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サ高住併設デイの経営戦略①
2021.11.08
【目次】
1.サービス付き高齢者向け住宅の経営に関する課題
平成23年より制度化されたサービス付き高齢者向け住宅は、高齢化の進行とともに年々その数を増してきました。「サービス付き高齢者向け住宅情報システム」で公表されているデータによると、令和3年12月時点のサービス付き高齢者向け住宅は8,017棟となり、個数も272,870戸となっています[ⅰ]。近年の伸び率は1年でも数10棟と、制度制定当初に比べてその増加スピードは落ち着いてきましたが、高齢者の住まいの整備が急激に進むことで、入居施設同士の競合もおきやすくなってきています。
「サービス付き高齢者向け住宅の登録状況」(サービス付き高齢者向け住宅情報システム)[ⅰ]
一般社団法人高齢者住宅協会による「サービス付き高齢者向け住宅の現状と分析」によると、サ高住の併設事業として最も多いのは通所介護事業所で42.2%、次いで訪問介護事業所が41.2%、居宅介護支援が23.2%となっています[ⅱ]。サービス付き高齢者向け住宅への併設サービスとしては、通所介護事業所が最も多くオーソドックスなものであると考えることができるでしょう。
しかしながら、必ずしもサ高住に併設しているすべてのデイの稼働率が高いわけではありません。全国のサービス付き高齢者向け住宅の事業者様のからご相談を頂く中でも「当初の計画よりも介護保険サービスの売上が伸びない」「通所介護の稼働率が伸びない」といったお悩みの声を多く伺います。実は、サービス付き高齢者向け住宅に併設する多くの施設が稼働率アップという課題を抱えているのが実情です。
本コラムでは、併設デイの稼働率が高いサ高住の事例も踏まえながら、「入居者以外の利用者獲得(外部利用者)」のための経営戦略をお伝えしていきます。併設するサービスの差別化が住宅そのものの差別化につなげることが可能です。是非、サービス付き高齢者向け住宅、併設デイサービスともに成功し、相乗効果で地域で人気のある高齢者の住まいを目指していただければと思います。
2.併設デイサービスの稼働率が伸び悩む理由
サービス付き高齢者向け住宅に併設するデイサービスの稼働率が低いケースでは、次のような3つの問題があると考えられます。
≪併設デイの稼働率アップを阻む問題点≫ |
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
①対象者の混在
サービス付き高齢者向け住宅に併設するデイサービスの場合、「入居者向けのサービス」と「入居者以外の利用者(外部利用者)向けのサービス」の2通りのサービスを提供している場合が多くあります。一般的に、サービス付き高齢者向け住宅の入居者は介護度が中度~重度の方が多く、反対に外部利用者は軽度の方が多い傾向にあるため、事業所の中では状態の異なる「対象者が混在」することになります。これを飲食店に例えると、さまざまな食事のニーズに応えるために、複数のメニューを取り揃えている店舗のイメージです。
これは一見良いことだと感じるかもしれませんが、対象者が絞れず、特定の分野に特化したサービスに比べて特長を伝えにくいというデメリットがあります。経営戦略上では、「1施設につき、1対象、1サービス」がわかりやすいのです。
②サービスの絞り込み・創り込み不足
サービスの「対象者が混在」すると、提供するサービスが「どちらか一方に偏る」もしくは「どちらも十分に創り込むことができない」ということが起こりがちです。結果として、利用者のニーズへの対応も限定的なものとなっていまい、なかなか人気を集めづらいという形になってしまいます。
③外部利用者の集客に難航
大きな資本を投下してサービス付き高齢者向け住宅を建設した場合、入居の集客に意識が向けられます。そのため、併設するデイについては、「入居者で何とかなるだろう」「サービスの内容はオープン後に考えよう」と後回しになるケースが多いのです。本来、居住空間だけでは差別化が厳しいので、併設デイのサービスがセールスポイントになるはずなのですが、外部利用者を対象としたサービス内容が考慮されていなければ、利用者は魅力を感じず外部からの集客は難航します。
こうした問題点をよく理解し、自法人ではどの様に解決していけば良いのかという視点を持って、取り組みを検討していくことが重要になります。
3.稼働率向上につなげるためのはじめの思考
サービス付き高齢者向け住宅に併設するデイサービスの稼働率を図る上で、どういったポイントを抑えるかを理解した上で、段階的に検討していくことが大切です。
まずは、併設デイという強みを活かす方法から考えてみましょう。通常のデイサービスとは異なり、デイサービス以外の入居部分についても、特長として活用していくことが、併設デイは可能となります。ハードの目線から、住宅部分との複合によるメリットを考えてみるのも一案です。
例えば、住宅部分にある「長い廊下」は、手すりに目印を付けて歩行距離を測定可能な、歩行のトレーニング場所として活用できます。ほかにも、居室部分を1室減らしてトレーニングルームとして活用し、壁をスポーツジムのように鏡張りにして機能訓練をしている事業所もあります。
また、同様に居室を活用して、入浴のトレーニングや排泄のトレーニングをしている例もあります。これらは自宅で暮らし続けるための機能訓練として、デイ利用者のニーズにも合致する良い例です。
こうした点を踏まえながら併設デイの稼働率アップの手順を考えると、以下の6つの手順を踏んでいくことがポイントとなります。
≪併設デイの稼働率アップ手順≫ |
「併設デイの稼働率アップ手順」の最初の手順3つは以下の通りです。
① コンセプトの決定
コンセプトの決定は中心となる想いを決めることであり、「どのように想起されたいか」「どのように思わせたいか」を明確にすることです。「〇〇なデイ」「〇〇なサ高住」と思ってもらえるかどうかが重要。当然、これにはハードとソフトの両面からの視点が必要です。
② 対象者の明確化
コンセプトを明確化した後は、対象はどのような人か具体的にイメージしましょう。例えば、年齢、性別、家族構成、キーマンは誰か、どのような悩みや希望、不安があるか、理想的な生活は何か、どのような時間を過ごしたいか、何がそろっていれば実現できるか、どういう設備・機能が必要か、現在の生活スタイル、何がしたい、何が好き、何がしたくない、何が嫌い、予算はいくらかといった内容です。
③ 目標設定
サービス付き高齢者向け住宅に併設するデイサービスの場合、沖縄などのやや特徴的な地域を除き、介護度にもよりますが、近年はおおよそ40~50%の入居者の利用が見込まれています。
例えば、入居の定員が30名(稼働率90%と仮定)、併設デイの定員が25名(稼働率85%と仮定)の場合、1日11~14名程度が入居者の利用で、残りの8~11名が外部利用者であると仮定して計画を立てるとよいでしょう。入居者は一人当たりのサービス利用で管理し、残った定員を外部からの利用者で売上管理をすることが望ましいのです。加えて、キャンセルの傾向などを見込んで計算する場合もあります。
【併設デイの外部利用者の計算式】 |
以上で、非常に大枠ではありますが提供サービスの方向性と達成すべき目標のイメージを設定することが可能となります。次の段階として、それを実現するための具体的な施策が求められることとなります。これらについては、次回コラムにて詳しく解説させていただきます。
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