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クリニックDX化の事例から学ぶ~成功例・失敗例②

2023.09.25

 前回に引き続き、クリニックDXについて、今回は「電子カルテ」の事例に基づき、成功・失敗の要因を探っていきたいと思います。

前回コラムはこちら ⬅

【目次】

  1. 電子カルテの運用上のよくある悩み
  2. 問診票のデジタル化
  3. 電子カルテの代行入力
  4. 書類の作成に関するタスクシフト 
  5. まとめ


1.電子カルテの運用上のよくある悩み

あるクリニックは、電子カルテを導入すると、患者から「電子カルテの画面ばかり見ていて、こちらを向いてくれない」というクレームを頻繁に受け悩んでいました。また、あるクリニックは、患者がとても多く、そのため診察時間内にカルテの記載が完了せずに、医師は残業や休日出勤をして電子カルテを入力する日々を送っていました。さらに、あるクリニックの院長は自分に業務が集中し過ぎていると感じており、もっとスタッフに業務を分担したいと考えていました。これらの事例はいずれも「電子カルテ運用」でよく見られる悩みです。なぜ、このようなことが起きてしまうのでしょうか。

 

2.問診票のデジタル化

電子カルテの運用について分解して考えると、まず「問診票」の運用について考えることになります。具体的には、紙の問診票をもとに診察を行うと、主訴(S)の電子カルテ入力を改めて診察室内で入力する必要があり、これが「医師が電子カルテ画面ばかり見る原因になっている」というケースが見受けられます。その解決策としては、「Web問診システム」の導入が検討されることになります。

しかしながら、実際、システム導入をするといくつか運用の改善が必要になります。例えば、高齢の患者の中にはスマホ操作が苦手な方もおり、すべての患者がWeb問診を使えるわけではないことが分かります。そこで、紙問診の運用も一部残すことにし、看護師と受付スタッフが手分けして電子カルテに転記する運用を追加する必要があるのです。

また、問診票は初診の患者しか運用されていないケースが多く、再診の患者の場合は、再診用にWeb問診の仕組みを改めて構築するか、受付スタッフあるいは看護師が口頭で患者に確認する必要があるのです。確認する内容として、前回受診時との症状の変化、新たな症状の出現、そして残薬の確認などです。

 

3.電子カルテの代行入力

電子カルテは「カルテの記載」と「診療報酬の算定」を医師が行うように設計されています。そのため、紙カルテのころと比べて医師に業務が集中しがちです。紙カルテのころは、診療報酬の算定業務は、医療事務が行っており、その業務が電子カルテでは追加されているためです。患者の少ないうちは、患者と患者の合間に入力することは可能ですが、患者が増えてくると、この合間が消失しますので、どうしても溢れてしまうのです。

そこで、医師の業務負担軽減のために、「電子カルテの代行入力」が検討されることになります。具体的には、受付スタッフを医療クラークとして医師の隣にコンバートするか、あらたにスタッフを雇入れるなどして、医師の電子カルテ入力をサポートする仕組みを構築するのです。

しかしながら、いざ運用に移してみるとなかなか思うようには進みません。受付スタッフは日ごろからカルテを見てはいるものの、一からカルテを書けるわけではありません。そのため、医師の隣に座っても、カルテの作成の仕方が分からず途方に暮れてしまうのです。

そこで、カルテ作成に関するトレーニングを受ける必要があるのです。具体的には、一般的なカルテ作成形式である「SOAP形式」の理解や、疾患ごとの診療の流れ、検査や薬、処置、医学管理料などのオーダ入力などについての理解が必要になるのです。

 

4.書類の作成に関するタスクシフト

また、医師にとって、紹介状や返書、診断書、主治医意見書など書類の作成も大きな負担となっています。そこで、「書類の作成」に関するタスクシフトが検討されることになります。具体的には、カルテの作成ができるようになった医療クラークが担当するか、もともと医療知識を持っている看護師やワーカーなどが担当することになります。どちらが対応するかは人員の充足状況によりますので、一概にどちらが担当するかはクリニックごとに状況が変わってきます。

いざ、書類作成を依頼したとしても、カルテの代行入力と同様に、書類の作成の仕方が分からなければ、当然できるはずもありません。そこで、書類作成に関するトレーニングが必要になります。具体的には、書類ごとに形式や記載の目的、記載内容について説明を行うとともに、過去のカルテからサマリーを作成する方法についての理解が必要になります。このサマリーの作成は文章力が必要になるので簡単に習得することはできません。過去の書類を読み込み、徐々にケーススタディ形式でマスターしていく方法がとられます。

 

5.まとめ

 今回は、電子カルテの運用を見直すことで、医師の負担軽減が図られたケースについて紹介しました。Web問診システムの導入と電子カルテのクラーク運用を行うことで、医師に集中していた業務がスタッフに分担され、診察時間も大幅に短縮し、医師が患者に向き合える環境が整いました。また、医師、看護師、受付スタッフなどすべてのスタッフが電子カルテの入力に関わるようになり、クリニックがチームとして機能するようになったことも運用変更による大きな成果です。デジタルツールは導入しただけでは大きな変化は生まれません。常にスタッフとよく相談しながら、運用の見直しを定期的に行うことが大切なのです。