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外国人人材に関する最新動向
2022.05.26
外国人人材に関する最新動向
株式会社スターパートナーズ代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム代表理事
脳梗塞リハビリステーション代表
MPH(公衆衛生学修士)
齋藤直路
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ポストコロナに向けた動きが加速
今年の1月から実施されていたまん延防止等重点措置は、3月21日をもって全ての都道府県されることとなりました。感染者数も2月上旬をピークに減少を続けており、沈静化から再度の拡大を続けていた新型コロナウィルス感染症も、改めて落ち着きを取り戻しつつあるように感じています。
外国人人材に関連しては、「水際対策強化に係る新たな措置27」に伴い、受入責任者の管理の下、観光目的以外の新規入国を認められるようになりました[ⅰ]。これにより「水際対策強化に係る新たな措置(19)」以降、強い制限がかけられていた外国人技能実習生の新規入国についても解禁される運びとなりました[ⅱ]。1日当たりの入国者数の上限も現行の3,500人から5,000人に引き上げられ、昨年10月22日の日本経済新聞「外国人、来日足止め37万人 企業の人手不足助長」にて報道されていた37万に上る入国待機者も、今後、徐々に入国が進んでいくことが想定されています[ⅲ]。
2017年の外国人技能実習制度への介護職種の追加以降、介護業界における外国人人材の受け入れは、制度改定直後から受け入れを計画していた一部事業者の間では盛り上がりを見せていました。それが、新型コロナウィルス感染症の影響を受けて2020年以降は下火となり、長らく大きな動きはありませんでした。
「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」にて示されている通り、介護人材の需給は2025年に向けて約22万人、2040年に向けて約69万人不足すると考えられています[ⅳ]。抜本的な解決策なくして将来の人材不足の解消は実現することができないでしょう。
外国人技能実習生の新規入国解禁は、これまで停滞していた外国人人材の受入という抜本的な改革の着手の大きな契機になると考えられます。今回はこの外国人人材に着目し、コロナ禍での動向と今後の展望について解説させていただきます。
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コロナを契機に増加した特定技能
新型コロナウィルス感染症の影響を受けて、外国人技能実習生を中心として、介護現場に限らず日本国内で就労する外国人人材は抑制される運びとなりました。その中でも、特異な動きがあったのが「特定技能」の在留資格を取得している(取得した)外国人人材の動向です。
「特定技能」は「専門性・技能を生かした業務に即戦力として従事する外国人を受け入れること」を目的とした在留資格です。2018年12月、「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」の可決・成立し、2019年4月1日より人手不足が深刻な産業分野(14分野)において「特定技能」での新たな外国人材の受入れが可能となりました。「技能水準」および「日本語能力水準」を試験等で確認し、「特定技能1号の」の場合は通算で上限5年まで、「特定技能2号」の場合は上限無く「技能」の認められた日本国内の特定分野での就労が可能となります。
コロナ禍において、この「特定技能」を取得した外国人の数は増加しました。「令和3年12月末の特定技能制度運用状況」によると、2020年12月末時点で在留資格「特定技能」で在留している外国人の数が15,663人だったのに対し、2021年12月末時点で49,666人へと増加しました[ⅴ]。
「令和3年12月末の特定技能制度運用状況」[ⅴ]
また、介護分野に限った技能試験及び日本語試験の合格者数は2020年12月末時点で10,365人から、2021年12月末時点で27,101人へと増加しています[ⅴ]。
「令和3年12月末の特定技能制度運用状況」[ⅴ]
これは、制度自体が浸透してきているのも考えられますが、特筆すべきは国内での合格者数が海外の合格者数を上回っているという点です。
国内の合格者数の増加は、新型コロナウィルス感染症の影響で、速やかな帰国が困難な方や留学生、受け入れ企業が業績不振に陥り職場を失ってしまった外国人技能実習生等、日本国内での在留資格の継続が困難な在日外国人の方が、在留資格を得るために介護分野での資格取得を目指したという背景があります。
介護分野の合格者数自体は、在留資格「特定技能」で就労する外国人労働者全体の8割近くにものぼり、今後、介護分野での就労者の増加が見込まれます。こういった人材は、日本語や日本での生活にある程度慣れていることから、これまで外国人の受け入れをおこなっていなかった企業でも、比較的受入れしやすく費用も安価になるというメリットがあります。外国人人材の受入を今後検討していく事業所においては、まず検討すべき人材であるといえるでしょう。
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外国人技能実習生の受け入れは再度拡大していくか
「特定技能」と並んで、外国人人材の受け入れの選択肢の有力候補として考えられるのが在留資格「技能実習」です。
在留資格「技能実習」は「日本で培われた技能、技術又は知識を開発途上地域への移転し、開発途上地域の経済発展を担う『人づくり』に寄与する」という目的のもと1993年に制度化されました。制度化時点では「介護」は対象分野ではありませんでしたが、2017年11月に「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」が施行されると同時に「介護」の職種も追加されました。
「介護」職種で外国人技能実習生を受け入れるためには、候補生がJLPT(日本語能力試験)等を受験し、入国時にはN4(日本語検定4級)、入国後1年の時点でN3(日本語検定3級)を合格するという「日本語能力水準」の要件がありますが、技能の移転を目的としているため「技能水準」の要件が無い点は「特定技能」と異なります。また、技能を取得していくなかで、将来的に在留資格を「特定技能」に切り替えることも可能です。
「外国人技能実習制度について」によると、在留資格「技能実習」で日本国内で就労する外国人は、2019年の410,972人をピークに、2021年には354,104人まで減少しています[ⅵ]。
「外国人技能実習制度について」[ⅵ]
人数こそ減少に転じているものの、在留者の数自体は「特定技能」の7~8倍となっています。これは、制度自体の歴史がより長いことや、在留資格を得る時点でのハードルが、より低いものとなっていることからきていると考えられるでしょう。
また、介護分野に限っていえば、外国人技能実習生機構の統計によると、2020年3月時点で8,967人から、2021年3月12,068人と、コロナ禍においても増加しています[ⅵ]。新規入国が解禁されたことから、今後、介護分野における在留者の数は更に増加するものと考えられます。
外国人人材の獲得競争は、日本国内に限らず日本国外でも、将来的に激化していくと考えられます。その中で、大きなボリュームを確保できる外国人技能実習生制度は、安定した人材獲得を実現するという点で、重要度の高い選択肢へと変化していくのではないかと考えています。
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外国人人材の受入は生き残りのカギ
介護分野における外国人人材受け入れの動向について、新型コロナウィルス感染症の影響を加味しながら、解説させていただきました。
冒頭で、介護人材の需給は2025年に向けて約22万人不足していることについてご紹介させていただきました。背景には高齢化の進行による高齢者人口の増加と、生産年齢人口の減少による労働力の縮小が考えられます。人口流出が起きてしまっている地域という、更にミクロな視点で見てみると、上記に働き手の流出という悪影響が更に加わります。介護職員の需給の問題は、とても切迫している状況です。
この2025年に約22万人不足するという介護職員数に対し、2021年統計時点で、「特定技能」における介護分野に限った技能試験及び日本語試験の合格者数は27,101人、「技能実習」で12,068人となっています。新規入国の解禁を受け、「特定技能」や「技能実習」で入国する外国人人材が、今後、更に増加していくことを考えると、外国人人材が介護業界全体の人材不足の解消に向けて大きなインパクトを持っていることがわかります。
介護人材の需給ギャップ問題の解決を実現していくためには、外国人人材への早期の受け入れと、適切な体制の構築が重要なポイントになると考えております。本コラムを、新たなるチャレンジのご参考にいただき、そのきっかけとしていただけましたら幸いに思います。
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[ⅰ] https://www.mhlw.go.jp/content/000901651.pdf
[ⅱ] https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00318.html
[ⅲ] https://www.nikkei.com/article/DGKKZO76873380S1A021C2MM8000/
[ⅳ] https://www.mhlw.go.jp/content/12004000/000804129.pdf
[ⅴ] https://www.moj.go.jp/isa/content/001359454.pdf
[ⅵ] https://www.mhlw.go.jp/content/000914168.pdf
[ⅵ] https://www.otit.go.jp/research_toukei/