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オーバードーズとどう向き合うかNEW

2024.11.19

 

日本薬剤師会と東京都薬剤師会は101日、警視庁・くすりの適正協議会(RAD-AR)からなる4団体で「児童・生徒の薬物乱用防止に関する覚書」を締結し、締結式を行った。また、RAD-ARは、オーバードーズ(OD)についての啓発資材を公表した。
https://www.rad-ar.or.jp/knowledge/post?slug=overdose

この資材は「友達や家族、教え子が依存症かもしれない」、あるいは自分自身が薬物依存かもしれないという場面で、まず落ち着くこと、安心することを訴える内容となっているパンフレットで、PDFA4サイズで印刷して配布することができるようにデザインされている。これと類似するものとしては、薬局には馴染みのある「ダメ、ゼッタイ」のポスターがある。こちらは大麻をはじめとする違法薬物を念頭に置き、薬物依存への嫌悪感、忌避感を最大限に惹起する効果を目指したデザインとなっているため、合法な市販薬をきっかけとした薬物依存を念頭においているRAD-ARのデザインとは印象が異なる。違いを一言でまとめると、「ダメ、ゼッタイ」アプローチの核心が「摘発」なのに対してRAD-ARのアプローチは「ダメなんて言わないよ」であり核心が「ケア」だという点だろう。

一見すると、両者のアプローチは対象となる薬物そのものや、依存が起こる前か後かといった点で明確に線引きできそうなものだが、実際にはそれほど単純な話ではないように筆者には思われる。

筆者の地元のある薬局は、LINEのオープンチャットで一般からの薬の相談を受け付けている。別件でこのツールの応用についての議論になった際に、その経営者から「プラットフォームの運用イメージについて参考になれば」ということで誘ってもらい、それ以来参加している。そこの薬局の薬剤師が管理人となって回答するため、筆者は閲覧に徹しているのだが、眺めていると匿名性の気軽さゆえか、多岐にわたる質問が寄せられる。先日も、「ODに興味があって試してみたい」という相談が寄せられた。文面から察するにあまり年齢は高くなさそうだったのだが、それに対する管理人の回答は「ここでは相談に乗ることはできない」というもので、また他の参加者からは「これ以上発言すると通報する」という警告が発せられ、相談は終わった。薬剤師は普段から薬物依存関係のイベントに参加することも多く、「ダメ、ゼッタイ」アプローチを第一選択とすることが多いのかもしれないが、このような状況で「ダメ、ゼッタイ」アプローチではなく「ダメなんて言わないよ」のケアのアプローチをとることができないものか、モヤモヤした感覚が残っている。

厚労省は「一般用医薬品の乱用(オーバードーズ)について」というサイトを設けている。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/index_00010.html

この中で、

3.「オーバードーズ」をしてみたい気持ちになったら
オーバードーズに興味を持ったのはなぜでしょう?
もしかして、つらい気持ちや、嫌なことがあったり、なんだかもやもやしていたり…そんな気持ちや生きづらさをオーバードーズで変えられる、と思ったから?
もし、そうだったら、危険なオーバードーズより、つらい気持ちや嫌なことを誰かに話してみたり、困っていることを相談してみたりすると、そんな状況が少し変わるかもしれません。

といったメッセージを発している。以前の記事(*)でも論じたことなのだが、薬物依存に対して医療者が持ち得る「どうケアするか?」という視点が軽視され、論点が「どう販売を規制するか?」と矮小化されてしまっている。薬局に必要なのは、上の厚労省のサイトに書かれているような「ODに興味を持ったのはなぜか?」という点に関心を持つことだと筆者は考える。

別件になるが、TVでは医療用医薬品を明示的に宣伝することができないため、「コレコレの症状のある人はお医者さんに相談しましょう」という形の広告が流れる。このような手法を”Direct To Consumer AdvertisingDTC広告)と呼び、メリットとデメリットが指摘されているのだが、それはともかくとして、これらのCMの中では、患者が医師におずおずと相談すると、医師が「相談してくれて良かった」とまずは反応する。この一言は、薬局でも応用できるのではないだろうか。

*「咳止めをどう売るか」


 

 

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筆者:薬事政策研究所 代表 田代健

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