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ハブ薬局について

2022.05.18

「ハブ薬局」概念の登場

4月19日の厚生労働省「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」の第4回会合において、表記の「ハブ薬局」概念が登場した。このWGでは初回から「小規模薬局が薬局機能を網羅することは困難である」という問題が議論されており、第3回会合で小規模薬局の機能分化の新しい形態として「調剤業務の外部委託」が議論されたところだった。

そもそも、薬局業界からの代表として日本チェーンドラッグストア協会、日本薬剤師会、日本保険薬局協会から委員が出席し、企業としての薬局からは100店舗の規模の企業から代表が出席しているのだが、薬剤師会は個人としての薬剤師の代表であり、当事者である「小規模な薬局」の意見はいったい誰が代表しているのか(あるいは当事者が不在だからこそ議論がしやすいのか)という疑問があり、現状ですでに緩やかに構築されている網目状のネットワークを強化するのではなく、中心に「ハブ」を設けようとする点に唐突感があるが、「マイルドな外部委託という提案だった」と受け止めるのが自然だろう。

健康サポート薬局からの薬局像の変化

2015年に「患者のための薬局ビジョン」が公表された時点で、当時の厚生労働大臣は「すべての薬局をかかりつけ薬局に再編する」と宣言していた。「患者が生まれたての乳幼児の時点から後期高齢者になって看取りを迎えるまで、一軒の薬局で薬を管理すること」ができない薬局は退場してもらってかまわない、という強気なスタンスだった。
しかしOTCの相談も在宅医療もすべて一薬局でこなし、かかりつけ薬局になることを求めるのは、「24時間営業のファミリーレストランで鰻もピザも出し、なおかついきつけの店を作る」というような発想であり、現実的ではない。

この政府の強気の姿勢を、今回のように方向転換させた理由はなにかといえば、それはコロナ対応だろうと筆者は想像する。病院や診療所について、「通常の医療行為」と「コロナ対応」を並列で維持するという課題が示されたことが、薬局というものの思想へも影響したのではないだろうか。従来はすべての薬局が均一なサービスを提供することが当然だとされていたが、現実的には抗原検査キットを薬局で販売するにしても政府が想定するようには動かないということを学んだはずだ。

薬局というものの思想

「思想」とはなにか?という正確な定義はかなり漠然としていて、あまり実用的な定義というものにお目にかかった記憶がないのだが、ここでは仮に「具体的な行動に直結する価値判断を下すための前提となる基礎的な価値判断」を「思想」と呼ぶことにしよう。コロナ禍以前の薬局は、「どこの薬局でも同じサービスが受けられる」ということが薬局の評価の前提にあり、その標準化されたサービスを政府が点数化することで業界を誘導してきた。この「どこの薬局でも同じサービスを受けられることが社会にとっては良いことだ」というのが、2020年までの薬局の思想だった。

これが、「薬局によってサービスが異なることが、社会にとっては良いことだ」という思想に静かに変化していることは、非常に重要だ。たとえば、災害時に中核的な機能を持つことが期待される薬局と、平常時に効率的な業務を行う薬局とを同じ点数体系で評価し、施設基準で差をつけるというようなことをすれば、すべての薬局が「災害時の薬局」を目指してしまうというのが従来の設計思想で、これではうまくいかないということだ。

「ハブ薬局」概念の受けが芳しくなかったということは、「政府がビジョンを公表して、薬局がそれを目指していく」という時代ではもはやなくなったという現実を反映しているが、裏を返せば、薬局が調剤報酬に縛られずに多様な価値を提供する機会が訪れている。