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介護事業所における人材定着のポイントと具体的取り組み②
2021.10.21
介護事業所における人材定着のポイントと具体的取り組み②
株式会社スターパートナーズ 代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム 代表理事
脳梗塞リハビリステーション 代表
MPH(公衆衛生学修士)
齋藤 直路
- 中堅職員が覚えるキャリアへの不安
前回は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた採用市場の変化や、2025年までに約32万人もの人材が不足するといわれている介護業界の状況、そして今後は、他業種からの転職を積極的に受け入れ、法人内で成長できる仕組みの整備が重要であることをお伝えしました。
前回ご紹介した、「介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査結果報告書(公益財団法人 介護労働安定センター)」によると、「前職(介護関係の仕事)をやめた理由」には特定の年代で突出する項目がありました[ⅰ] 。
それは「自分の将来の見込みが立たなかったため」という項目です。全世代では15,0%となっています。年齢階級別で見ると「20歳以上25歳未満」で26.1%、「30歳以上35歳未満」で27.2%、「35歳以上40歳未満」で24.4%となっています。新卒で入社したとすると、働きはじめて5年未満、もしくは10年程度を経過した時期が、介護人材にとって将来に不安を覚える時期だということがわかります。実際に私たちも、いままで様々な経営支援を通じて、特に中堅・幹部職員からは「キャリアへの不安」「評価への不安」「スキルの獲得や成長実感がない」「仕事に興味を持つことができない」といった不安や不満を耳にしてまいりました。経験を重ねるからこそ感じる事が、実際の数値として表れているのではないかと考えられます。
- 目標と成長実感を与える法人独自の「キャリアパス制度」
「キャリアパス制度」は業務に必要なスキルを棚卸し、階層分けすることで「どのようなスキルを獲得すれば次のキャリアに到達できるかを明文化したもの」です。
はじめは「新人」クラスから開始し、徐々に介護職としての技術を身に着けていくことで階層が上がります。それにともなって勤務の上では、役職が変化したり、法人内資格制度として手当を支給するといった形で待遇も向上していきます。現場で必要な知識・技術が中心ですが、一定水準まで階層が上がった後は管理者としてのマネジメントスキル等を取得する方向性に変化していきます。介護のプロフェッショナルとして認知症ケアや排泄ケア等の専門分野を極め、法人内講師や外部講師として活躍する場を設けるといった運用をされている法人もあります。
「キャリアパス制度」は、次の階層に上がるために身に着けるべきスキルが明文化されているので、職員ごとに明確な目標設定と成長実感を与えることができるとともに、待遇も見える化することで、将来設計も組みやすくなるという特長があります。
他社で活用しているキャリアパス制度を参考にすることはできますが、自法人の目指している内容と合っていないことも多く、運用の際に職員の共感や賛同が得られず、利用されない制度になってしまっている場合が多くあります。
構築と運用のポイントは「自法人に合っている」「職員の納得性」です。その為、自法人のオリジナルのキャリアパス制度を構築することをお勧めします
私たちが経営支援をする際は、職員とワーキンググループを組み、実際に現場で必要なスキルは何か、自法人にとって大切なものは何かを考えながら、職員と一緒に作っていきます。
職員は、通常業務のほかに、制度構築のワーキンググループのメンバーとしても活動するわけですから、負担がかかることは否めません。しかし、職員を巻き込んで構築した制度は納得性だけでなく、経営視点と現場視点のギャップを調整していく効果や、内容を現場に即したものとすることができます。多くの場合、職員の愛着も強くなり、その制度は長く継続しています
作り方としては、キャリアパス表(下図)をまずは作成し、各階層ごとに必要なスキルを棚卸していきます。それを階層ごとにチェックリストに落とし込み、具体的な要求内容をまとめていきます。日々の活動や、定期的に実施するペーパーテスト等を通じて、スキルの習熟度を評価していきます。
- 日々のスタンスも確認する「評価制度」
「キャリアパス制度」と同じ人事制度の一つに「評価制度」があります。「キャリアパス制度」との違いは、一定期間内(半年に1度など)の成果や仕事への取り組み方について評価し、待遇と結びつけるという点です。また、「キャリアパス制度」が職員個人のスキル等の成長に応じて待遇が向上していくのに対し、「評価制度」は勤務態度や職員として志してほしい行動、法人への貢献度などを評価します。
「評価制度」構築について、いつも伝えさせていただいていることがあります。ある項目について「1~10」から選ぶ、という評価制度を導入されているケースを見ることがありますが、こういった段階評価をしている法人の場合、「7と8の違いは?」と問われても明確に答えることが困難です。また、評価する職員によっても、その解釈は大きく異なります。これは、それぞれの点数が何を元に決定されるか、明確に定義されていないことにより起こります。不明瞭な基準で評価しても、評価をされる側の納得感を得ることは難しいです。
それを解決するためには、やはり「評価制度」についても、法人オリジナルのものを構築することをお勧めしています。特に、評価を付ける際には、各項目ごとに「何をできればこの評価となるのか」まで明文化します(下図。右に行くほど評価が上がり、各項目の段階ごとに評価の定義が書かれている)。こうすることで、完璧な評価とはいかないまでも、共通する基準を使いながら、評価する側とされる側で認識をすり合わせることが可能となります。
評価面談という形で、評価期間が完了したタイミングでフォローアップ面談をおこないます。その場で、自法人内では何が評価され、何が評価されないか、そして何ができて、何ができていなかったか、改めて指導を行い、理解を促していくことが重要です。
ポイントは、評価する側とされる側の認識をすり合わせることです。例えば、自己評価が低くて法人としての評価が高い場合、そのことをきちんと面談の際に指摘することで、ちゃんと見ているよ、というメッセージを送ることになります。また、いままでできていなかったことができるようになった場合なども、きちんと褒めることが重要です。その上で、さらにいまの職場で頑張っていくには何を努力すれば良いか、目標を一緒に設定することで、次の半期も前向きに仕事に取り組むことができるようになります。
これらの制度について最も重要なことは、「評価ではなく教育のための制度である」ということです。自分のできていない点を明確にし、努力すること自体に価値があります。自己認識と評価のギャップの気付きも同様です。介護業界では「評価」や「数値」に対して「自分たちの仕事は数字で評価できるものではない」という拒否反応が出ることも少なくありません。評価制度は職員の成長と、その結果としての介護の質の向上が目的であることを伝えて進めていきましょう。
以上、人材定着を促すための制度構築について解説してきました。
これ以外にも、キャリアへの不安を払拭するために、複数の職員にインタビュー調査をし、入職時の仕事内容や、何年目にどういった仕事を任されたか、昇進の時期、給与モデルなどを掲載した「キャリアブック」を作成して、職員のキャリア形成のサンプルを提示している法人もあります。
また、前回ご紹介した「入職時テキスト」を用いた研修をおこない、「理念」を実現するために具体的にどの様な介護をおこなっていくかを職員間で議論するという法人もあります。自分たちの提供している「仕事の深さ」や「価値」を理解していくことが、仕事への前向きさやモチベーションのアップにつながります。利用者・家族へのアンケート調査結果など、言葉での表現を整理して掲示したり、身体機能の改善結果などを、数値で整理し見える化することで、その気持ちはより強くなります。
「働き方改革」にともなう働き方の見直しも忘れてはいけません。職員は、自分たちの権利が適切に守られているかに敏感になってきています。例えば、「同一労働同一賃金」を説明するためには、職員が納得するだけの根拠が必要になってきます。そのためには、職務表等を整備し職務の明確化をしたり、前述の「キャリアパス制度」を用いて職員の階層を明確に分けると良いでしょう。
調査等から見える介護職が実際に抱えている悩みと向き合い、それとどう向き合っていくかを考えることが、とても重要になっています。
本稿を、職員の不安や不満を払拭するための仕組みを構築しながら、職員一人ひとりがより長く、成長・活躍できる職場環境を整え、これからの時代に備えるための一助としていただけましたら幸いです。
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[ⅰ] http://www.kaigo-center.or.jp/report/2020r02_chousa_01.html