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規制改革推進に関する答申について

2022.06.27

  • 介護保険制度と「規制改革推進会議」の関係


5月27日に内閣府にて「第13回規制改革推進会議」が開催されました[ⅰ]。

「規制改革推進会議」とは内閣総理大臣の諮問に応じ、経済社会の構造改革を進める上で必要な規制の在り方の改革に関する基本的事項を総合的に調査・審議することを主要な任務とする機関です[ⅱ]。こと介護分野においては、「医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ」が組織されており、重点的に議論する分野として位置付けられています。

過去には「介護保険内・外サービスの柔軟な組合せの実現」や「介護アウトカムを活用した科学的介護の推進」等が議論されました。現に存在している各種基準等の決まりごとについて、時代の要請に合わせて緩和や変更をおこなっていくことを目的としていると考えていただけると良いかと思います。

今回の会議では「規制改革推進に関する答申(案)について」が議論されました。これは、各ワーキング・グループで実施してきた議論をもとに、答申として提出する内容を取りまとめたものになります。具体的には、今年の1月より継続して実施されてきた各ワーキング・グループにおける一定の結論を取りまとめたものとなります。そのため、ここで言及されている事項については、次回以降の介護報酬改定において、高い確率で何らかの影響があると考えることができるのです。

今回はこの「規制改革推進に関する答申(案)」を読み解くことで、今後の業界の変化について解説させていただければと考えております。

  • ICTや介護補助の活用にインセンティブがつく可能性


「規制改革推進に関する答申(案)」では、介護分野における方向性について「利用者のケアの充実が図られ専門職が力を発揮できる持続的な介護制度の構築」の項目で言及しています。

「基本的な考え方」において「深刻化している介護人材の不足や処遇の状況を踏まえ、10年先、20年先をも見据えつつ、必要な人に必要な介護サービスを提供し続けられる持続的な介護制度を構築する必要がある」としており、人材不足へ対応することを目的として規制緩和について議論することとされています。

具体的な措置については「ア 特定施設(介護付き有料老人ホーム)等における人員配置基準の特例的な柔軟化」「イ 特別養護老人ホームにおける施設内の医療サービス改善」「ウ 介護分野におけるローカルルール等による手続負担の軽減」の3点が挙げられています。

この中でも特に介護報酬の改定に影響を及ぼす可能性が高いと考えられるのが「ア 特定施設(介護付き有料老人ホーム)等における人員配置基準の特例的な柔軟化」です。取り組みの内容としては「ビッグデータ解析、センサーなどのICT技術の最大活用、介護補助職員の活用等」をおこなう先進的な施設の取り組みを検証し「現行の人員配置基準 より少ない人員配置であっても、介護の質が確保され、かつ、介護職員の負担が軽減される」ことを目指すことになります。検証およびを人員配置基準の特例的な柔軟化の可否については今年度内の社会保障審議会介護給付費分科会で議論・整理し、令和5年度中に結論・措置の決定をおこなうことで、令和6年度介護報酬改定に盛り込むというスケジュールになります。

つまり、ICT技術や介護補助職員等の活用等、一定の基準を満たすことで介護の質の向上および職員の負担軽減につながることが実証された場合、ICT技術や介護補助職員等の活用等に対してインセンティブが発生することになる可能性が高いということができます。

具体的にどの様なインセンティブが設定されるかについては、令和3年度介護報酬改定を参考にすることができます[ⅲ]。

「令和3年度介護報酬改定の主な事項について」より

上は、特養等に見守り機器を導入した場合、夜間の人員基準が緩和されることとした、令和3年度の報酬改定に関する説明資料です。見守り機器やインカムの導入をおこなうことで、施設における現行の配置基準を緩和することとなりました。

また、これに加えて職員の加配を評価する「夜間職員配置加算」に必要な加配人員の数を引き下げたり、介護福祉士の配置割合が要件となっている加算について、その割合を引き下げるといったことが導入されました。つまり、次回以降の改定に設定されるインセンティブは、前回改定で実行されたこれらのインセンティブに似たものになる可能性が高いと考えることができます。

  • これまでの議論の流れ

今回の会議は「規制改革推進に関する答申(案)」が議題となりますので、その大枠についてのみ言及されていますが、より詳細な議論が今年の2月におこなわれた「第2回 医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ」で実施されています[ⅳ]。

このワーキング・グループの中で、厚生労働省は「介護施設における介護サービスの質の向上と介護職の負担軽減の両立」と題した資料を提出しています。この中では、ICT導入の促進に関して会議内で出た前向きな意見だけでなく慎重な意見が出たことも踏まえ、特に「利用者の安全確保やケアの質、職員の負担、人材の有効活用の観点から、実際にケアの質や職員の負担にどのような影響があったのか等」を検証していくものとしています。

検証の内容は下記に示される通りですが、特に、ケアの質を担保するための指標としてADLや認知機能等についても評価の対象となる部分が特徴になると考えられます。

「第2回 医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ資料」より

この実証事業で一定の成果が認められたと判断された場合を想定すると、実証テーマ①~③の見守り機器、介護ロボット、介護助手の活用に何らかのインセンティブが付く可能性があると判断できます。また、実証テーマ④については、介護事業者からの公募となりますので、もし、上記テーマに含まれていないものでも実証結果に掲載されることがあるならば、次期改正に影響を及ぼす可能性も高いと考えられます。このため、実証事業そのものも注視しておくことが大切であるといえるでしょう。

また、同会議に提出された公益社団法人全国老人福祉施設協議会(以下、老施協)による資料「介護施設における介護サービスの生産性向上について」では「『ケアの質の向上』と『職場環境改善』等の状況確認」が必要であると言及しています。これは、生産性の向上と人材確保の両方とも達成し、かつそれがケアの質の向上につながることで、はじめて介護の持続的発展性が担保されるという協議会の考えに基づいています。そして人材確保のためには、職場環境の改善が不可欠であるとしています。この考えが実際の介護報酬改定にも影響を及ぼす可能性があると考えるならば、インセンティブを受け取る上で職場環境要件等も設定される可能性を見ておく必要があります。職場環境要件については、既存の処遇改善加算の要件等が一つの参考になるのではないかと思います。

他に提出された資料で注目すべき点として、同じく老施協の資料では「介護施設における介護職員の人員配置基準は現在3:1と定められているが、現状では、平均2.12:1(従来型特養)」であると言及しており、例えば3:1を超えるような配置が実現したとしても、一般的ではない特殊な条件下で実現されるものであるとしています。人員配置の効率化そのものにインセンティブが付く可能性は低いでしょう。

また、三菱総合研究所提出の資料「介護分野における生産性向上に向けた実証の現状と考え方」では、令和2年度に実施した「介護ロボットの導入支援及び導入効果実証研究事業」について、施設からの「夜勤者の負担を減らし、日勤に充てることでケアの質を高められる」との意見を紹介しています。これは、先ほど紹介した令和3年度の介護報酬改定にも影響を及ぼしていると考えられ、今後の改定にも、人員基準の緩和は夜勤帯に関連する可能性が高いと考えることもできます。一つのポイントとして抑えておきたいところです。

  • その他の2つの論点について

3つある論点のうち「ア 特定施設(介護付き有料老人ホーム)等における人員配置基準の特例的な柔軟化」について特に解説いたしました。最後に簡単にですが「イ 特別養護老人ホームにおける施設内の医療サービス改善」「ウ 介護分野におけるローカルルール等による手続負担の軽減」についても触れておきたいと思います。

「イ 特別養護老人ホームにおける施設内の医療サービス改善」については、特養に配置されている医師の活動や実際に提供されている医療サービスの状況について調査し、実態に合わせた評価が保険内でおこなえるようにしようというものです。本年度中に調査をおこない、令和5年度に結論、令和6年度介護報酬改定に反映させるという流れになります。

「ウ 介護分野におけるローカルルール等による手続負担の軽減」では、が介護保険法の関係法令の規定に基づいて地方公共団体に対して提出する指定申請関連文書、報酬請求関連文書、指導監査関連文書について、とする。また、国が定める様式及び添付書類には押印又は署名は求めないこと、指定や報酬請求に関して介護事業者の選択により、厚生労働省の「電子申請届出システム」内で完結できるようにすること等について言及しています。ペーパーレス化についても、今後も推進していかれることが想定されます。

報酬改定に関するより詳細な議論が本格化するのは改定前年となる令和5年になります。しかし、現時点でもそれを目指して、様々な情報の収集と議論が進められています。こういった重要情報に事前にリーチし、あらかじめ準備や想定をしておくことで、介護事業所運営をより有利に進めていただければと思います。

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[ⅰ] https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/committee/220527/agenda.html

[ⅱ] https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/index.html

[ⅲ] https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000753776.pdf

[ⅳ] https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2201_03medical/220207/medical02_agenda.html

株式会社スターパートナーズ代表取締役

一般社団法人介護経営フォーラム代表理事

脳梗塞リハビリステーション代表

MPH(公衆衛生学修士)

齋藤直路