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最低賃金上昇で使える業務改善助成金NEW
2025.06.24
政府は、最低賃金を1,500円以上にする目標時期を「2030年代半ばから、2020年代迄の達成」にはやめました。2029年迄に1,500円達成するならば、毎年100円近く(7.3%以上)の最低賃金引上げが必要であり、人件費がどんどん高まることが予想されます。
会社は、経営環境が圧迫される方向になってしまいますが、助成金や補助金を上手くやりくりし、賃上げだけでなく、利益上昇の両立ができるようにコラムでまとめました。
最低賃金引上げを「経費負担増だけ」にせず、助成金の活用術にしたい方。 |
【目次】
(1)最低賃金は毎年引上げられる
最低賃金は、コロナ後に凄い勢いで引き上げられています。全国平均では2023年度1,004円から2024年年度は1,055円となり、50円以上の上昇となりました。
2024年度は、すごい引上げ額でしたが、現段階の政府発言を参考にすると、2025年度も同じかそれ以上の上昇が見込まれます(政府目標に届くように計算すると、7.3%の賃上げ/年。金額では今年は77円の引上げ幅になります。)。最低賃金は例年6月下旬から議論が始まり、8月上旬に本決まり(答申)します。また、開始日(発効日)は10月上旬で、賃金を新最低賃金以上にするように定められます。
・6月下旬頃には、おおよその上昇額が新聞で見えてきます。そのタイミングで自社の人件費がどの位の経費負担が増えるのか確認しましょう。最低賃金が増えれば、他のメンバーの賃金も上げることになります。例えば、最低賃金が時給50円上昇とすれば、フルタイム(170時間)勤務では、年間102,000円の賃上げです。そのため、総人件費は、(102,000円)×(人数分)が増える計算になります。 |
(2)最低賃金上昇に効果的に使える業務改善助成金
薬局で考えてみましょう。調剤事務の相場は最低賃金相当です。今回紹介する業務改善助成金は、都道府県の最低賃金から50円以内の差であれば、条件を満たします。そのため、多くの薬局で使うことができるのではないでしょうか。
(例)地域別(都道府県別)最低賃金が1,000円の場合
賃上げ前事業場内最低時給 |
業務改善助成金 |
1,050円以内 |
対象となる |
1,051円以上 |
対象とならない |
業務改善助成金は、最低賃金に近い労働者の賃上げ表明を求めるかわりに、店舗の生産性(効率性)を上げる投資の3/4~4/5を支援(上限はあり)するものになります。賃上げは、今回取り上げている最低賃金引上げに絡むパターンでも条件を満たせば、支援を受けられます。なお、投資の支援についても幅が広く、医療機器、付加価値を高める研修など縛りが比較的緩く使いやすいです。例えば、電子薬歴のクラウド型を導入したり、社員研修費として使うことも可能です。
・多額のお金を貰える補助金や助成金の多くは、税金を使用する医療保険や介護保険収入に使う機器の購入資金として獲得できません((例)ものづくり補助金)。しかし、業務改善助成金は、条件を満たせば受け取ることができるため、貴重な助成金となっています。 ・この助成金は条件を満たし同じ年度でなければ、繰り返し獲得することができます。過去年度に獲得済みの薬局でも狙っていけます。 |
(3)業務改善助成金の獲得方法
助成金の原資は、雇用保険からきています。そのため、考え方として雇用される人が守られている会社でなければなりません。具体的には、直近に解雇や賃金引下げなどがなく、就業規則などが定められていることが原則必要となります。なお、助成金額は、賃上げする額と事業場内(店舗等)賃上げ人数により上限額が決まっています。
例)事業場規模6人、事業場内最低賃金1,000→1,060円に引上げ、引上げ該当者3名
→60円コースの2~3人のため、助成金額の上限は160万円となります。
複数店舗ある会社は、この金額を事業場毎(店舗毎)に条件を満たせば獲得ができます。
・助成金額は、合計額で計算できますので、複数の商品やサービスを盛り込めます。大型の医療機器だけでなく、調剤を補助する数万円の器具や研修等も組み合わせて行うことで、店舗にあった設計をすることが可能です。 ・助成金額の上限は重要ですが、「あれば良いレベルのものは入れず、本当に価値なるものだけにする」のが、良いと思います。なぜならば、助成金を獲得しても、薬局からも部分的には手出しが必要です。中途半端に欲しいレベルのものは、無駄な経費になることが多いため、ご注意ください。 |
(4)業務改善助成金獲得のタイムスケジュール
業務改善助成金獲得のタイムスケジュールは、最低賃金引上げ額を参考にしながら適宜進めるため、綿密に立てる必要があります。
著者作図
お勧めは上図のように、最低賃金引上げ額の目安がわかる段階で、会社は賃上げ額を意思決定をし、社労士相談や購入する商品やサービス選択を行います(助成金申請する時には、業者の相見積もりが基本になりますので、複数社に声掛けをしておきましょう。)。就業規則に賃金規定における金額を追記や賃金台帳の用意等が必要になるため、顧問社労士にも協力を仰ぎましょう。次に、購入する「商品やサービスを使うことで薬局の生産性が上がる旨の助成金申請書」を作る必要があります。申請書は、購入する商品やサービスを通じ、既存従業員の生産性を上げることを記載してください。申請書の提出が終わり申請に合格しましたら、賃上げ実施や商品の購入を進めていきます。
なお、以下の点は特に注意をしてください。
- 商品の購入は、助成金申請書の承認(採択)が通るまで進めてはいけません。
- 賃上げは新最低賃金スタート(おそらく10月頭頃)する前でなければなりませんので遅れないように注意してください。
・薬局で生産性を高める取り組みといえば、処方箋単価向上や処方箋枚数増加でしょう。医療機器等の購入資金に充てたい場合には、社員の労働時間を減らすだけでは生産性につながらないため、それだけで終わらず以下のようなことも追記しましょう。『従業員の手が空いた●●時間を対人業務へ繋げ、処方箋単価を○○円上昇させる。』又は、『個人宅営業として、顧客開拓に●●時間を充てて、新規処方〇〇枚増やす。』等の生産性が上がることを書くようにしましょう。 |
最後になりますが、最低賃金上昇が毎年行われているため、中小企業では、助成金や補助金の活用を知るか知らないかは大きなポイントになってきています。理由は、助成金や補助金の採択を受け振り込まれれば、その金額は営業外収益となり、経常利益にそのまま上乗せされますので、大きなインパクトとなります。この機会に是非獲得をお勧めします。
なお、抜粋して助成金の概要を書いていますので、詳細は厚生労働省の資料のご確認をお願い致します。弊社でも、「地域支援体制加算を取るためのオンライン講座」を企画しています。ご希望をされる方は、私のプロフィールにあるLINE公式アカウントをご登録頂ければ、7月中に商品のご案内させて頂きます。この機会に、助成金を有効活用してみてください。
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筆者:鈴木 素邦 有限会社クラヤ代表取締役 城西大学薬学部非常勤講師
1980年生まれ、千葉県出身。城西大学薬学部卒業と同時に薬剤師免許取得。
薬局薬剤師の経験を経て、専門部署を持てない中小薬局向けのコンサルティング会社を立ち上げ、「お客様の思いをカタチに」をモットーに中小薬局経営者の右腕になれる存在を目指している。特に、1店舗からでも喜ばれるサービスはゼロからの地域支援体制加算の算定、数店舗経営会社からは人材マネジメント、大手企業からは、マネジメント研修が好評。
書籍:その1錠が寿命を縮める薬の裏側
YouTube:薬剤師そほうの薬局経営塾(調剤報酬改定など発信)
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