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どうすれば安定的な雇用を継続できるか、スタッフ教育の重要性 (後編)

2023.12.11

 クリニックにおいての「スタッフ教育」はOJTOn Job Training)が主流です。日ごろの業務の中で、先輩がお手本を見せ、後輩はそれを見て真似ることで覚えるという方式がよくとられています。忙しい業務の中で、スタッフ教育に時間がとれないことや、そもそも他のクリニックで職務経験のあるスタッフが対象であり、一通り分かっているスタッフに対しては、この方法が合理的であると考えられてきたのです。しかしながら、この方法では社会人経験のない新卒のスタッフにとっては習得までにハードルの高い方法であったのかもしれません。この方法では、その業務は何のために行っているのか、という本質が分からないまま業務を習得してしまうという問題があるのです、

【目次】

  1. 教育の本質は「考え方」を教えること
  2. どんなテーマが良いか
  3. 理念・クレドに関する研修
  4. 医療知識(疾患・検査・薬など)に関する研修
  5. ラーニングピラミッドとは
  6. まとめ

前編コラムはこちら ⬅


教育の本質は「考え方」を教えること

教育の本質は、「考え方」を教えることです。何のためにその業務を行うのか、そのメカニズムを教えてから、業務上必要な「技術」をマスターしてもらう方が、応用がきき、臨機応変な対応ができるようになるのです。「技術」だけを教えてしまうと、ワンパターンな対応しかできず、イレギュラーな事態が起きた際に戸惑ってしまうのです。スタッフが「考え方」を理解していれば、あとは繰り返し練習することで、「技術」は、時間がかかるかもしれませんが習得できるのです。

これは、医療クラークを育成する際にも同じことが言えます。「クラーク研修を受けたら受付対応が変わった」という声をよくいただきます。医療クラーク研修では、最初にカルテ(診療録)の意味及び役割やクリニックの全体の流れを教えてから、クラークの技術を教えるようにしています。この研修を受付スタッフが受けることで、受付業務の後工程である、診察、検査、処方、処置といった工程が理解でき、受付業務に対する考え方も変わるのです。受付業務は何のために行っているのかという本質が理解できることで、受付スタッフはクリニック全体の流れを考えて、受付対応を行うようになるため、対応が変わるのです。

どんなテーマが良いか

さて、どうすればスタッフの安定的な雇用を確保することができるのでしょうか。働き方改革が進む中、賃金の上昇や残業時間の短縮、有給休暇の付与など、スタッフの労働環境を整備する動きが進んでいます。ただし、いくら環境整備を行っても、それを超えるオファーがあればそちらになびいてしまいます。医療界以外に移籍してしまうケースも少なくありません。賃金など労働環境だけでは、ヒトの心をつなぎとめることは難しいのです。

魅力的な職場の2つの要因

クリニックは開業時に、どんなクリニックにしたいかという思いをまとめて「理念」を作ることが一般的です。そして、理念を行動指針に落とし込んだものがクレドです。理念やクレドは、クリニックのミッション、バリュー、ビジョンといったものが盛り込まれており、このことを理解することで、全スタッフが正しい考えのもと正しい行動が生まれるようになります。

 理念・クレドは繰り返し復唱して覚えるだけでは、空念仏になってしまい、実際の行動変容にはつながりません。実際の行動に落とし込むためには、理念と実際の行動を一致させる試みが必要なのです。

研修の流れとしては、まず院長自らが理念に込めた思いを、開業時からこれまでのことについて、具体的なエピソードを交えてスタッフに話します。その後、今度はスタッフに、理念に基づき行動した出来事を思い出してもらい、グループに分かれて話し合い、その後発表してもらうと良いでしょう。これを定期的に行うことで、クリニックの全スタッフが一丸となって事に当たる、クリニック運営に全スタッフが関わるといった「風土」が醸成されるのです。

医療知識(疾患・検査・薬など)に関する研修

医療は患者の訴えに対して、診察や検査を行い、検査結果に基づき治療方針を決め、実行するという流れで成り立っています。疾患、検査、薬・注射・処置は三位一体で構成されています。この流れを疾患ごとに教えることで、クリニックの診療の流れを理解することができるようになります。

 研修の流れとしては、「外来診療ガイドライン」などを用いて、よくある疾患について理解を進めていくことになります。医師や看護師など流れを分かっている方が講師を務めることから始めるのですが、慣れてきたらスタッフもガイドラインを読んで理解し、持ち回りで研修講師を務めることで、理解が大幅に進みます。この方法は、ラーニングピラミッドに基づき提唱されている方法です。

ラーニングピラミッドとは

ラーニングピラミッドとは、学習方法と学習定着率の関係をピラミッド型の図で表した理論です。アメリカ国立訓練研究所(NTL)が学習活動の概念として研究したもので、7つの学習方法を学習の定着率順に並べたものです。講義を受けるだけでは、定着率は5%に過ぎませんが、スタッフが講師をすることで定着率は90%まで上昇するのです。

まとめ

クリニックがスタッフ研修に取り組むことで、職場は自己の能力を最大限伸ばしてくれる場所、自らを育ててくれる場所であるという理解が進みます。その結果、スタッフの定着率が向上し、スタッフがやめにくい組織ができるのです。スタッフ研修を始めるのはなかなか骨の折れることですが、始めてみると意外にスタッフが学習欲に飢えていたことが分かります。今回、2つの研修テーマをご紹介しましたが、それ以外にも個人情報やサーバーセキュリティ、システムなど、クリニックにとって必要な研修はたくさんあります。今後はそのような内容についてもご紹介していきたいと思います。