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通所介護(デイサービス)の生き残り戦略③
2021.12.08
通所介護(デイサービス)の生き残り戦略③
株式会社スターパートナーズ 代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム 代表理事
脳梗塞リハビリステーション 代表
MPH(公衆衛生学修士)
齋藤 直路
- 定期測定導入のポイント
前回のコラムでは定期測定の重要性とそのデータの活用方法についてご説明しました。しかし、現状の事務処理に加えて、実際にこれらを実施するのはとてもできないのでは・・・とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん、スムーズに測定をおこないデータをまとめていくには、いくつかのポイントがあります。定期測定を継続して実施し、正しく分析をおこなっていくためのには、
①日常業務の中で測定と入力をおこなえる体制作り
②ワンクリックで出力のできる仕組み(作業の効率化)
③期間を設定すれば、事業所全体の成果を可視化・出力できる仕組み
といったポイントを抑えることが大切です。注意点としては、測定や記録に関するプロセスが増えると、現場のスタッフとしては「そんな余裕はありません」というような意見が出てくることがよくあります。そういった際には、測定や記録の時間を業務時間内に取り込むために、現在の業務のオペレーションの見直しが必要です。
オペレーションの中で必要性の低い業務に手をかけすぎていないか、自動化できる部分はないかなど一度棚卸ししてみましょう。その後は測定データさえ、適切に入力されてさえいれば、簡単に出力でき、測定結果を分析できるような仕組みを始めに作り込んでいれば、比較的容易に分析をおこなうことができます。Excel等の表計算ソフトを用いて、数値等を入力すれば結果が自動的に出力される仕組みを作りましょう。更にその結果がグラフ等で可視化されるものだとなおよいです。ご利用者様の状態がどのようになっているかを成果として見える化することで、新規のご利用者へのアプローチやケアマネなどへの情報提供することで事業所のブランディングとなっていきます。
ただの通所介護(デイサービス)では選ばれない、「歩行に特化した機能訓練が特長の通所介護(デイサービス)」など、「〇〇が特長の通所介護(デイサービス)」でないと選ばれない時代になってきています。反対に、成果が見える通所介護(デイサービス)はそれだけで非常に強みになります。事業所単位でのブランディングについて改めて考えてみてください。
- 成果報告会を企画する
成果を見える化・ツール化を通じてブランディングをより効果的なものにする方法がもう一つあります。それは、事業所にケアマネジャーなどを招いておこなう成果発表会です。ツールだけでは伝えきれないより深い取り組みの解説や、動画を使った改善の成果の比較など、紙だけでは伝えきれない情報を、しっかりと時間を作って解説していきます。
まず、報告会をおこなうのに必要なのは、実際にその場へ情報を伝えたい方々に足を運んでいただくことです。対象は、主にケアマネジャーや病院関係者などになるでしょう。その方々向けに成果発表会実施をお知らせするチラシを手渡しで配布し、実際に足を運んでいただくよう促します。チラシの構成としては、イベントの告知、デイでの取り組みの内容(写真付き)、当日のスケジュールなどを掲載します。
スケジュールに関しては、もし、通常のデイルームとは別に5名以上の参加者を受け入れられる設備があるならば、11時頃からの開始にするのがベストです。というのは、実際の機能訓練の現場をご覧いただいたり、ランチの試食をおこなっていただきたいからです。昼食はどなたも摂られるので、来所のハードルを下げる効果があります。「機能の維持改善と利用者のQOLに重要な影響を与える食事はとても重要だと考えております。当日は、ご参加者の皆様にご試食いただき、ご意見をいただければと思います」という内容でお誘いしましょう。
これらのプログラムをあてはめていきながら当日のオペレーションを想定しながら時間割りをおこない、実際のスケジュールに落とし込み、チラシに入れましょう。ランチの食数の準備の関係があるので、事前の申し込みが必要である旨も記載し、FAX送信できる申し込み欄も作成します。予約制にすることで、直接手渡しをおこなった方への確認の連絡を入れやすくなります。
ただ、事業所によっては、報告会専用のスペースをとることが難しい事業所ももちろんあるかと思います。その場合は、昼時は難しいので、通所介護(デイサービス)の営業終了後等に時間を設定しましょう。予約制にすることは同様です。しっかりチラシを配布しながら参加者を募集することと同時並行で、報告会の中身を作っていきます。
- 成果報告の内容
報告会は、施設見学とプレゼンテーション、そして可能であるならば試食の大きく3つのフェーズに分かれます。施設見学は、営業時間中には実際の活動や工夫を、例えば機能訓練が特長ならば機能訓練を、参加者にご覧いただきます。営業時間外で利用者様がいない場合は、実際に機器などを使って体験していただく方法が良いでしょう。体験した内容は他者に伝えやすくなるからです。
その後、プレゼンテーションの時間を取ります。これは、先ほど見学した内容を改めて体系的に解説するとともに、その結果としてどの様な成果を挙げることができたか、具体例を交えながら紹介していくものです。身体機能、認知機能、栄養状態等、それぞれ指標化できるものがある場合は、事業所全体の平均と特に成功した事例を紹介します。それぞれ、グラフなどで可視化するとともに、個別の事例は、介入前と介入後の写真を比較すると効果的です。定量化が難しい情緒面の評価などは、ご本人やご家族などに事前にアンケートを実施して、それを指標として上記の様に表現しましょう。個別の事例を取り上げることはもちろん効果的ですが、全体的に良くなっているということは、客観的に目に見える形にすることで説得力が増します。
そして試食を行える場合は試食後、難しい場合はプレゼンテーション後に、参加者からの質疑応答と、最後にはアンケートを実施し、感想や気付いた点、いまのお困りごとなどをお聞きしましょう。特に、この時にご要望や質問、提案などがでたときは、しっかりそれをメモし、後日レポートなどにしてフィードバックすることが重要です。意見の交換や汲み上げは、自事業所の成果報告を通じたブランディング以外にも、信頼関係を作り上げるという成果も期待できます。報告会を実施する場合は、是非、取り入れていただければと思います。
- 通所介護(デイサービス)の生き残り戦略
これまで「通所介護(デイサービス)の生き残り戦略」について解説をしてまいりました。これまでのまとめと振り返りをしてポイントを再確認していきます。
<①特長を棚卸する>
「社会的孤立の解消」「心身機能の維持」「家族の負担軽減(レスパイト)」といった要素が基本的な機能に加え、近年では「認知症ケア」「中重度ケア」「機能改善」「栄養改善」等の機能もまた、加算などで評価されるようになってきていること、それらに沿った形での質の向上や差別化の戦略が必要であるとの考え方を解説させていただきました。「機能訓練」ならば、専門職の配置の人数や、身体機能の維持・改善をした利用者の割合、「レスパイト」や「認知症ケア」ならば認知症介護実践者研修等の修了者の人数、加算を算定しているか、学習療法や回想療法などの専門プログラムの導入など、成果や専門性を具体的な内容や数値を交えながらPRできる形にするのが良いということをお伝えしました。
<②ツールの作成と営業>
毎月配布するチラシと、綿密にサービス内容を解説するアプローチブックの整備をご提案しました。チラシでは「メインターゲット」「強みとその根拠」「報告事項」を盛り込むことをお伝えしました。
「メインターゲット」「強みとその根拠」では①で棚卸した通所介護(デイサービス)の特長を、「報告事項」では「●●さんが加わりました!●●という経歴を持っていて、●●が得意です!」「新プログラムを開始しました!」といった事業所の動きを伝えます。こうすることで、マンネリにならないようにしながら、しかし伝えたいことは繰り返し伝えることができます。アプローチブックは、興味を持った方の体験利用や契約を促す“クローザー”の役割を持っています。
「①一言で表現するコンセプト」「②デイのこだわり・特長」「③ご利用者の声」「④利用料金」「⑤体験利用の案内」という流れでコンテンツを作成し、デイの内容に十分に興味を持っていただいた上で、その流れで⑤を通じて体験利用に結びつけるという構成にすることをお伝えしました。営業では「①同じ事業所で面識のないケアマネジャーの情報を取得する」「②来所したことのないケアマネジャーに来所いただく」「③ご利用者の情報共有」を通じて、単純な訪問ではなく、ケアマネジャーとの関係性の構築を主に置いた活動の重要性について解説しました。
<③事業所運営の本質>
後半は「自立支援」を例にしながら、通所介護(デイサービス)の運営で重要な考え方について解説させていただきました。より良いサービスを提供していく上で重要なことはPDCAを回しながらサービス内容の点検、改善をおこなっていくことであり、そのためにはまず「計測(モニタリング)」が必要であるということをお伝えしました。今後、アウトカム評価が介護事業に広がっていくという観点からも、これは重要なポイントになります。
次に、そこで測定したデータをどの様に活用するかについて解説しました。測定結果は大きく「利用者様個人の測定結果を確認する」「事業所全体での測定結果を確認する」という方向性で活用が可能です。前者は、ご利用者様お一人おひとりの状態やその変化の確認をおこなうために活用し、特にご利用者や関係者間での情報共有に、データの報告という形で役に立ちます。後者は、事業所全体のご利用者様の経過をまとめることで、自分たちの目指す介護をおこなっていく上で、きちんと出したい成果を出せているか、出せていないとしたら何が原因なのかを、全体的な推移から解き明かすために活用できます。測定が煩雑にならないよう、表計算ソフトなどを活用して自動出力できることの需要性についてもお伝えしました。こういった結果をまとめ、成果報告会として専門職に伝えることで、自事業所のブランディングにつなげるコツも解説させていただきました。
本記事では、通所介護(デイサービス)の生き残り戦略について解説してきました。是非、事業所運営においてもお役立ていただければと思います。