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介護職員の処遇改善の最新状況と今後の見通し

2022.05.26

介護職員の処遇改善の最新状況と今後の見通し

株式会社スターパートナーズ代表取締役

一般社団法人介護経営フォーラム代表理事

脳梗塞リハビリステーション代表

MPH(公衆衛生学修士)

齋藤直路



  • 介護給付費分科会における介護従事者処遇状況等調査結果に関する議論


4月7日に厚生労働省にて「第210回社会保障審議会介護給付費分科会」が開催されました[]。介護報酬等について、直接的に議論する機会の多い分科会となり、注目されている方も多いのではないかと思います。

介護給付費分科会では、報酬改定直前には、直接的に介護報酬の改定案について議論することも多いのですが、報酬改定までまだ時間がある時期などは、こういった調査の検証などをおこないます。そして、検証された調査結果が次期改定の案を検討する際の基礎資料となります。つまり、いまの時期に調査・検証されている議案を抑えておくことで、将来的な改定の議題に載りそうな事項を、ある程度予想するということが可能になります。

今回のテーマは「令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果」でした。つまり、各種処遇改善に関する取り組みに関する議論を目的として、今回の調査結果を検討しています。

処遇改善に関する変更点としては、今年の10月には、2月から開始されている介護職員処遇改善支援補助金を引き継いだ「介護職員等ベースアップ等支援加算」の創設が内定しています。この新加算も含めて、処遇改善全体がどの様に変化していくのかを考えてくことにしましょう。



  • 処遇改善加算の取得状況を確認する


「Ⅰ 介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算の取得状況等について」によると、介護職員処遇改善加算の取得自体、既に94.1%の事業所が算定をしており、加算(Ⅰ)を算定する事業所も79.8%に上ることが示されています。これだけ高い水準になっていると、取得そのものが前提になりつつあると考えられるので、更なる追加等の施策はなさそうに感じられます。反対に、取得できていない事業所においては、賃金の面で他事業所との採用競争でやや不利になることは否めないでしょう。

一方で、加算(Ⅰ)を取得できていない理由として「職種間・事業所間の賃金のバランスがとれなくなることが懸念されるため」「昇給の仕組みを設けるための事務作業が煩雑であるため」といった事由が挙げられています。職種間・事業所間の賃金バランスについては、介護職員等特定処遇改善加算の創設により、かなり緩和が進んだのではないかと考えられます。また、以前からこういった声があったからこそ、他職種への分配など新しい要素が追加されたとも予想されるので、こういった事前調査の結果は、介護報酬改定に影響を及ぼすものであると、改めて確認することができます。

さて、その介護職員等特定処遇改善加算についても、取得している事業所が72.8%と、7割以上の事業所で算定が進んでいる状況が確認できました。

加算の創設趣旨であった「経験・技能のある介護職員のうち1人以上は行うこととされている賃金改善の実施状況」については「月額平均8万円以上の賃金改善を実施」 した事業所が11.4% 、「改善後の賃金が年額440万円以上となる賃金改善を実施」した事業所が40.8%となっていることが示されました。下図でも、赤いアンダーラインと枠線で強調されています。

「第210回社会保障審議会介護給付費分科会」資料[]

 

一方で、「月額平均8万円以上となる者又は改善後の賃金が年額440万円となる者を設定することができなかった」という事業所も32.8%に上っていますが、こちらは言及されていません。現況としては、加算の趣旨は一定水準クリアしているという趣旨であるし、今年10月に創設される介護職員等ベースアップ等支援加算の影響も、今後出てくることが考えられます。

その結果、「経験・技能のある介護職員のうち1人以上は行うこととされている賃金改善の実施状況」の改善がさらに進めば、特に大きな変化はないと考えられます。しかし、それがあまり進まなかった場合などは、算定基準の変更等、趣旨を推進するための改定等がおこなわれる可能性もあります。今後、どの様な変化が起きるのかも、注目しておく必要があるでしょう。



  • 給与の引き上げ状況とキャリアパス


「Ⅱ 介護従事者等の平均給与額等の状況について」では、介護従事者等の給与等の引き上げの実施方法についての調査がされています。これによると、「定期昇給を実施(予定)」が74.5%、「各種手当の引き上げまたは新設(予定)」が21.4%となっています。

また、給与の引き上げ理由については「令和3年度介護報酬改定や介護職員等特定処遇改善加算等に関わらず給与等を引き上げ(予定)」が60.5%となっており、過半数の事業所が安定した昇給を実施しているという状況を確認することができます。

これは、キャリアパス要件や介護職員等特定処遇改善加算に関連した昇給システムが機能する事業所が増加したと考えることができるでしょう。特に、介護職員等特定処遇改善加算を昇給システムと関連付けることで、メリハリのついたキャリアパスシステムの構築が可能になります。

例えば、私達は介護福祉事業に特化した経営コンサルタントとしてこの機会に昇給システムと関連付けた「キャリアパス制度」の構築を推進してきました。業務に必要なスキルを棚卸し、階層分けすることで「どのようなスキルを獲得すれば次のキャリアに到達できるか」を整理する形で構築します。

はじめは「新人」クラスから開始し、徐々に介護職としての技術を身に着けていくことで階層が上がります。それにともなって勤務の上では、役職が変化したり、法人内資格制度として手当を支給するといった形で待遇も向上していきます。この手当の原資に介護職員等特定処遇改善加算を充て、等級ごとに支給額の傾斜をつけるということができます。

ワーキンググループ(委員会)を組織し、各職種・各階層のスタッフが参加する会議を実施すると良いでしょう。キャリアパス表(下図は例)をまずは作成し、各階層ごとに必要なスキルを棚卸していきます。それを階層ごとにチェックリストに落とし込み、具体的な要求内容をまとめていきます。日々の活動や、定期的に実施するペーパーテスト等を通じて、スキルの習熟度を評価していきます。

目に見える形での処遇の改善(手当等)は、直接的に職員のモチベーションにつながりますし、中長期的に働く上でも大きな目標の1つとなります。

「スターパートナーズ社で作成しているキャリアパス表の例」



  • 給与の引き上げに今後求められること


平均給与については、介護職員全体でどの様な影響があったのか言及されています。介護職員等特定処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅱ)を取得(届出)している事業所における介護職員(月給・常勤の者)の平均給与額について、令和2年9月と令和3年9月の状況を比較すると、7,780円の増加となっていることが示されました。介護職員等特定処遇改善加算の創出について、一定の成果があったことを示すデータとなるでしょう。

一方で「介護福祉士の平均給与額の状況」については、勤続年数にかかわらず増となっており、反対に経年するほど差額は少なくなっており、経験・技能のある介護福祉士を優遇する本来の趣旨とは、ややずれた環境になっていることが確認できます。一概に「趣旨とはことなるため次期改定で何らかの対応がなされる」とは言い難いとは考えますが、結果の一つとして、押さえておく点と考えます。

 

「第210回社会保障審議会介護給付費分科会」資料[]

 

また、介護職員の平均給与額の内訳については、1/3程度は一時金(賞与等)による支給となっていることがわかりました。

 

「第210回社会保障審議会介護給付費分科会」資料[]

 

新加算で示されているように、厚生労働省の考えとしてはベースアップに比重を傾ける意向が見えます。これも同じく、結果が即次期改定につながるとは言い切れませんが、今後の動向によっては何等か影響、例えば従来の加算に関してベースアップ要件が加わるか、または加算同士の比重で介護職員等ベースアップ等支援加算が高まるといったことも、可能性としては指摘することができると思います。

 

現段階では、まだ限られた情報かつ次期改定まで時間があるので、おぼろげに内容が見えるといった程度になるかと思います。ただ、大きな潮流として「経験・技能のある職員の評価ができている」「ベースアップが求められている」という環境についてはご理解いただけたかと思います。基本的に法改正は、これらの基本の考えを元に改定の方向性を調整していくので、基本の考えに沿った運用をおこなうことが、そのまま改定の際のメリットにつながることが多いです。

反対に、そういったシステムが構築できておらず、基本の考えに反した運用をおこなっている場合、突然の改正で大きな痛手を負うといった可能性もあります。是非、改定に向けてまだまだ準備がはじまった程度の今の時期から、情報収集を進めていただければと思います。

 

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[ⅰ] https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_25087.html