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介護事業所における人材定着のポイントと具体的取り組み①

2021.10.20

介護事業所における人材定着のポイントと具体的取り組み①

株式会社スターパートナーズ 代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム 代表理事
脳梗塞リハビリステーション 代表
MPH(公衆衛生学修士)
齋藤 直路

 

 

  • 採用市場の大きな変化

 

新型コロナウイルス感染症の影響を受けて採用市場には大きな変化が起きてきています。厚生労働省による「一般職業紹介状況」によると、2021年全体の全国の有効求人倍率の平均値は1.13倍となり、前年比で0.05ポイント下落しました[]。全残業的に人材不足が叫ばれていた昨今でしたが、統計上では徐々に人が余り始めているという状況になってきています。

飲食業や宿泊業といったサービス業種が新型コロナウイルス感染症の影響を受けて縮小していることに起因すると考えられます。介護分野は医療と同様、安定性の高い業界としても注目されており、新しい活躍の場を目指す方々が、就労を希望するケースもあるかと思われます。

一方で、介護事業者からは「他業種からの転職は増えるだろうが、あまり期待はできない」という声も聞こえてきます。これは、身体介助や生活支援、認知症ケアといった介護実務ができる方とそうでない方の差がはっきりしており、他業種からの転職の場合、離職率がどうしても高くなってしまうという背景によるものでしょう。

しかし、厚生労働省の「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」の推計にもある通り、2025年までに介護業界では約32万人もの人材が不足するといわれています。人材不足待ったなしの状況下において、他業種からの転職も積極的に受け入れ、できる限り離職を減らし、仕事を続けながら介護人材と成長していけるような環境を整備することこそ重要になってくるのではないでしょうか。

本コラムでは今回から2回に渡り、人材が定着・成長していく仕組みづくりの方法を解説させていただきます。是非、ご参考にしていただき、人材の確保と定着率の向上にお役立ていただければと思います。

 

 

 

  • 介護職員の退職理由

 

「令和2年度度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査結果報告書(公益財団法人  介護労働安定センター)」によると「前職(介護関係の仕事)をやめた理由」は「結婚・出産・妊娠・育児のため」が最も多く25.0%、「職場の人間関係に問題があったため」が次いで16.6%、「自分の将来の見込みが立たなかったため」が15.0%、「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため」が9.8%となっています。

また同調査での「職場での人間関係等の悩み」の集計によると「自分と合わない上司や同僚がいる」が最も高く、これに次いで「部下の指導が難しい」「経営層や管理職等の管理能力が低い、業務の指示が不明瞭、不十分である」「ケアの方法等について意見交換が不十分である」といった、業務上のコミュニケーションの課題が多数上げられています。10人に1人が「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため」を離職理由として挙げていることからも、ケアの手法の統一や指導に関して複合的に課題が発生しているものと考えられます。

コンサルティングを実施していく上で、早期離職をする職員の退職理由としてよく聞かれるのが「ここの介護施設の考えは自分に合わない」「教わる人によって内容が違う」といった意見です。事業所の理念教育や指導体制が十分に整備されておらず、それらを基礎としたコミュニケーションが十分に取れていないことが原因であると考えられます。少なくとも下記の13種類の制度構築をする必要があるでしょう。

 

「職位ごとに必要な制度」(スターパートナーズ社制作)

 

まずは、新入職員がしっかりとした教育を受けられる様、指導をする職員が活用できるツール等を整備すべきだと考えます。今回ご紹介したいのは「法人独自のルールブック」「入職時チェックリスト」の整備です。

 

  • 「法人独自のルールブック」の作成

 

「法人独自のルールブック」は、事業所に新たに入職する職員向けのオリジナル研修テキストです。法人の介護に対する考え方や、基本的なルールをまとめ、現場に入る前に座学研修として活用します。

テキストとして明文化しておくことで、統一した自法人の考え方や基本ルールについて理解することができます。また、法人としての考え方を示し指導者側にも共有しておくことで「ここの介護は自分に合わない」「教わる人によって内容が違う」といった新入職員の不安に応える効果も期待できます。

「法人理念」や「具体的なケアの考え方」「基本的なルール」といった項目を作成していきます。事業所の方針として「年度目標」等を取り入れている事業所もあります。抽象的な解説ではなく、日々のケアや行動レベルにまで分解して解説することがポイントです。

例えば「自分らしい暮らし」というキーワードがあったとして、それはどの程度まで可能なのかを示すことが重要です。自己決定いただくにしても、起床時間、就寝時間、食事時間、入浴のタイミング等全てが可能なのか、それとも一部だけが可能なのか、もし一部だけが可能なら何故なのか、事業所の理念と現実のバランスについて説明することも必要です。様々な制約のある中で、どの程度まで「自分らしい暮らし」を尊重しているかの具体的な取り組みを説明する様にしましょう。

新入職員は、介護に対して様々な見解を持って入職します。利用者の「自分らしい暮らし」を実現したいと思っていたのに実際には様々な制約がある等、現実が自分の理想と異なる場合、「ここの介護は自分に合わない」と事業所を去っていきます。あらかじめ「理念」と実際の「現場で求められること」を伝えておくことで、それらのギャップをある程度埋めることが期待できます。

より理解を促進するためにワークも設定すると良いでしょう。例えば「あなたは『自分らしい暮らし』をご提供するために、どの様なことに注意すべきですか?」といった課題を考えてもらうことで、現場に出たときの実際の自分を意識することを促します。

テキストは定期的に見直しを行い、年1回は改定項目について職員と議論する場を設けます。その際に、改めて理念や行動指針を確認する機会とすると良いでしょう。

 

「テキストの目次案」(スターパートナーズ社制作)

 

 

  • 「入職時チェックリスト」の整備

 

「法人独自のルールブック」での研修を経た後、新入職員は現場OJTに移ることになります。このとき必要になってくるのが「入職時チェックリスト」です。

前述の「教わる人によって内容が違う」という課題を解決するためには、何を、どの時期に、どんな内容で教えるかをチェックリストにまとめます。また、教えるべき内容やポイントについてまとめることで、指導職員に対する教育効果も見込めます。

作成の際は、1日単位でではなく、1週間・1ヶ月単位で指導期間を設定します。指導期間はあくまで目安とし、一人ひとりの進捗に合わせて指導をしていきます。また、複数の指導者を配置し、ツールで指導内容を統一しながら、チームとして新人の育成をすることがポイントです。シフトが合わず教育がおろそかになる、人によって指導方法が変わるといった事態を防ぐことができます。

仕組みだけでなく直接のコミュニケーションの機会を設けることも重要です。入職後は管理者が1週間、2週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月と、定期的に面談をおこないましょう。この際は、例え「経験不足」だと感じる発言があったとしても否定せずに、共感や傾聴を基本とすることが重要です。まずは職場に慣れ、現場での経験を積みながら一通りの業務ができるようになるまで見守りましょう。途中でくじけず、6ヶ月間を乗り越えることができたら、ある程度職場に慣れることができたと判断します。そこから、介護職員として1人前になるためのステップへと進んでいきます。

 

「入職時チェックリスト」(スターパートナーズ社制作)

 

今回は新入職員が定着・成長していく仕組みづくりの方法を解説させていただきました。次回は、中堅となった職員が、より長く活躍していただくための仕組づくりについて解説します。