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介護事業所における地域連携の今後
2022.07.07
【目次】
1.総合事業の実施状況と互助
厚生労働省より「介護予防・日常生活支援総合事業及び生活支援体制整備事業の実施状況(令和元年度)」が公表されました [ⅰ]。調査によると、訪問型の従前相当以外のサービスをいずれか実施している市町村は61.1%、通所型の従前相当以外のサービスをいずれか実施している市町村は69.4%と、「多様なサービス」が実施されている市区町村はいずれも6割を超えていることがわかりました。
多様なサービスについては、訪問・通所ともに「(A)雇用労働者が行う緩和した基準によるサービス」、「(B)住民主体による支援」、「(C)保健・医療の専門職が短期集中で行うサービス」の類型が挙げられますが、「(A)雇用労働者が行う緩和した基準によるサービス」はいずれも5割以上の市区町村で実施されていたのに対し、最も少ない「(B)住民主体による支援」は、訪問サービスB型で15.5%、通所サービスB型で14.1%と、いずれも浸透が進んでいないことがわかりました。
「介護予防・日常生活支援総合事業及び生活支援体制整備事業の実施状況(令和元年度)」[ⅰ]
また、現在サービスを実施している市町村の今後の実施方針によれば、「今後は増やす」と回答された割合は「(B)住民主体による支援」が最も多く、訪問サービスB型で45.1%、通所サービスB型で50.6%となっています。その割合は総合事業全般で最も高く、自治体レベルでも今後重要なサービスになるという認識があることが伺えます。
一方、内閣府から公表された「令和4年版高齢社会白書」によると、社会活動に参加した高齢者の割合は51.6%となっており、「健康・スポーツ(体操、歩こう会、ゲートボール等)」(27.7%)、「趣味(俳句、詩吟、陶芸等)」(14.8%)などの参加割合が高い一方、「高齢者の支援( 家事援助、移送 等)」は2.4%に留まることがわかりました[ⅱ]。
行政や介護保険事業者ではない、地域の住民が相互に支え合う意味での、地域包括ケアシステムにおける「互助」のシステムは、これからの発展が期待される分野であるということができるでしょう。
2.今後、介護施設に求められる役割
地域における介護の担い手を育成することを目的に、介護施設には今後、地域との連携の強化が求められるのではないかと考えております。ボランティアの受け入れや認知症サポーターの育成に加え、介護助手の受け入れ等も重要になってくるのではないでしょうか。
下は「規制改革推進会議 第2回 医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ」の資料です[ⅲ]。令和4年度の実証事業として、介護事業所における生産性向上を目的とした取り組みの評価がおこなわれる計画となっており、その中のひとつとして「実証テーマ③ 介護助手の活用」が取り上げられています。
「第2回 医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ資料」より
また、財務省の財政制度等審議会における「歴史の転換点における財政運営」においても「タスクシフティング、シニア人材の活用推進」について言及されています[ⅳ]。介護分野におけるタスクシフティングでは、これまで介護福祉士等の専門職がおこなっていた業務の一部を、非専門職へ委譲することにより、専門職の業務の負担を軽減しかつこれを高度化を図るものです。そのための委譲先として、シニア人材が注目されているということです。
これらを総合すると、次回以降の介護報酬改定において「介護助手」や「シニア人材」の配置等をおこなうことを要件の一つとして、何らかのインセンティブが設定される可能性があるのではないかと考えられます。そうすることで、介護の担い手もしくはそれに準ずる役割を担う方々として、「高齢者の支援」を「社会活動」としておこなうシニア人材(高齢者)が期待されていくのではないかと考えられます。また、そういった方々が、総合事業における「住民主体による支援」の担い手となるように制度が設計されていくのではないかと考えています。
そして、地域での担い手を増やすという役割が、今後はより介護施設に求められる未来がやってくるのではないでしょうか。現時点で想定できる、今後の時代の流れに備えた活動を、是非、いまのうちから検討していただければと考えております。
3.業務継続計画における地域との連携
また、令和3年度の介護報酬改定により全サービスで義務化された業務継続計画の策定においても、地域との協力が求められます。
「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」では、業務継続計画の策定は「従来の防災計画に、避難確保、介護事業の継続、地域貢献を加えて、総合的に考えてみることが重要」と言及しています[ⅴ]。章にも「地域との連携」が設定されており、地域の方と共同でおこなう訓練の継続的な実施を推奨しています。
内容としては、「地域の方と共同で防災訓練に取り組むことにより、施設の実情を地域の方にご理解をいただくことにつながるため、一過性で終わることなく継続的に取り組むことが望ましい。」「津波で浸水することが想定される施設では、地域の方に津波避難所として施設を開放するかわりに、地域の方に利用者を上階へ搬送するよう支援してもらう計画を策定し、日常から地域の方とともに訓練している事例」といったものもあり、一方的な地域貢献ではなく、地域との連携を通じて実現可能な体制の構築にも言及されています。
介護事業所においては今後、地域での高齢者支援の担い手を増やしたり、業務継続計画にも位置づけられている通り、いざという時に備えて、地域と連携できる体制を構築しておくことが求められています。そういった関係性を築いていくためには、様々な取り組みが考えられます。その取り組みの方法についてご紹介したいと思います。
4.地域との関係を構築していくために
地域との関係を築くために「お祭り等」を実施されている施設は多くあるかと思います。他にも「講座・セミナー・茶話会」「認知症サポーター養成講座」「地域への出前講座」「職場体験・介護の体験」といった取り組みも考えられます。これらに加えて先述の、業務継続計画における地域と共同で実施する防災訓練等も、今後の活動の選択肢として考えることができるのではないでしょうか。
また、より福祉的な形で地域とのつながりを作りだしている例もあります。最近は、介護施設で子ども食堂を実施する例も増えてきていますし、先進的な例として「赤ちゃんボランティア」という取り組みを実施している事業所もあります。
これは、利用者のQOLの向上とともに地域との連携を強化する狙いで、赤ちゃんを連れてきた方に昼食を提供しかつ寸志をお支払いするという取り組みです。子育て中のご家庭の負担を軽減するということにも貢献しており、非常に有効な施策ではないかと考えています。
直接的な雇用の門戸を広げることも効果的です。「介護の仕事」では、敷居を高く感じてしまう方もいます。そこで、直接介護はおこなわない、介護助手ということを明確にして、人員の募集等をおこなっていきましょう。
ハローワーク等で、未経験者向けの求人と経験者向けの求人が一緒になっており、「未経験者歓迎」「時給は経験による」といった形でしか記載できておらず、対象としているのが経験者なのか未経験者なのか、伝わりにくくなっていることがあります。これを明確に「未経験者・介護助手」と「経験者・介護専門」の2つの求人に分けることで、特に前者の求人を通じてより広い層へ効果的にアプローチすることができるようになります。更に「シニア歓迎」といった注釈を入れたり、短時間での勤務も可能であることを記載しておくのも有効でしょう。また、シルバー人材センター等に相談することで、そういった取り組みに興味のある地域の高齢者の方とつないでもらうということも期待できるので、試験的に取り組んでみるのも良いのではないかと考えます。
いま、介護事業所が地域で暮らす高齢者の方々の「生きがい・やりがい創出の拠点」としての機能が求められていると考えています。そうすることが、地域における介護の問題の啓もうや、「互助」の意識を育むことにもつながり、また将来のサービス利用者を継続的に創出することにもつながります。そうやって地域に根を張り価値を提供していくことが、事業の永続的な継続につながるのではないかと考えています。
いずれの取り組みにしても、まずは自事業所から、地域に向けて発信していくということが始まりになります。繰り返しになりますが、今後は、地域の中でより多くの役割を、介護事業所は求められることになります。本稿が、自事業所が地域の多くの方に認知され、その地域になくてはない存在として認められる存在になることへ向けての一助になりましたら幸いです。
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[ⅰ] 介護予防・日常生活支援総合事業及び生活支援体制整備事業の実施状況(令和元年度)
[ⅱ] 高齢社会白書
[ⅲ] 第2回 医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ 議事次第
[ⅳ] 歴史の転換点における財政運営
[ⅴ] 介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン