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介護事業所におけるテクノロジー活用と生産性向上について(後編)

2022.09.05

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介護ロボット・ICT導入支援と生産性向上に関する取り組み

 前回より、「テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について」を題材に、介護現場の生産性向上に関する主な取組みについてお話をさせて頂いています[ⅰ]。特に、介護現場の生産性向上に関する主な取組みである「①令和3年度介護報酬改定における夜間人員・配置加算要件の緩和」「②介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォームの設置・検証」について解説をしました。

 

後編にあたる今回は、導入の金銭的補助「③介護ロボット・ICT 導入支援事業(地域医療・介護総合確保基金)」、導入の具体的プロセスと事例「④介護現場の生産性向上に関する取組の推進」について解説します。また、「介護ロボット等による生産性向上の取組に関する効果測定事業(令和4年度実証事業)」において示された項目のうち「③介護助手の活用」についても、多くの議論や調査研究事業がなされていますので、解説いたします。

 

介護現場の生産性向上に関する主な取組

出典:テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について(第1項)

 

①介護ロボット・ICT 導入支援事業(地域医療・介護総合確保基金)

 地域医療・介護総合確保基金(介護従事者確保分:137.4億円)を用いて介護ロボット・ICTの導入を推進していこう、という取り組みです。介護事業所が、介護ロボット・ICTを導入する際の費用の一部補助や補助額・補助率等の要件を段階的に拡充するとしています。

 

具体的には、都道府県を実施主体として、移乗支援に用いられる装着型パワーアシストや非着装型離床アシスト・入浴支援に用いられる入浴支援アシストキャリーに代表されるような介護ロボット(移乗支援、移動支援、排泄支援、見守り、入浴支援など、厚生労働省・経済産業省で定める「ロボット技術の介護利用における重点分野」に該当する介護ロボット)を対象に費用の一部を補助するというものです。補助率は1/2~3/4と、都道府県によりますが1機器あたり「移乗支援(装着型・非装着型)」「入浴支援」は上限100万円、「それ以外」は上限30万円、「見守りセンサー導入に伴う通信環境整備(1事業所あたり)」は、上限750万円とされています。

 

他にも「ICTを活用した介護サービス事業所の業務効率化を通じて、職員の負担軽減を図る。」ことを目的として、同じく都道府県を実施主体として、補助率1/2~3/4のICT導入支援事業があります。補助対象は、介護ソフト(記録、情報共有、請求業務で転記が不要であるもの、ケアプラン連携標準仕様、を実装しているもの(標準仕様の対象サービス種別の場合。各仕様への対応に伴うアップデートも含む))、情報端末(タブレット端末、スマートフォン端末、インカム等)、通信環境機器等(Wi Fi ルーター等)、その他(運用経費(クラウド利用料、サポート費、研修費、他事業所からの照会対応経費、バックオフィスソフト(勤怠管理、シフト管理等)等))と、幅広く対象となっています。

 

本支援事業は、補助上限額は事業所規模(職員数)により100万円~260万円と設定され、補助要件として、LIFE による情報収集・フィードバックに協力、他事業所からの照会に対応、導入計画の作成、 導入効果報告(2年間)、IPA(情報処理推進機構)が実施する「SECURITY ACTION[ⅱ]」の「一つ星」または「★★二つ星」のいずれかを宣言等、今後の普及と検証を想定した内容となっています。また、より上位の補助割合を取得するには、事業所間のケアプランデータ連携、文章量の半減など、より成果の求められる内容となります。

是非、皆さまの自治体の情報を確認をしてみてください。

 

②介護現場の生産性向上に関する取組の推進

「テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について」では介護現場の生産性向上に関する取組みとして、「生産性向上に資するガイドラインの普及促進」「業務改善に取り組む事業所に対するコンサル費用の一部補助・都道府県による取組(モデル事業等)の実施費用の一部補助(業務改善支援事業(地域医療・介護総合確保基金))」「介護助手の活用、ケアプランデータ連携や文書負担軽減の推進 等」が示されています[ⅲ]

出典:テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について(第27項)

 「生産性向上に資するガイドラインの普及促進」については、“介護サービスにおける生産性向上は、要介護者の増加やニーズがより多様化していく中で、業務を見直し、限られた資源(人材など)を用いて一人でも多くの利用者に質の高いケアを届けること、改善で生まれた時間を有効活用して、利用者に向き合う時間を増やしたり、自分たちで質をどう高めるか考えていくこと”と示され、その手順を「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン(業務改善の手引き)」で分かりやすく解説しています[ⅳ]

 

特に上記のガイドラインによれば、手順として、①職場環境の整備、②業務の明確化と役割分担、②業務の明確化と役割分担、③手順書の作成、④記録・報告様式の工夫、情報共有の工夫、⑥OJTの仕組みづくり、理念・行動指針の徹底と流れを示した上で、具体的な事例まで掲載されているなど、非常に参考になります。是非、ご一読ください。

 

③介護助手の活用について

「介護ロボット等による生産性向上の取組に関する効果測定事業(令和4年度実証事業)」において示された項目のうち特に「③介護助手の活用」について検討したいと思います。介護助手という名称はさておき(※後述します)、介護の仕事全体を、介護職員と介護助手に分けることで、介護現場における生産性向上やケアの質の向上につながる、という考え方に基づくものです。

 

 本件について筆者も有識者委員として参加した、令和2年度の厚生労働省老人保健健康増進等事業「東北地方における介護未経験の高齢者人材等の確保及び業務分担に係る好事例事業者の取組の分析等に関する調査研究事業」が参考になります[ⅳ]

 

本調査研究事業では「地域介護サポーター」という名称でモデル事業を実施しています。その際、人材不足を補うことを最上位の目的とせず、「地域で介護の担い手として顕在化していない多様な人材を、地域の関係者も巻き込みながら、地域介護サポーターとして掘り起こす」「地域介護サポーターにとって、やりがい、生きがいをもたらすことを重視し、高齢者にとっては、結果として介護予防が期待されるものとする」「既存の職員、利用者、経営にとってメリットをもたらすモデルとし、持続可能性を高める工夫を行う」を基本的考え方としています。

2つのモデル事業が示され、そのうちの青森県の法人(地域人口約5000人)では、期間中に9名の地域介護サポーターの採用に成功しています。地域介護サポーターは具体的に、記のような業務を担っています。

 

<地域介護サポーターの業務の例>

調査研究事業報告書によると、地域人材採用のあり方として「①地域住民に向けた的確なメッセージの発信と寄り添った対応」「②潜在的な就労ニーズの確認を踏まえた受け入れ側の体制拡充の必要性」「③働き手のモチベーションや長期雇用に向けた視点」を提言しています。つまりただ単に導入すればよいのではなく、導入の為の下準備が最も大事であるということです。

 

 地域の方が多く働く介護施設において、「実は、意外に地域の中で施設が知られてなかった、施設から求人が出ていることを知らなかった」という例も多くあります。

加えて、もう一つ大事なことは「介護助手」という名称です。この名称では人気の職種になることはまず考えられません。補助的なニュアンスが強く、敷居が高く感じられがちな介護関係の仕事に対し、より応募しやすくなるという利点はあるかもしれませんが、専門的なスキルを持った職種であることは、伝わりづらいでしょう。意識の問題にもなる可能性もあります。先ほどの事例でも「地域介護サポーター」という名称であったように、私たちが経営コンサルタントとして関わる際は、必ず「ケアサポーター」「介護サポーター」などの名称とします。また、教育研修を充実させ、希望する方には、介護職員へのキャリアアップの可能性を構築するなど、教育体制と人事制度を整えることが必須です。

 

前回、今回の2回にわたり「テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について」を題材に検討してまいりました。たった一文で表現されていますが、内容は本当に多岐に渡り、介護事業の根本を再考する機会が含まれていることが伝わったかと思います。御社の経営の一助になれば幸いです。

 

[ⅰ] テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について:https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000961063.pdf

[ⅱ] SECURITY ACTION(セキュリティ自己宣言):https://www.ipa.go.jp/security/security-action/index.html

[ⅲ] テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について:https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000961063.pdf

[ⅳ] 介護分野における生産性向上について:https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo-seisansei.html

[ⅴ]みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社, 令和2年度老人保健健康増進等事業の事業報告書「東北地方における介護未経験の高齢者人材等の確保及び業務分担に係る好事例事業者の取組の分析等に関する調査研究事業」 https://www.mizuho-rt.co.jp/case/research/pdf/r02mhlw_kaigo2020_07.pdf

株式会社スターパートナーズ 代表取締役

一般社団法人介護経営フォーラム 代表理事

脳梗塞リハビリステーション 代表

MPH(公衆衛生学修士)

齋藤 直路