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介護事業所の収支改善施策②
2021.12.02
介護事業所の収支改善施策②
株式会社スターパートナーズ 代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム 代表理事
脳梗塞リハビリステーション 代表
MPH(公衆衛生学修士)
齋藤 直路
- 「②変動費を減らす視点」と「③売上を増やす視点」を考える
前回のコラムでは事業所の収支改善をおこなうために、まず固定費の見直しをおこなうための考え方について解説させていただきました。今回は変動費を減らす視点と売り上げを増やす視点について解説させていただきます。
まず、変動費についてです。変動費として一番考えやすいのは、食材原価やオムツ等の消耗品となるのではないでしょうか。仕入れ先の変更等により原価そのものを削減する方法が考えられます。また、介護グループとして事業規模が拡大していくことで、スケールメリットを生かして仕入れ先と交渉をおこなうといったことも考えられます。事業展開によるシナジーを生み出すという観点では、配食事業のフランチャイズに加入することで、レトルト食品を代理店として卸値で仕入れるといった方法もあります。
変動費については、より安い仕入れ先を見つけるといったことに考えがいきがちですが、提供している商品のクオリティ等は、提供サービスのクオリティそのものにつながるケースが多いので、一概に安ければ良いということにはなりません。ただ、仕入先との関係や自法人の状況により、様々な工夫をすることが可能となっています。
売上に関しては「客数×客単価」の考え方をご紹介しました。「売上アップ」を考えるとすると、「客数の増加」つまり稼働率の向上や定員のアップ、「客単価の増加」つまり基本報酬アップ、加算の取得、その他の売上の付加等が考えられるというわけです。具体的には、売上目標の設定とその達成に向けた話をスタッフがしているか、時間の延長・加算の取得等により介護保険収入の最大化を検討しているか、新たに加わった取得可能な加算を確実に算定しているか、等を確認することになります。
- 「客数」について考える
「客数」、つまり利用者の増加についてご説明します。介護事業所の場合、居宅介護支援事業所などへ挨拶に回り自社の特長を説明、ケアマネジャー等と関係を深めながら、利用者の紹介をしてもらうというのが一般的ではないでしょうか。紹介については、訪問をすればすぐに紹介をしてもらえるというものではなく、時間をかけてしっかり信頼関係を築いていくことが重要です。紹介後は、紹介していただいたプランの方の毎月の定期的な報告等、密な関係を構築する必要があります。
地域によっては膨大な数の居宅介護支援事業所等があり回り切れないという声も良く聞かれます。その場合は、ABC分析等に代表される優先順位付けをすると良いでしょう。
具体的には、縦軸に「紹介の可能性のある・なし」、横軸に「紹介実績のある・なし」の2軸で考えると良いでしょう。ここでいう紹介可能性のあるなしは、対象となる居宅介護支援事業所で同一のサービスを持っているかどうかが一つの判断基準になります。同一とは単純に“通所介護(デイサービス)”を運営している、ではなく、同一の特長を持っていて、対象者(軽度か重度等)が同じかどうかの確認が必要です。同一であれば同じグループのサービスを紹介することが多く、優先順位を下げても良いと考えられるでしょう。
「ABC分析による営業先の優先付け」(スターパートナーズ社制作)
最も優先順位の高い(A)は「紹介の可能性があり×紹介実績のある(第一象限)」の居宅介護支援事業所になります。次に優先度の高い(B)は、「紹介の可能性があり×紹介実績のない(第二象限)」の居宅介護支援事業所になります。この事業所は、定期的に何度も足を運び自社の特長を説明し、また一度来てい頂いたりしながら、信頼関係を構築し紹介につなげたい事業者です。「紹介の可能性がない×紹介実績のある(第三象限)」の居宅介護支援事業所は、ケアマネジャー個人との信頼関係が構築できている場合が多いです。この場合も引き続き信頼関係の構築に努めていきましょう。優先順位の最後は「紹介可能性がない×紹介実績のない(第四象限)」の居宅介護支援事業所等です。この事業所は優先順位を落とし、数か月に1度の訪問やFAXでの案内に切り替えると良いでしょう。
このように優先順位を決めて取り組むことで効率的に地域からの紹介が得られるのではないでしょうか。
- 客数を増やすためのサービスのポイント
「客数」アップは、自社の長所を構築し、サービスの価値を可視化し伝え、地域にPRすることが重要です。現在の新型コロナウィルス感染症禍においては、PR活動はオンライン等工夫して取り組むことになるでしょう。また、客数アップには「①長所の確立」「②対象者の中重度化」「③連続的なサービス設計」が重要になります。
①長所の確立
地域の数あるサービスの中で「自社にしかできない強み」を持つことが基本原則となります。「●●のお客様は●●デイサービス(自社)が一番」とケアマネジャー等に想起される事業所を目指すことが第一歩です。
②対象者の中重度化
介護報酬改定動向を鑑みると通所介護(デイサービス)に求められているもの、中重度者向けのサービスではないでしょうか。中重度者の受け入れには、送迎・入浴・人員体制・食事・排泄介助等の新たなオペレーションが必要になるでしょう。認知症ケア等の地域で求められるサービスの深化にぜひ取り組んで頂きたいと考えています。
③連続的なサービス設計
介護サービスを利用した結果の可視化と、連続したサービス設計は、キャンセル防止に良い影響があります。例えば、定期的な測定や中期の機能訓練計画、創作などです。ご本人だけでなく、ご家族にも知っておいていただくとより効果があるでしょう。例えば、利用者の運動量低下が1ヶ月以上になると身体機能に大きな低下が出ることが予想されること、利用しない場合も自宅でできる運動や心がけなどをお伝えしておくなど、普段から、お伝えすることで、中長期的にはキャンセル防止になります。
- 「客単価」について考える
客単価については、以前にも述べたとおり、介護保険制度の流れをみると、「中重度化への重点化」「ADL維持加算等にみる自立支援の推進」「栄養、医療、看護等の周辺領域との連携」は避けられない流れとなりますので、是非、早めに取り組んで頂きたいと考えています。
また、基本報酬のアップという視点もあります。基本報酬の向上は対象者の中~重度化による平均介護度の上昇、もしくは、サービス提供時間の延長等が考えられるでしょう。例えば、軽度者を中心とした機能訓練型の通所系サービス等は、地域でも軽度者向けと認知されていることが多いです。もし対象者を拡大し、中~重度者も範囲に含めるとしたら、前出の営業やリニューアルの内覧会等を中心としたPRを実施する必要があります。その他、受け入れの為に看護師の配置、オペレーションの見直し、リハビリ職の採用等、大幅なサービスの変更が必要となります。
加算の取得については、「取り組みの時間がない」「費用対効果が見えない」という理由で算定していない加算は見直しが必要です。今後、介護報酬は複合的に加算を算定することにより、より高い評価を受ける流れになる可能性が高いでしょう。例えば、介護職員等特定処遇改善加算はサービス提供体制強化加算を算定することで上位区分が算定できます。また、令和3年度介護報酬改定においては、LIFEへの届出を前提として算定できるよう多くの加算が変更され、これも将来的には科学的介護推進体制加算との関係が生じることが想定されます。この様に、複数の加算を算定したり、特定の要件を満たすことで、今後算定できるという加算が増えていくことが考えられます。このことから、例えいまはあまり大きな加算額でなくても、取得しておくことが将来的に生きてくるということが考えられます。前出のとおり、業務オペレーションをチェックした上で、整理・効率化することで業務を見直し、その上で、決して高くはないと思われる加算一つひとつを、丁寧に算定していくことが重要と考えています。
その他にも、近年は、保険外サービスと連携することで売上アップを実現している例もあります。
「保険外サービス」について簡単に説明します。介護事業において、保険外のサービスとの連携については、「サービス付き高齢者住宅」が最も分かりやすい例です。住宅部分の家賃、管理費、水光熱費、その他の余暇サービスは保険外の自由なサービス・価格設定ができ、入居者が訪問介護・通所介護等のサービスを利用することもできます。
サービス付き高齢者向け住宅に限らず、通所介護(デイサービス)・訪問介護の利用者の中には、配食事業、家事代行サービス、自費のリハビリサービス等を併用している方も多数います。これも保険外のサービスと言えるでしょう。つまり、古くから、介護保険と保険外サービスは密接に地域を支えてきました。
弊社が国内外で運営する自費のリハビリサービス、「脳梗塞リハビリステーション[ⅰ]」においても、お客様の半数が介護保険サービスと併用し、中にはケアプランに記載してもらっている方もいらっしゃいます。もちろんカンファレンス等にも参加しています。他にも、士業と連携しサービスを提供している事業者もあります。今後、多様な保険外サービスが創出され、介護保険内・保険外サービスの両方を組み合わせて地域の方を支援する時代になりつつあるでしょう。
これまで介護事業における収支改善について「①固定費を減らす視点」「②変動費を減らす視点」「③売上を増やす視点」の3つの視点で検討してきました。経営の参考になれば幸いです。
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