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介護事業所におけるテクノロジー活用と生産性向上について(前編)

2022.08.10

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介護現場の生産性向上というキーワード

 

 皆さんは介護現場の生産性向上という言葉を聞いて、どのような印象をお持ちでしょうか?例えば、見守り機器や記録システムに代表されるようなIC/ICTの導入、介護ロボットの導入、無駄な業務を省くこと、など思い浮かべられたと思います。この言葉は、最近は本当に多くの場所で聞かれるようになりました。大切な点は、単なる生産性向上や業務効率化ではなく同時に介護サービスの質の向上が伴わなければ価値がないものになってしまう、ということです。

 

現場に広く導入が進み、検証されている生産性向上について、令和4年7月5日に開催されました厚生労働省「第211回社会保障審議会介護給付費分科会」にて議論されています[ⅰ]。同分科会の議題となりました「テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について[ⅱ]」を題材に、介護現場の生産性向上に関する主な取組についてお話したいと思います。

介護現場の生産性向上に関する主な取組

出典:テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について(第1項)

 

 本資料によると、厚生労働省の介護現場の生産性向上に関する主な取組は以下の4つになります。「令和3年度介護報酬改定における夜間人員・配置加算要件の緩和」「介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォームの設置・検証」「介護ロボット・ICT 導入支援事業(地域医療・介護総合確保基金)」「介護現場の生産性向上に関する取組の推進」です。それぞれ簡単に見ていきましょう。

 

①令和3年度介護報酬改定における夜間人員・配置加算要件の緩和

 

「令和3年度介護報酬改定の主な事項について」では、団塊の世代が全て75歳以上となる2025年に向けて、かつ2040年も見据えて5つの重点項目が設定されています。そのうち「4.介護人材の確保・介護現場の革新」の項目において、「テクノロジーの活用や人員基準・運営基準の緩和を通じた業務効率化・業務負担軽減の推進」が方針として記載されています[ⅲ]

実際に改定にも反映されています。代表的なものとしては、特養等における見守り機器を導入した場合の夜勤職員配置加算の要件緩和があります。見守り機器の導入割合を15%から10%に緩和すること、見守り機器 100 %の導入やインカム等の ICT の使用、安全体制の確保や職員の負担軽減等を要件に、ユニット型においては同加算の人員配置要件を0.9人から0.6人に緩和する等です。要件緩和はICT導入の大きなモチベーションにはなりづらいかもしれませんが、導入により実際に夜間業務の負担が減少したとの声も聞かれ一定の成果はありそうです。他にも、会議や多職種連携におけるICT の活用の推進、特養と併設サービスとの人員の兼務等の緩和、3ユニットの認知症グループホームの夜勤職員体制の緩和等が設定されました。

“介護現場の生産性向上に向けて、徐々に制度面からも動きが生じてきてはいますが、この動きを、実際に「介護現場の革新」へと効果的につなげていくことが重要です。そのためには「令和3年度介護報酬改定に関する審議報告」でも指摘されているとおり「利用者の安全確保やケアの質、職員の負担、人材の有効活用の観点から、実際にケアの質や職員の負担にどのような影響があったのか等、施行後の状況を把握・検証」が必要だと考えます[ⅳ]

 

②介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォームの設置・検証

 

「テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について」によると、令和4年度予算として5.0億円を計上し「介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォームの設置・検証」を推進していくとされております。資料では「介護現場において、テクノロジーの活用などによるサービスの質の向上や職員の負担軽減といった生産性向上の推進は喫の課題となっており、見守りセンサーやICT 等といった生産性向上に効果的なテクノロジーの普及をより強力に進めていく」としており、「具体的には、介護現場・ロボット開発企業の双方に対する一元的な相談窓口(地域拠点)、開発機器の実証支援を行うリビングラボのネットワーク、介護現場における実証フィールドからなる、介護ロボットの開発・実証 ・普及のプラットフォームを整備する」としています。今後、相談窓口の増設、アドバイザー職員の増員、大規模実証にかかる対象施設数の拡充等を実施していくとしています。 

 

出典:テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について(第21項)

 

図に示されるとおり、令和4年度介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォームと相談窓口は全国に17カ所、リビングラボは全国に8カ所あります。この中には、昔から本分野に取り組んでいらっしゃる東京都大田区の「Care Tech ZENKOUKAI Lab」(社会福祉法人善光会サンタフェ総合研究所)もあります。ご縁があり2017年に弊社主催の視察ツアーで全国の介護事業者様と一緒に見学やお話をお伺いした際には、すでにこの時点で、介護職員の負担軽減を目指した介護とICTの融合、排泄介助ロボットや歩行介助ロボットHALを始めとして様々な機器のテスト導入・検証・利用、職員の移動負担軽減の為の機器、プライバシーに配慮した見守り機器など、数多くの機器を導入されており、驚いたことを覚えています。

 

出典:テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について(第22項)

 

また、本項では「介護ロボット等の効果測定事業(令和3年度実証事業 )概要」も示され、見守り機器(夜間見守り業務)、移動支援(装着型・非装着型)、排泄支援、介護業務支援(ICT機器)の効果測定の結果が掲載されています。

主な結果としては、それぞれ下記の様な効果があったと報告されています。

 

・「見守り機器」:

利用者の状況確認が効率化され身体的・心理的な負担減少、利用者の睡眠の質向上・不穏の軽減等

・「移動支援」:

(着装型)装着に時間はかかるが総業務時間が微減、一定の腰痛軽減効果・ケガ、内出血の減少の声

(非着装型)利用者の生活の質の向上・生活範囲の拡大

・「排泄支援」:

導入後一定期間で排泄支援時間の減少、データを用いたケアによる質の向上示唆、利用者と職員の意思疎通の円滑化

・「介護業務支援」:

時間短縮と記録の正確性向上、即時対応や感染予防

 

いずれの機器導入においても一定の成果があったということです。

 

 

令和4年度の実証事業に向けて(介護ロボット等による生産性向上の取り組みに関する効果測定事業)

出典:テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について(第6項)

 

これを受けて令和4年度においても引き続き「介護ロボット等による生産性向上の取組に関する効果測定事業(令和4年度実証事業)」が実施されます。

本事業では、「介護現場において、テクノロジーの活用やいわゆる介護助手の活用等による生産性向上の取組を推進するため、介護施設における効果実証を実施するとともに実証から得られたデータの分析を行い、次期介護報酬改定の検討に資するエビデンスの収集等を行うことを目的」としています。介護助手を含めた、やや対象範囲を広くした実証テーマを4項目「見守り機器等を活用した夜間見守り」「介護ロボットの活用」「介護助手の活用」「介護事業者等からの提案手法(介護事業者からの提案を踏まえた実証を実施)」と定めています。

本稿の「令和3年度介護報酬改定における夜間人員・配置加算要件の緩和」でも解説したとおり、介護報酬改定を見据えた実証事業となっていますので、今後の調査の進展を注視したい実証事業となります。

 

今後の導入推進に向けて必要な2つの視点

 

これまでの整理のとおり、導入には一定の効果があることは間違いなく、ただ、「導入の原資」「導入プロセス」には、難しい点がいくつか存在します。

次回の後半では、導入の金銭的補助「介護ロボット・ICT 導入支援事業(地域医療・介護総合確保基金)」、導入の具体的プロセスと事例「介護現場の生産性向上に関する取組の推進」について解説します。また、「介護ロボット等による生産性向上の取組に関する効果測定事業(令和4年度実証事業)」において示された項目のうち「介護助手の活用」についても、多くの議論や調査研究事業がなされていますので、解説いたします。

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[ⅰ]第211回社会保障審議会介護給付費分科会:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26624.html

[ⅱ]テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について:https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000961063.pdf

[ⅲ] 令和3年度介護報酬改定の主な事項について: https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000753776.pdf

[ⅳ]令和3年度介護報酬改定に関する審議報告(61項):https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000709008.pdf

株式会社スターパートナーズ 代表取締役

一般社団法人介護経営フォーラム 代表理事

脳梗塞リハビリステーション 代表

MPH(公衆衛生学修士)

齋藤 直路