを活かし、弱みを改善していくことです。

また、対象範囲を広げすぎないことも重要です。ドラッグストアの場合、ある程度広い商圏範囲で、不特定多数が対象となりますが、薬局の場合、自転車や徒歩圏の比較的狭い商圏で“特定個人”を対象にした地域密着を徹底することです。ドラッグストアとは同じ土俵で勝負しないことも考え、品ぞろえは相談販売の商材が中心となります。先進薬局の事例を参考にしたり、薬粧卸に相談したりすることも良いでしょう。

新型コロナ感染拡大が依然として続いており、油断はできませんが、コロナ禍を契機に薬局のニューノーマルへと脱皮する機会にしたいものです。

【参考】薬局のニューノーマルへのキーワード(筆者作成)

・自局の分析   →  彼我の強みと弱みを認識する

・理念、ビジョン →  コンセプト明確に打ち出す

・商圏      →  狭小商圏(徒歩圏、自転車圏)

・対象      →  不特定個人ではなく特定個人

・顧客      →  生活者志向(健康人・半健康人、病人)

・地域密着    →  生活者の背景を知る(家族・嗜好・生活習慣)

・目標      →  生涯のファンづくり(健康管理・支援)



(筆者)

藤田道男

一般社団法人 次世代薬局研究会2025代表

※2020年8月発行の記事を再編集しました(MIL編集部)