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【シリーズ】2025年を見据えた薬局・薬剤師像を探る 9「薬学6年制を巡る諸問題」

2022.02.02

2006年(平成18年)にスタートした薬学6年制。すでに身近な医療の現場でも6年制教育を受けた薬剤師が活躍しています。薬学教育が6年制に移行したのは、超高齢社会にあって、とくに医療現場の薬剤師には「問題解決能力」「チーム医療の一員としての自覚」「コミュニケーション能力」といった対人業務の実践能力の向上が不可欠と判断されたためです。

6年制教育を受けた薬剤師は医療人としての自覚が4年制時代の薬剤師と比較しても高いという評価も聞かれます。ただ、4年制時代の薬剤師が能力的に劣っているという意味ではなく、すでに臨床現場でのキャリアの長い4年制卒と6年生卒がそれぞれの長所を生かしながら薬剤師としての職能を発揮することが望まれます。

 

■6年制薬学部の現状

 

2020年夏から、厚生労働省は「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」を開催してきました。医療界、教育界の有識者による会合が行われている中、2021年6月30日に公表された「とりまとめ」には、今後の薬学教育の課題が浮き彫りにされ、この先の医療需要に対する薬剤師のあり方を指摘した内容が含まれています。

全国の薬科大学(薬学部)は長らく46大学で推移していましたが、6年制移行と前後して薬学部の新設が相次ぎ、平成14年時点での46大学から、令和3年には79大学まで増加しています。

薬学部新設の動きは現在も続いていますが、一方で少子化の影響もあり、募集定員に満たない大学も散見されるなど、経営上の問題も浮上しています。

さらに薬剤師国家試験に合格できない学生が4割以上もいる大学もあるなど、学生の資質の維持の課題も指摘されています。

薬学教育における人材の育成・確保はますます重要な課題となっています。6年制教育が目指す臨床における実践能力の充実に関しては、単に教員の人員数だけではなく、臨床経験のある教員、とくに薬局業務に精通している教員不足も指摘されています。

臨床現場における実践能力のある薬剤師を養成するためには、適正な薬科大学と定員数、教育現場における教員の確保など、問題は山積しています。

 

【参考】厚生労働省 - 薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_12285.html

 

■将来的な薬剤師の需給推計と薬学部縮小へ

 

検討会でのとりまとめ報告によると、概ね今後10年間は社会的に薬剤師業務の充実化が求められる中で需要が増加すると考えられるものの、その先には薬剤師数が過剰になると推測されています。6年制開始以降に薬学部新設が増加したことも手伝って、日本全国の薬学部の入学定員合計は、平成14年に8,200人だったところが現在では11,602人と1.4倍に増加。学部の新設はさらに続く状況となっています。

将来的に、人口減少にともない大学進学者総数が自然に減少する中で、仮に各大学が入学定員の維持に努めた場合、入学定員が充足しない大学や入試の実質競争倍率が相当低い大学がさらに増加する可能性があり、その結果、卒業や薬剤師国家試験の合格が困難な学生が増えていく恐れも出てきました。

検討会では、今後の薬剤師の需給推計の精査を行いながら、教育の質の向上に資する目的で入学定員数を抑制する意見も出され、適正な定員規模のあり方や仕組みを早急に検討することが示されています。

 

■就職先と奨学金問題

 

もう一つ、今の薬学生の抱える現状について奨学金の問題にも触れておきます。多額な学費がかかる薬学生の中には、一定数奨学金を利用している実状がありました。

・薬局薬剤師の29.0%が奨学金制度を利用している。

・大学課程では、6年制の方が奨学金を利用している割合が高い。

・卒業時の概算の利用累計額は「200~400万円未満」が最も多く、平均は461万円であった。

・4年制では「200万円未満」と「200~400万円未満」に集中しており、全体の50%を占めている。6年制では「200~400万円未満」が最も多い(18.5%) 。

・600万円以上の割合は、4年制で4.9%、6年制で41.2%と、6年制の方が利用累計額が多い。

このように調査報告がまとめられています。

 

【参考】

「薬剤師の需給動向把握事業における調査結果概要」

第9回薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会より 参考資料2

https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000788085.pdf

 

大手ドラッグストア企業の中には奨学金の返済支援を行っている企業もあり、こうした条件面で就職先を決める学生もいます。奨学金の返済義務がある学生にとってはとても有り難い施策であることは間違いありません。薬剤師の需給問題について地域偏在の問題もありますが、こうした雇用条件も就活に影響を及ぼしていると言えます。

薬局でも未来を担う戦力として若手の薬剤師の活躍が期待されますが、人口減少や医療資源偏在問題のほか、景気動向や薬学部入学者数の変動によって医療現場への適正な人材の配置が引き続き課題となってきそうです。

 

(筆者)

藤田道男

一般社団法人次世代薬局研究会2025代表

※2021年8月発行の記事を再編集しました(MIL編集部)