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薬局DX~デジタルトランスフォーメーションとは?

2023.04.10

「薬局DX」の2回目です。前回は薬局向けのシステム、デバイス、ハードウェア、ソフトウェア、アプリケーションなどのPharma Techをカオスマップで整理し、薬局のテクノロジーを俯瞰しました。

今回はデジタル化によって薬局の何が、どう変わるのかについて説明したいと思います。

【目次】

  1. DXとは
  2. 進化する医療分野のデジタル化
  3. 薬局のDX
  4. どんな変化が起きるのか?
  5. 考え方をアップデートする
  6. まずは身近なところからデジタル化

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1.DXとは

DXとは、デジタル技術を表す「Digital」と変革を意味する「Transformation」が合わさった言葉です。「デジタル技術だけではなく、データを活用すること」「そして変革を起こすこと」がDXの目的です。単にペーパーレスにするとかシステムを導入するといった話ではない、より高次元の概念です。

下の図はデジタル化の変遷を示したものです。

 

「紙の薬歴を電子化する」というのはデジタイゼーションです。「レセコンとピッキング監査システムや一包化の機器が連動し、業務効率化が図られる」というのがデジタライゼーション。そして、システムに蓄積されたデータを利活用し、ユーザーに新しい体験をもたらすのがデジタルトランスフォーメーションです。

 

 

2.進化する医療分野のデジタル化

生活習慣病はスマホのアプリで治療し、糖尿病やがんは便座に座って早期発見する時代に突入します。「まさか、あと10年はかかるでしょ」と思うようなこともすでに社会実装されています。

 

治療用アプリについては、国内ではキュアアップ社が2020年に禁煙補助治療アプリ、2022年に高血圧治療アプリをリリースしました。国内外で製薬メーカーとITメーカーがコラボレーションし、Beyond The Pill(薬を超えろ)の合言葉で今後続々とリリースされる予定です。

便座のセンサーでバイタルチェック、尿や便の分析で糖尿病やがんを早期発見するトイレ。インナーとして着るだけで、心拍数や消費カロリー、姿勢をチェックする衣料用ウェアラブル。DNA検査やアンケート結果を踏まえて、パーソナライズされたトレーニングメニューや献立が提案されたり、ミールキットがデリバリーされたりするサービスなど、私たちの日常生活の中で病気の予防や健康管理・増進ができる製品やサービスが登場しています。

 

 

3.薬局のDX

薬局のDXはまだ始まったばかりで、具体的な事例が出てくるのはこれからです。とはいえ、在庫管理システムにAIを搭載して、在庫の消費量から自動的に発注をかけるといったシステムが登場するなど、薬局における新しいユーザー体験がもたらされ始めました。

 

レセコンや電子薬歴、勤怠管理、ヒヤリハットなどのデータを統合して、薬剤師の人事評価をしたり、服薬指導の内容に応じて、LINE連携の服薬フォローアップシステムでお勧めのサプリメントが患者に自動でリコメンドされたりする。こうしたデータの利活用や新しいユーザー体験をもたらすことが薬局DXに期待されています。

 

服用方法や効能効果、副作用の注意点などを患者さんに伝えることはチャットボットで十分対応できるでしょう。オンライン資格確認や電子処方箋から得られるデータを活用して、処方設計の最適化を図るのはAIが得意とする分野です。

今、人の手でやっていることがテクノロジーに代替される日はそう遠くないかもしれません。

 

 

4.どんな変化が起きるのか?

薬局のデジタル化が進むとどんな変化が起きるのでしょうか?

 

出 店

医療機関に物理的に依存しない

働き方

通勤距離や時間に依存しない、リモートで、24時間365日勤務

商 圏

薬局周辺の物理的距離に依存しない

情報源

オンライン資格確認や電子処方箋、ウェアラブルデバイスなどからのPHREHR

情報処理

薬剤師の頭の中ではなく、DBのアルゴリズムやAIが処理

人材育成

IT活用やUXの知識、多様性への対応

システム投資

外部環境変化への対応だけでなく、主体的な攻めの投資に

機 能

予防や健康管理

PHRPersonal Health RecordEHRElectronic Health RecordUXUser experience

 

このように薬局の営みのあらゆる場面で変化が起きると考えられます。

患者さんの受診行動や薬剤師の働き方、もっといえば薬局の役割や存在意義までも変えてしまう変革が起きると想像できます。量子コンピューターの登場やAIの進化によって、その変革に加速度がつきます。過去の延長線ではなく、新しいステージの未来を予測する必要があります。

 

5.考え方をアップデートする

このような変化に対応するためにまず必要なことは、「主体的にテクノロジーを活用しよう」という考え方にアップデートすることです。

主体的に活用するために、まずはPharma Techの目的を抑えておきましょう。以下の3つが考えられます。

今までは、法律や制度で義務化されたから(例:オンライン資格確認、電子処方箋)、調剤報酬の算定要件になったから(例:お薬手帳)というのがデジタル化の動機でしたが、業務効率化、患者満足度向上、経営改善という視点でデジタル化を活用するという考え方が必要です。

たとえば、薬剤師の採用難を抱えている薬局であれば、勤怠管理、シフト調整、在庫管理などのバックヤード業務をシステム化し省力化することで、人手不足を解消するといった発想ができます。オンライン服薬指導を活用することで、業務のピークをなだらかにすることができます。処方せん送信予約やLINE連携の服薬フォローアップによって患者さんの利便性や満足度を高め、顧客関係強化を図ることができます。

こうして“自分たちのために”デジタルを上手に活用するという考え方にアップデートすることが必要です。

 

6.まずは身近なところからデジタル化

一足飛びにDXは難しいので、今人の手でやっていることをデジタル化するデジタイゼーションから取り組んでみてはいかがでしょうか。薬局内でデジタル化できる部分はたくさんあります。

  • 複数店舗間の情報共有が未だにFAXやメール。クラウドストレージも使えない。
  • Zoomなどのオンライン会議システムに不慣れ。
  • 発注業務に毎日1時間かかっている。
  • シフト調整が紙のカレンダーとExcel、タイムカードによる勤怠確認、紙の給与明細。

などなど、緊急性や重要性は高くないけど、いつもストレスを感じているその業務をデジタル化してみませんか?

ITが得意な若手スタッフがいれば、職場のデジタル化を任せてみてもいいでしょう。当社にて薬局のIT化のコンサルティングを行っていますので、お気軽にお問い合わせください。

 

 

2回にわたって薬局DXについてお話をしました。医療現場におけるデジタル化は今後ますます進んでいくことでしょう。時間が経ってから追いつくのは大変です。今のうちからその変化に対応しておくことが望まれます。

最後に、私が編集長を務める「Pharmacy DX News」という薬局DXに特化したWebメディアがありますので、隙間時間にご覧いただきデジタルへの関心を高めていただければと思います。

著者紹介

富澤 崇 株式会社ツールポックス代表取締役

1998年東京薬科大学卒、千葉大学博士課程修了(薬学博士) 山梨大学医学部附属病院、クリニック、複数の薬局で勤務。2001年から城西国際大学薬学部の教員として約20年勤務。大手チェーン薬局にて人事・教育・採用部門に従事。2017年に株式会社ツールポックスを設立。経営コンサルティング、キャリア支援、従業員研修などのサービスを展開。北里大学客員准教授兼務。