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自立支援に即した介護サービスの基本と事例③

2021.11.12

自立支援に即した介護サービスの基本と事例③

株式会社スターパートナーズ 代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム 代表理事
脳梗塞リハビリステーション 代表
MPH(公衆衛生学修士)
齋藤 直路

 

  • 「リハビリテーションと栄養」について

これまで「自立支援」の考え方と改善できる根拠として“フレイル”という概念に関して簡単に説明してきました。この「自立支援」を進めていく上で、“フレイル”を改善していくという考え方が非常に重要だと思います。

ここでは両者に関連する「リハビリテーションと栄養」について考えていきます。「リハビリテーションと栄養」というのは、そのままアスリートにあてはめてみると、“スポーツ栄養”に当たります。今では“スポーツ栄養”をおこなっていない、アスリートはいないほど一般的になり、効果が検証されています。パフォーマンスを改善するためには運動だけでなく、栄養的な介入も入れることで双方向的な効果をもたらすということがわかっています。

では介護事業の利用者である要介護状態の高齢者はどうでしょうか。自身の基本的な動作や生活に関連する動作のパフォーマンスが低下しているために介護を必要としています。この高齢者に対してリハビリテーションだけ提供して効果が出るでしょうか。やはり栄養状態の観察や効果的な摂取などが非常に重要となります。

この視点からみる高齢者の身体的機能の改善に必要なポイントは「①個別性の高いリハビリテーション」「②栄養状態のアセスメント」の2つです。

①個別性の高いリハビリテーション

 

“個別性の高い”はマンツーマンのリハビリテーションを指しているのではなく、“集団的で画一的なメニューからの脱却”の意味です。利用者全員が同じような筋トレのようなリハビリテーション・メニューを、同じだけおこなうことで、その方の歩行能力や生活機能が改善されるのであれば、リハビリテーション専門職の存在意義はないでしょう。実際、そのような方法では改善は難しいのではないでしょうか。やはり、きちんとターゲットを絞って、リハビリテーションの考え方が反映されたメニューをおこなうことで、より高い効果が期待できます。もちろん本人の目標やモチベーションが関連することは言うまでもありません。

②栄養状態のアセスメント

現在医療の分野においても、栄養状態が病気の回復に影響を与えることがわかってきています。同じ高齢者を対象とする介護分野においても同様です。“フレイル”にも栄養状態は密接に関わっており、栄養状態の悪化により動作能力が低下してしまうことがあります。

リハビリテーションメニューが大変良いものであっても、それを実施する方の栄養状態が悪ければ、効果は出づらいでしょう。逆に高齢者の貴重な筋を分解してしまう可能性もあります。

しかし、「介護施設では栄養状態を評価することは難しいのでは」と考える方も多いのではないでしょうか。現在は、採血や摂取エネルギー量などによる栄養状態のアセスメント以外にも、体重や体格、足の太さ、食事摂取量の変化など身体的な測定や観察で評価する方法も多く開発されています。MNA-SF(体重の変化や食事摂取などで栄養状態を評価)もその一つです。リハビリ効果を最大化するうえで栄養状態の評価や改善は大変重要な役割を占めているので、これらの手法をぜひ活用していきましょう。

  • 自立支援を促進する体制構築について

 

 自立支援を促進する体制構築に必要な視点は、「①リハビリマインドの構築(スタッフ、ご利用者・ご入居者等)」「②測定体制構築」「③フィードバック体制構築」「④機能訓練・リハビリテーション提供体制構築」「⑤効果分析体制構築」です。全ての基礎となるのは、「①リハビリマインドの構築」です。測定や実施の体制がしっかりしていても、スタッフや利用者の目的意識が低ければ、効果は出にくいでしょう。「②測定体制構築」は、いくら良いリハビリテーションや個別機能訓練の提供体制があったとしても、測定の体制がなければ、効果を改善したと客観的に伝えることはできないからです。

 

①~④の仕組みがすでに構築されている事業者では「⑤効果分析体制構築」を目指しましょう。例えば、「この3か月間の利用者の経過がみえる」「リハビリ体制を変更したことに伴う施設全体の利用者の変化がわかる」ということです。最近では、スマートフォン等で簡単に測定可能なアプリケーションなども多数出ていますので、活用する方法もあるでしょう。もちろん説明できないものはありますが、効果分析ができる仕組みになっているかどうかが重要です。

 

これらは「エビデンス」、つまり「根拠」を作っていく取り組みになります。エビデンスを作っていく上で重要なのは、“同じ方法を同じように実施すれば、同様の効果が得られる”ということです。「●●デイサービスだからできた」と言われては、独りよがりになってしまいます。いかに全国どこの事業者でも実行できる方法でエビデンスを作るかが、業界全体にとっても重要なことではないでしょうか。

 

  • 自立支援を促進する体制構築について~5つのポイント~

 自立支援を促進する体制構築に必要な視点について詳しく見ていきます。

①“リハビリマインド”の構築(スタッフ、利用者等)

 

“リハビリマインド”という言葉をご存知でしょうか。リハビリテーションとは日本語で「全人的復権」とあるようにかなり幅広い意味を持つ言葉です。特に要介護状態の高齢者におけるリハビリテーションとは、生活機能の維持・向上が主たる意味になるでしょう。これには利用者だけでなく、スタッフのマインド・考え方も非常に重要となります。

例えば、介護事業のスタッフが「高齢者だから動きがよくなるわけがない」「ADLは低下するのが当たり前だ」と考えている方がいれば、仮に利用者が不調であったとしても疑問に思わなくなります。一方、良くなる利用者ばかり見ているスタッフは、低下していく利用者に対して疑問を持つわけです。このように同じ事柄でもスタッフの考え方によって、まったく違うとらえ方になってしまいます。

こういった意味で“リハビリマインド”は大変重要です。コンサルティングの現場では、スタッフとのワーキンググループを結成していただき、議論を交わしながら、“リハビリマインド”の構築を目指しています。

 

②定期測定体制構築

 

測定が重要であることはここまで述べてきましたが、何でも数多く測定すればよいということではありません。定期測定体制構築に重要なのは、「何を測定するか」「だれが測定するか」の2点になります。いかに少ない労力で、多くの情報を得られるかは、実際のオペレーションにおいては非常に重要です。

また測定については限られた1名を担当にすることも推奨していません。全スタッフが測定できる体制が望ましいと言えます。どのスタッフも測定に関わることで、利用者の意外な一面を見つけることが出来ますし、オペレーションやシフト管理の面からの、そのような体制づくりが必要になります。コンサルティングの現場では、定期測定体制構築のためにワーキンググループのメンバーで議論をしながら、現状のオペレーションの見直し、測定に関する取り決め、マニュアル化による周知徹底等の実施などをおこなっていきます。

 

③フィードバック体制

 

ケアマネジャーや地域に向けて、データを使って、利用者・入居者の個人の情報や施設全体の情報を客観的に伝える体制を構築します。具体的には、「うちのデイサービスを利用して、3か月で歩行速度が●●改善しました!」「うちのデイケアを利用して、1か月で栄養状態が●●改善しました!」と、はっきりと伝えられるようなデータ管理体制を構築していくということになります。この際は、できるだけ数字を使い、写真・動画を交えて、なるべく平易な言葉での資料作りがポイントです。

 

④機能訓練・リハビリテーション提供体制構築

 

体制構築で目指すべきところは「利用者の状態にあった機能訓練・リハビリテーションを、誰でも均一の質で提供できる」体制作りです。そのためには、利用者を目的や状態毎に複数の小集団に分類する、セミオーダーメードのリハビリプログラムを利用者に提供できるようにするなど工夫することがポイントです。また、この機能訓練・リハビリテーションは、機能訓練指導員やリハビリテーションの専門職のみが提供できるとするのではなく、施設全体のスタッフ全員が提供できる体制にすることが望ましいと考えます。そのためには、機能訓練・リハビリテーションの内容だけでなく、目的、効果、意義などをきちんと整理し、施設内で教育していくことが大切です。

 

⑤効果分析体制構築

 

取得したデータを分析し、自社に活かす活動は、一見難しく感じるかもしれませんがそうではありません。例えば、Excel等のソフトを用いて、3~6ヵ月の要介護度の変化、運動機能と活動に関する指標の変化等、取得した数値から、そう難しくなく比較することが出来るようになりました。動画や写真での比較も併せると良いでしょう。個別の事例についても検討していく方法もあります。あまり変化がみられない場合は、変化の見られた集団、そうでない集団に分けて検討するなど工夫をしてみます。例えば、運動機能と活動の指標の低下は、認知機能の低下が関連している場合もあるからです。

あまり成果が出ていない場合は、外部のリハビリテーションの専門職を交えて、機能訓練・リハビリテーションメニューの変更も検討していきましょう。最近では、外部企業に務めながら、非常勤的に関わってもらえるリハビリテーションの専門職も増加しているようです。

これらの整理した数値を基に、「③フィードバック体制」同様、利用者、ご家族、地域に向けて発信することは、自施設の取り組みについてよく知ってもらう機会になると考えます。ぜひ、チャレンジしてみてください。

 

 これまで自立支援の考え方を基に、介護事業で取り組むべき維持・改善を目指すリ体制構築についてお話させて頂きました。体制構築は直ちにできるものではなく、施設・法人全体で、スタッフの多くを巻き込みながら、時間をかけて行っていくものです。ぜひ、経営の参考になればと思います。