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どうすれば安定的な雇用を継続できるか、スタッフ教育の重要性 (前編)

2023.12.04

【目次】

  1. 院長は常にヒトの悩みを抱えている
  2. 賃金や労働環境の改善だけではヒトの心はつなぎとめられない
  3. 魅力的な職場の2つの要因
  4. マズローの欲求5段階説
  5. 「スタッフ教育」の必要性を感じない理由
  6. 教育の基本は、「知識」「技術」「考え方」

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院長は常にヒトの悩みを抱えている

クリニックの開業以来、院長は常にヒトの悩みを抱えています。たとえば、期待していたスタッフから突然退職を伝えられたり、スタッフ間のトラブルが勃発したり、スタッフが体調不良を訴え休職してしまったり、そのたびに院長はその対応に走り回らなくてはなりません。「人は石垣」というように、クリニック経営において、安定的にスタッフを雇用し続けることは大切なのです。

賃金や労働環境の改善だけではヒトの心はつなぎとめられない

さて、どうすればスタッフの安定的な雇用を確保することができるのでしょうか。働き方改革が進む中、賃金の上昇や残業時間の短縮、有給休暇の付与など、スタッフの労働環境を整備する動きが進んでいます。ただし、いくら環境整備を行っても、それを超えるオファーがあればそちらになびいてしまいます。医療界以外に移籍してしまうケースも少なくありません。賃金など労働環境だけでは、ヒトの心をつなぎとめることは難しいのです。

魅力的な職場の2つの要因

スタッフが職場を魅力的に感じる要因は2つの側面があると言われます。1つは衛生要因で、これは苦痛を避けたいと考える欲求です。先に挙げた賃金や休日・残業、労務管理、人間関係などが関係します。特に、クリニックのスタッフは人間関係が良いことを最も大切に考えているようです。もう1つは動機付け要因で、これは満足したい欲求です。具体的には成長、達成、承認(ほめる)、責任・仲間、貢献などが関係します。

マズローの欲求5段階説

また、ヒトの欲求については、「マズローの欲求5段階説」がよく引き合いに出されます。マズローの欲求5段階説とは、人間の欲求を5つの段階に分類し、階層的に説明したものです。最も低い段階から順に、生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求があり、ある欲求レベルが満たされることで、次の欲求が現れるという法則に基づいており、アメリカの心理学者アブラハム・マズローによって提唱されました。

この理論に則れば、この欲求レベルの上位に上がれば上がるほど、スタッフの心をつなぎとめることに有効であると考えるのです。最も上位に位置する自己実現要求は、自分の持つ能力や可能性を最大限発揮したいことですので、クリニックという職場をスタッフ自らが成長、達成できる環境にする必要があるのです。昨日の自分より今日の自分が成長し、そして未来の自分の成長が想像でき、達成していることを実感させる必要があるのです。



マズローの欲求5段階説

「スタッフ教育」の必要性を感じない理由

クリニックが安定的な雇用を継続するためには、「スタッフの教育」は最も重要な活動であると考えます。教育を通して、スタッフの能力開発のサポートを行うのです。

しかしながら、クリニックで教育や勉強会があまり行われていないように感じます。その理由は、クリニックは経験者採用が主流で、即戦力になる人材を求める傾向にあります。そのため、院長もスタッフ自身も教育の必要性をあまり感じないのかもしれません。

一方で、新卒採用を積極的に行っているクリニックも存在します。それらのクリニックは経験者を採用するよりも、1から教育して1人前に育てる方が、雇用の安定に寄与することを経験的に知っているのです。初めての職場で育てられた「謝恩」は、ヒトの心のつながりにおいてとても重要なのです。子供が育ててくれた両親に感謝する気持ちと同じ理由です。

教育の基本は、「知識」「技術」「考え方」

 教育の必要性が理解いただけたところで、どんな教育を行えばよいのでしょうか。教育の基本は、「知識」と「技術」と「考え方」を三位一体で教えることです。「知識」とは、業務に必要な内容を知っていることであり、「技術」とは、その業務を実行できることであり、「考え方」とは、その業務の意味をしっかり理解していることなのです。中でも最も大切なのは、「考え方」であると感じています。

例えば、受付の保険証を確認・登録するという業務を例にあげれば、受付スタッフは保険証の確認・登録の仕方を知っており、実行に移すことができるだけでは片手落ちと言えます。「なぜ、保険証の確認・登録が必要なのか」その意味をしっかりと理解する必要があるのです。そのためには、医療保険制度の仕組みを理解する必要があるのです。ここを教えなければ、業務は単なる作業になり、間違えても、指摘しても、それがどれだけの問題なのかを理解できないために、同じ間違いを繰り返してしまうのです。例えば、保険証の確認・登録が不十分な場合、レセプトの返戻や患者への確認、修正処理などが発生します。また、結果として後工程を想像できるようになることで、丁寧な対応ができるようになるのです。

(次回に続く)